第53話
しっぽりと始まった2人の飲み会は話が尽きる事は無かった。
故郷の事。家族の事。仕事の事。
三年の月日を埋める様に紡ぐ会話は、揺蕩うように二人の時間を重ねていく。
殆どがサラディアナの主体の話だ。
でも、辿々しく話すサラディアナを優しい瞳で見つめ「うんうん」と頷くキエルは、昔の二人そのものだった。
二人が離れてから3年が過ぎた。
18歳だったキエルは21歳に、サラディアナはあの時のキエルと同じ年齢だ。
キャパニア王国では18歳が成人として認められる。
一人前として扱われ、仕事も責任が伴う。お酒も飲めるようになるし結婚もできるようになるのだ。
18歳で離れた事で今日はじめてお酒を飲み交わしている。なんだか不思議だ。
「ディアはお酒強そうだね」
「そうね。でもティムにあまり飲むなって釘を刺されたわ」
「ティム?」
ポツリと出た1人の人間の名前にキエルの手が止まる。
サラディアナは「ええ」と頷いた。
「村長の御子息よ。わたしと同じ学校に通っていた男の子でキエルが村を出て一人になった私を心配して良く声をかけてくれたの。」
そのティムはサラディアナの誕生日の際、クラスメイトの何人かに声を掛けてネミリ姉さんのお店に集まって飲んだのだ。
その時、しこたま飲んでも素面のままだったサラディアナにドン引きしていたのを覚えている。
「.....へぇ」
突然キエルの声のトーンが低くなる。
サラディアナはギョッとしてその様子を見つめた。
「そういえば居たね。ディアと一緒にいるたびに陰から睨みつけて、僕に敵対視するチビちゃんが」
「....キエル?」
恐る恐る声を掛けると、キエルは笑みを絶やさずに「なんでもないよ」と首を振った。
こうゆう時のキエルはテコでも動かないのでサラディアナは早々に追及を諦めた。
「故郷の皆が元気そうで良かったよ」
「でも、そういうのは自分で確認してよね。音信不通はやっぱり悲しいわ」
「そうだね、わかった。」
クスクスと笑いながらキエルが、サラディアナのグラスにお酒を注ぎ足す。
楽しそうにしているキエルを見てサラディアナも嬉しくなる。
簡単な女だなと思う。
でも、キエルが笑うだけで心がポカポカ暖かい気持ちになるのは無意識下のものでどうしようも無いのだ。
「ところで」
キエルが笑うのをやめてコクリとお酒を流し込む。
無言の時間が少し訪れて、キエルの表情が消えた。
「一つ聞きたい事があるんだけど」
「なぁに?」
「君はなぜ宮廷に来たんだい?」
「───っ!!」
キエルの質問にサラディアナは思わずお酒の入ったグラスを落としそうになった。
その動揺で惑わされないと、キエルの瞳がサラディアナを捉えたままだ。
サラディアナはスッと視線を彷徨わせる。
「ディア」
「!!」
キエルが愛称を紡ぐ。
それだけでサラディアナは、水を振られた熱湯のように大人しくなってしまう。
「ディア」
「うっ....」
もう一度呼ばれるとサラディアナは降参するように肩を竦めた。
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