第59話


 話をしていくうちに、みるみるセドリックの表情が歪んでいく。

 予想していた事だが、やはりそう言った催しは苦手のようだった。




「俺は行かない」

「強制では無いってニコルも言っていました。....けど」



 セドリックと言えば、威嚇戦線の功労者だ。

 有志参加と言う枠組みで果たして良いのか疑問である。

 まぁ最後は本人次第になるのだろうが。



「でも私こういう大きなパーティー初めてでワクワクします。」

「そんな良いもんでもねぇぞ」

「そうですか?」



 サラディアナが問うと、セドリックはため息をついて首を振る。

 答えるつもりは無いようだが、心底嫌なのは伝わった。



「お前はいくのか?」

「そうですね。次いつ参加できるか分からないので」

「ふうん」



 実のところ、サラディアナ自身年頃の頃は憧れていた時期もあった。

 キラキラとしたシャンデリアや豪華な会場。

 可愛い装飾品やドレスで着飾った自分。

 美味しそうな料理やお菓子。

 優雅な音楽が流れて、ダンスの開始を告げる。

 そしてそんなタイミングでダンスを申し込まれるのだ。




「キエルも出るのかなぁ」

「......」



 頭で想像していた事が思わず口をついてしまった。

 慌てて口元を押さえるが、一度放った言葉は戻ってこない。

 セドリックを見ると呆れたような表情でこちらを見ていた。




「お前、何かあるとすぐそれだな」

「それ?」

「キエルキエルキエル。頭の中の半分はキエル・ハワードだ」

「それは」





 否定は出来ない。

 恋愛脳というつもりは無いが、どうしたってサラディアナの中心はキエルなのだ。仕方がない。




「ダンスならそいつの方がお手の物なんじゃねーの?」

「え!?」

「期待の魔導師様だろ。何人の女と踊り、一夜限りの....」

「いや!やめてセドリック!!それ以上言ったらこの魔法石ぶち壊すわよ!」

「うわ!やめろ!ふざけんな!!」


 セドリックの笑みにサラディアナは思わず声を荒げる。

 キエルもサラディアナも子供では無い。

 男女の睦言だって知識としては持っている。

 しかし、それがキエルの事として想像するのとは話が別だ。

 そうか、それにもしかしたらキエルのファーストダンスはもう終わっているかもしれないのだ。

 その事実にサラディアナはガックリと肩を落とした。



「まぁ、そんな落ち込むなって」

「....だれのせいだと」



 恨みを込めた瞳でセドリックを睨みつける。

 その睨みを受け流すとセドリックはにやりと笑った。



「お前が出ると言うなら行かない事もない。」

「別に結構です!!」

「お前のファーストダンスかぁ。楽しみだな」

「絶対踊りませんからね!」



 勝手に話を進めるセドリックを諫めるが、彼はすでに話を完結させて、ピアノに目を向けている。

 切り替えが早い。


「さて。回路もなんとなく理解できたし、魔法石の取り出し交換と修理だ」

「はい」


 セドリックの合図とともに、サラディアナはため息をついた後に、持参した設計図と魔道具技師道具を広げる。

 セドリックが認知度の高い曲を弾いてくれたおかげで、何音か飛んだ部分があった。

 そして、魔法石も接触不良のように光る時もあった事にも気づきている。

 きっと探せば、設計図からは見て取れない不具合や改善部分が出でくるだろう。

 そして、それを見極めて行く事が魔道具技師の知識と技術の仕事である。

 セドリックとサラディアナは「ああでもない」「こうでもない」と意見を交わしながら、1週間程かけて無事ピアノの修理を行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る