第61話
「私とキエルはただの幼馴染ですよ。むしろ妹としか思っていないんです」
サラディアナの声はどんどんと小さくなる。
ザントのように勘違いしている人間は故郷にも沢山いた。
その人たちに否定をするたびにその現実を思い知らされて、サラディアナは自信を無くしていくのだ。
「1番近くにいたけれど、1番遠かったのかもしれません」
「うん?」
なぜなら彼はいつも自分に何も話してくれないのだ。それがサラディアナの自信を失くす要因でもある。
しかしサラディアナの反応に首を捻るのはザントの方だ。
キエルにとってサラディアナは特別であることは間違いない。
彼女を見るキエルの目は穏やかだ。数年だがその間かなりの時間を彼と過ごし近くで見てきたザントが初めて見るものだった。
そしてあの手の表情の果て、いきつく場所にある感情は一つしかない、とザントは思っている。
キエルほど聡い人間が、自分の感情を理解していないとは思わない。
あえて知らないフリをしているのか無意識的にそこに名前を付けていないのか、それはキエルしかわからない。
ザントは心の中でにやりとほくそ笑んだ。
面白い。
今まで魔導師として尊敬していたキエルの、人間味を帯びた部分を見られるのはザントにとっては大きい。
ザントは徐にサラディアナに近づくと、ガシッと彼女の肩を掴んだ。
「よし!それならこのおっさんに任せなさい!」
「え?」
「キエルの気持ちは俺にはわからねー!でも俺はキエルの良き友人だ!キエルの利になる限りはサラちゃんの力になることを約束する!」
にかりと豪快に笑うザントはバシバシとサラディアナの肩を叩いた。
大柄な男だ。華奢な身体つきのサラディアナでは無くてもだいぶ痛い。
サラディアナは「ありがとうございます」とお礼を言いながらその手から逃げるようにザントから距離を取った。
「おい。良き友人よぉ」
後ろから声をかけてきたのはセドリックだ。明らかに不機嫌そうな声をあげ手には魔法石を持ちカチカチと音をたてている。
「ハワードの肩を持つってことは、俺とサラの恋路を邪魔するって事か?」
「そうだなあ良き友人。こういうのは日頃の行いっていう物があってだなぁ」
殺気だったセドリックを物ともせず、ザントは腕組みをしニヤニヤとそれに応える。
「たとえば、今度の労い会に参加してくれれば、俺だってお前とサラちゃんの仲介くらいするぜぇ」
「仲介ってなんだ。逆に何勝手に間に入ってきたんだよ」
「そうだなぁー。じゃあ今度みんなで飲み会でもすっか?」
セドリックの反抗を無視してザントはどんどんと話を進めていく。
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