第51話



 サラディアナがキエルと会えたのは威嚇戦線後初めての休暇だった。

 戦線後の後片付けや魔法具の修理などを請け負った際に消えるから手紙が届いたのだ。


 ───次の休みを教えてくれ。

 たった一言だけの手紙に、サラディアナは急いで返事を返すとあっという間に休日の夜に会うことが決まった。

 同室の3人にそれを伝えると、流行りの服の手持ちが無いサラディアナのためにと、持っている服を選び化粧も施してくれた。

 そのおかげでサラディアナは現在、人生で一番と言って良いくらいの完成度でおしゃれな姿となっている。



 そして現在サラディアナは、キエルが寄越した手紙で指定された店の前にきていた。

 ここは宮廷から出てすぐの下町。

 宮廷で働く人間が、仕事終わりや休日に出向いて自由なひとときを過ごすそんな場所だ。

 まだ宮廷周辺に慣れていないと思われるサラディアナのために、丁寧に地図まで添えてあったのはキエルらしい心遣いだと思った。

 そのおかげで迷う事なくここまでこれた。

 サラディアナは意を決して中へ入室する。



「いらっしやいませ」


 入室と同時にお店の女性から近づいてくる。


「あ!あの...待ち合わせをしていて」

「待ち合わせされている方のお名前は」

「えっと、です」

「こちらへどうぞ」


 サラディアナは手紙に書いてあった名前を告げる。

 お店の人はニコリと笑って、サラディアナを店の奥へ案内した。



 コンコンコン

「お連れ様がご到着されました」



 店員によって入室を促される。

 サラディアナはお礼を言って中に入室した。

 そこは少し光を抑えた明るさの部屋だった。

 数人用の半個室のようで、テーブルが一つ、椅子が2つ横並びで4脚あった。

 そしてその1脚に外套を掛けた人間が一人が鎮座している。



「....エル?」

「良くきたね、ディア」


 サラディアナの声かけに反応したその人は、自分を「ディア」と呼ぶたった一人の幼馴染だった。

 サラディアナはホッと胸を撫で下ろしキエルに近づく。

 それを目視したキエルがそっと椅子を引きサラディアナに座る事を促した。

 それは彼の座る椅子の隣。横並びは幼い頃から2人の癖だ。

 懐かしさと気恥ずかしさでサラディアナははにかみながら「ありがとう」とお礼を言いながら座った。



「早速だけど、何か頼もう。食べたいものはあるかい?」

「えっと。....なんでも構わないわ」

「そう。なら適当に頼むよ。」



 そういうと、キエルは入り口近くで控えていた店員に何品か注文をした。

 その間にちらりとメニュー表をみたが、殆どは品名を見ても理解できない。

 サラディアナはキエルに頼んで良かったと胸を撫で下ろした。



「ごめんねディア。最初に何品か頼まないと店員があそこから動いてくれないんだ」



 注文を終えたキエルは椅子にふたたび座ると困ったように肩を竦める。

 その仕草すら嬉しくてサラディアナはクスリと笑った。






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