第46話


 意を決したサラディアナの告白に、同室3人は無言となった。



 この3人の反応に居た堪れないのはサラディアナだ。

 内気で気後れしがちなサラディアナは同年代の友達が少ない。

 幼い頃からサラディアナのそばにはいつもキエルがいた。そしてサラディアナもまた、キエルの隣にいる事を良しとしてきた。

 周りの大人も子どももその光景が当たり前であった。

 キエルが郷を離れてからは周りとの交流と増えてはいたが、サラディアナの心は"キエルを追いかける"その一点に意識が集中してしまった結果、やはり必要最低限の交流に留まっていた。

 そう。つまる所、サラディアナにとってキエルの想いを打ち明けたり、こうゆう恋バナは初めての事なのである。



 顔を真っ赤にさせて縮こまるサラディアナ。最初に動いたのはティトだった。



「雪解けの精霊に乾杯!」

「「かんぱーい!!」」


 カシャンとテーブルに置いてあった近くにカップをソーサーから離す。

 3人はカップを掲げるとそれを一気に飲み干した。



「え?」

「やっぱり紅茶ではダメだな」

「私、空間に入れてあるワイン開けちゃうわぁ」

「クララ太っ腹!!」



 先ほどのの静寂が嘘のようにワイワイと話し始める三人にサラディアナは戸惑う。

 その戸惑いに気づいた三人はにっこりと微笑む。

 その微笑みは慈しみに溢れている。



「ごめんなさいねぇサラディアナ。私達がハワード伯の事色々言うから言い出し難かったわよねぇ」

「ごめんねサラディアナ」

「い、いえ!」



 謝罪の言葉にぶんぶんと顔を横に振る。

 そもそも、キエルが人気があろうが無かろうがきっかけがない限りは自分から誰かに話すつもりは無かった(正確にはその技量が無かった)のだ。

 ただの初恋。そして隠し続けていく気持ちなのだ。



「サラディアナはキエルを追ってこの宮廷に来たの?」

「そうです。キエルが宮廷魔導師になると聞いて....居ても立っても居られなくなって、宮廷魔導具技師を目指しました。できるなら自分の手で、キエルの手助けがしたくて」

「なにそれいじらしい!!」



 キャーと悲鳴をあげるニコル。

 ティトはクララの出したワインをゴクゴクと飲んだ。



「サラディアナ」



 一通り質問攻めし騒いだ後、クララがタンっとワイングラスをテーブルに置く。

 程よく頬を赤らめた彼女は妖艶な笑みを浮かべている。

 サラディアナは瞳を瞬かせながら首を傾けた。



「ハワード伯は憧れ半分本気半分、競争率が高いから大変だと思うし、幼馴染と公になったら色々辛い事もあるかもしれない」

「全てを話せとは言わないわぁ。でも1人で抱えるのが辛くなったら私達を思い浮かべてねぇ」

「私達はあなたの味方だからな」



 三人の笑顔と優しさにサラディアナはコクコクと頷いた。

 自分のコミュニケーション能力の低さは自覚していた。

 正直、寮生活や同僚との交流という面では不安だったのだ。

 ここに来てサラディアナの不安がフッと消失していく感覚に気づく。

 サラディアナはこの3人を『同室』ではなく『友人』と呼べるようになる日を願ったのだった。

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