第60話


「俺は絶対に嫌だからな」

「まぁそう言わねーでさ」



 朝、いつものようにセドリックの部屋へ到着すると、そこには珍しい客人が訪れていた。

 その客人はサラディアナの存在に気づくとニカリと人受けしそうな笑顔を向けてくる。



「おはよーさん!サラディアナちゃん!」

「おはようございます。....ザントさん」




 宮廷魔導師のザント。

 キエルと同時期に入隊しそれなりに仲良い相手だと伺っている相手だ。

 威嚇戦線で会って以来、宮廷内で会う度に声をかけてくれる。優しい人だという認識がある。

 だが、セドリックの部屋で彼を見るのは初めてでサラディアナは首を傾げた。



「どうされたんですか?」

「聞いてくれよサラちゃーん!」

「うるさいやめろ!さっさと出て行け!サラ、昨日頼んだ報告書を寄越せ」

「あ、はい」



 対局にのような反応をする2人にサラディアナは戸惑いを見せた。

 上司であるセドリックに報告書を渡すと、お客人であるザントへ視線を向ける。

 ザントは豪快に頭を掻くとちらりとセドリックをみた。



「サラちゃんもこいつに言ってやってよ。今週末にある労い会に参加してくれって」

「ああ、労い会の話でしたか」

「何度頭下げても頷いてくれねーんだよ」

「お前がいつ俺に頭をさげた?」



 報告書に目を通しながら反論するセドリックにザントはニヤリと笑う。



「お前が参加するって言うなら俺はいくらでも頭をさげてやるが?」

「揚げ足をとるな」

 


 言葉の応酬が続く。

 サラディアナは男の人同士の会話とはこういうものなのかと呆気に取られながら聞いていた。




「やっぱりセドリックは強制参加なのですか?」

「んー、まぁあくまで自由参加なんだが、こいつは功労者も功労者だからなぁ」



 ザントの言葉にサラディアナは「なるほど」頷く。

 威嚇戦線の魔法を行使したのはキエルとセドリックの2人だ。

 この2人の参加があってこその会であることは間違いない。




「ハワードがいれば充分だろうが」

「それを言われるとなー」

「キエルは参加するんですね!」



 サラディアナはパァっと目を輝かせる。

 その姿をみてセドリックはあからさまに怪訝そうな顔をして見せた。

 サラディアナは慌てて両手を使って口を押さえる。


「サラ、お前なぁ」

「すみません。でもキエルが参加するのが楽しみで」

「サラちゃんは素直で可愛いなぁ」




 対照的にニコニコと笑うザント。

 それはそれで気恥ずかしい。

 火照った頬を冷ます様に手でパタパタと仰げばザントはサラディアナの方へ向き口角を上げる。



「しかしキエルも隅に置けないよなぁ。こんな可愛いお嬢さんを故郷に置いて来てるなんて」

「え?」

「あいつ自分の事をあまり話したりしないからなぁ!王宮内一のモテ男なのに浮足だった話ひとつ出てこねぇのはこういう理由だったって訳か」

「ちがいます!!」


 うんうんと勝手に解釈し納得した風のザントにサラディアナはブンブンと手を振り否定した。

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