第47話


 キャパニア国の王族が暮らすキャパニア城。

 その城は、王族の生活区域だけではなく、政治の中枢であり、あらゆる機関や人間が行き来する、いわば国の中枢である。

 その一角にある魔導部門は宮廷魔導師や神職者と言った異質の存在を管轄している。

 もっとも、一つ一つの職種が独立している訳ではない。

 一括りに出来ない事も多々あるのだが、宮廷魔導師や神職者は唯一他の物とは違う。

 魔力を有し、一定以上の魔力に特化したもののみが入団を許される。努力だでは補えない生まれながらの特性が必要なのである。


 だが、特別意識や矜持の強い魔導部門の人間でも、やはり普通の人とような会話も多くする。魔法や魔力など真面目な話は勿論、「美味い店」と「人の噂」はどの職種でも同じだ。

 




「おいザント聞いたか!?」

「あ!?」



 数人の魔導師たちに嬉々として声をかけられ振り返ったのは、宮廷魔導師のザントだ。

 彼はこの大雑把さから似合わず、とある貴族の三男坊として生を受けた。

 特化した魔力を有していた事もあり、本人の意思で家督を放棄し、喜んで魔導師に入団をしている。

 そのかしこまらない性格からか友好関係の人間も多い。鼻持ちならない人間の多い魔導師内で割と中立派を貫くので良き相談相手としてならなおさら最適な男だ。

 さらに、当時遠巻きにされていたキエルにちょっかいをかけて周りを巻き込んだ張本人でもある。

 そんなザントに声の主である同期の男がにやにやした様子で近づいた。

 


「この前の威嚇戦線のお陰で当分戦争はお預けらしい」

「ほー!」



 それは嬉しい報告だ。ザントはにかりと笑って男は「しかも!」と言葉を続ける。

 興奮を相まって、少しだけ声が大きくなったのは仕方がない。



「相手国からの物流が優先的にうちに流れるように話しが纏まったらようだ」

「今回の威嚇目標達成って訳か!!」



 2人は右腕の拳を合わせた。

 ゴツリと良い音がして、男の顔が少しだけ歪んだのはご愛嬌だ。



 威嚇戦線はもとより戦争の前段階に位置する。それにより本格戦争に持ち込むか、話し合いになるか決まってくるが、殆どの場合が話し合いにもつれ込む。

 もともと血を流したくない国々が決めた取り組みだ。我がキャパニア国は平和主義である。そのため始めに話し合いが行われ、その後に威嚇戦線、本格戦線という流れが殆どである。

 騎士団が所属する騎士科も【防衛部門】の位置付けとなっているほど、キャパニア国は守りを重視している。

 威嚇内容は様々で今回のように魔導師主体の事もあれば、騎士団による模擬戦、官僚による記述戦など多岐にわたる。

 表向きは勝敗は決めないというルールがあるが、どちらが有利かというのはお互い確認を取る。

 その結果、有利だった国の意見が尊重される事も多いのだ。

 今回は、こちらの魔導師の有用性が評価されて、国王の思惑通りの結果に落ち着いたようだった。



「おれ、あんなに気合入った鴉を見たのは初めてだよ」

「あーー....」



 威嚇戦線の出来事を思い出したのか、はぁーと深く息を吐く。それに周りの男たちが頷いた。

 あの「鴉」というのは勿論、セドリック・ドラフウッドの事である。

 あれはもう規格外だ。龍の形をしたおもちゃならまだしも、ただの糸くずを雷龍に変えるやつなんて見たことがない。




 いつものドラフウッドは、与えられた個室から出てかない引きこもりだ。魔導師としてではなく魔導具技師として過ごしている。

 そういう契約でもあるからだ。

 たまに魔導師訓練に強制的に連れられてくる程度で、魔導師達も彼の魔法どころかその姿を殆ど見たことがない。

 さらに何度か声を掛けてきたザントでさえ、本気のセドリックは見たことがなかった。



「....いや、あれで本気か?」


 彼の力は右腕の腕輪によって制御されていると言うのは宮廷内では誰もが知っている。

 その腕輪をつけたままの魔法だ。

 きっと潜在能力はまだある。

 そう思うとガクガクと恐ろしくなる。ザントはズブズブと入りそうな恐怖の沼から這い出すように頭を振った。



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