第50話



 ふと、窓の外に目を向けると、ザントの脳内によぎった男が歩いていた。

 キエル・ハワード。

 あらゆる分野において注目と期待を集める男だ。



「キエルは勿論強制っすよね」

「....まぁ、功労者の一人であるからね」

「ちなみにセドリックは」

「アシルバート殿下の説得次第かな」




 たしかに。とザントは頷く。

「あれは動かせるのは殿下くらいっすもんね」



 アシルバート殿下。

 セドリックが魔力の暴走させてから、彼を救い面倒を見てきたいわばセドリックの恩人である。

 あの人の言葉には大半は従うというもっぱらの噂だ(あくまで噂ではあるが)。

 この二人が揃うという事は、お偉いさんの思惑や妬みや尊敬さまざまな思いが暗躍したパーティになるかもしれない。

 庭の向こうからジュウトの怒号が響く。

 その怒号がなんとも真っ直ぐで皆あのようだと良いのにと思わずにはいられなかった。




「まったく。近頃近隣の森で魔獣達がざわついてるって話もあるっつー中で大規模なパーティーか」

「威嚇戦線が落ち着いたと思ったら国内も問題が山積みなのは確かだな」

「ちなみにそれってどれくらいの規模になるんっすか」

「携わったと思われるもの全員の自由参加」

「.....おおう」



 ザントはクラリと眩暈を起こしかけた。

 それはつまり戦場に向かった者以外の、料理人や鍛治職人、給仕のものまで幅広い人間が集まる事を示唆していた。随分と大規模だ。

 大人数がパーティーに駆り出される中、一体どれだけの団員が魔獣討伐に労力を避けるか。そちらも気になる所である。

 そして、先程フォルランの困った様な表情を思い浮かべ、なぜこの話を自分にしてきたのか合点がいく。




 女性を愚弄する発言をしていた彼らへの罰はジュウトの元へ行くこと。

 その発言を止めなかった俺には────



「これが俺への罰っすか?」

「ん?なんのことかな?」



 しらばっくれたその雰囲気からそれは確信へとかわる。



「........会場諸々の手配と、若いのが羽目を外しすぎないように指導、しときます」

「うん、頼むよ」



 フォルランはにこやかに頷いた。

 くそやられた。この狸じじい。

 心の中で 悪態を吐くがもう遅い。

 ザントはため息をつくことしか出来なかった。




「フォルラン団長、時間です」



 部屋の外から団長補佐の男から声がかかる。

 呼ばれた本人は小さく頷くとザントの肩を一つ叩き部屋から退室した。

 それと同時に次の講師が入室してくる。

 ザントはもう一度ため息をついて、休めなかった休憩時間に終わりを告げたのだった。




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