第69話


 サラディアナの返答にザントはヒューと口笛を吹いた。



「珍しい事もあるもんだな。今日はあいつがセドのおもりか?」

「どうやら、セドリックが部屋に閉じこもって出てこないようで」

「....ああ」



 サラディアナはキエルと会場に到着してから少し経った時のことを思い出した。

 魔道具技師長のジェルマ・ズワークが2人に声をかけてきたのだ。

 なんでも、セドリックが部屋のドアに魔道具を仕込んで誰も中に入れないようにしたらしい。

 サラディアナの仕事中は普通にドアが空いたので、恐らくサラディアナが外に出た後だろう。

 確か数日前にアシルバード殿下直々にパーティーの強制参加が決定していたはずだ。

 それすらも拒否するなんて恐れ多い男だ。

 そんなに嫌だったのかと呆れ顔を浮かべたサラディアナを他所にジェルマは苗色の瞳を細めて「いつもの事だ」と笑った。



「しかし、今回はセドリックが主役の行事。上から必ず参加させるようにと言われててねぇ。こちらとしてもいつものように諦める訳にはいかないんだよね」

「それは大変ですね」

「そこでた!」



 心底同情の意を示した2人にジェルマはズズいっと顔を近づけた。

 彼女の目はサラディアナに注がれている。

 嫌な予感がする。


「サラディアナ。あなたにセドリックを呼んできて欲しいのよ」

「私ですか?」

「だってそうでしょう!?ここ最近貴方達2人による魔道具技師の仕事がとても良いって評判よ。自分の好きなことしかしなかったあのセドリックが活動的になったのはあなたのおかげだって」

「え。....あれでですか?」


 興奮したように話すジェルマにサラディアナは衝撃を受けた。

 セドリックはかなり選りすぐりして仕事をしているように思う。

 途中ですぐに飽きるし、かなりの頻度で気づくと寝ている。

 サラディアナが声をかけて渋々作業を再開するという事も間々あるのだ。

 だが、周りからそんな評価を貰っていた事は素直に嬉しい。

 少なくとも、サラディアナの仕事で誰かが喜んでいるというのは認められたような気がするからだ。

 そして、自分の声がセドリックに届いているという事実も嬉しかった。

 ただ────


「だからねサラディアナ。あなたならあのセドリックを連れて来られると思うのよ!」

「....それは」


 無理なのでは。とサラディアナは思う。

 いくら自分がセドリックの信用を勝ち取れたとしても、本当に嫌な事ならテコでも動かない。

 それを理解できるので、いくら自分が行ったところであの開かずの間から出すのは無理だと思うのだ。




「そんな事ないわよ!だって貴方達付き合っているんでしょう?」

「ん!?」


 ジェルマの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げる。

 付き合っている?

 誰と誰が?

 訝し気にジェルマを見るが、当の本人はサラディアナの視線に気づかずにニコニコと笑みをたやさない。


「いくらなんでも、恋人の言う事は聞くでしょう?」

「.......」

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