第67話
サラディアナはドレスを着たまま廊下を駆けていた。
慣れない高さのヒールが煩わしくて仕方がない。
それでも、サラディアナは走らずにはいられなかった。
1番端にある部屋から階段を降り、「食堂」と呼ばれる憩いの場所のドアを勢いよく開ける。
「キエル!!」
見知った姿を見つけたサラディアナは、大声でその背中に声をかける。
先ほどまで頭に思い浮かべていた幼馴染がそこに佇んでいたのだ。
「ディア。お疲れ様」
「キエル!あなたどうしてここに?」
「ディアを迎えにきたんだよ」
キエルの言葉に周りで様子をみていた人達から、悲鳴にも似た叫び声があがる。
それすら耳に入っていないように、キエルは目を細めて寄りかかっていた壁から背中を放しこちらに近づいてくる。
「本当は部屋まで迎えにいくつもりだったんだけれど、同寮所属以外は基本食堂までなんだってね」
「ええ。王宮に来たときにそう説明を受けたわ」
「僕が寮所属だった時は出入り自由だった気がするけどなぁ」
キエルの困ったような表情とその言い分にサラディアナはコクリと頷いた。
この春寮では春寮生であれば部屋の行き来は基本自由である。
しかし、寮外の人間の出入りは身分把握が難しい事もあり、食堂または玄関近くに備えられたカフェでの逢瀬のみ認められているのだ。
勿論例外もある。
事前に寮長より許可があればその限りではないとされているが、今回のような突然の訪問は基本的に認められないのだ。
「もう少し早く言ってくれれば申請しておいたのに」
「でも今日は迎えにきただけだし」
「お迎え?」
困ったように眉を下げるとキエルは大丈夫だと首を横にふる。
そういえば、さっきもキエルの口から「迎え」という単語を聞いた。
サラディアナはその意味を考えて首を横に傾けた。
その仕草にキエルはクスクスと笑う。
「ディア忘れたの?今日は労い会だよ」
「....それは知っているけれど」
キエルの意図が全くわからず、サラディアナはさらに眉を寄せる。
そこでキエルは「ああ」とようやく合点がいったと瞳を瞬かせた。
「パーティーにはパートナーが必要でしょ?」
「パートナー?」
聴き慣れない響きにサラディアナはドキリと胸を高鳴らせる。
キエルは優しく瞳をサラディアナに向けながら手を差し伸べた。
「つまり、今日は俺がディアをエスコートしようと思って」
「エスコートですって!?」
「あのハワード様が!?」
2人の動向を静観していた周りの人々がザワつく。いや、奇声に近い声まであがった。
周りの反応にびくりと肩を揺らすサラディアナだったが、それを物ともせずにキエルはサラディアナの腕を取ると自分のそれに重ねた。
「キエル!?」
「いこうディア」
有無を言わせないその促しに、サラディアナは頷く。
その後、会場に向かう廊下で本日の装いについて褒めちぎられ「可愛い」と告げられたサラディアナは開始早々瀕死状態になったのだ。
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