第45話


「で、その後は相手国の威嚇だったんだが、まぁお察しだな」

「....上手く行かなかったの?」



 ニコルが同情の視線を向ける。ティトは「いや」と首を振った。サラディアナは当日アシシに聞いた情報を思い出す。




「確か、風神ふうじんを呼ぼうとして失敗した、って....」

「そう。魔法の事は良くわからないけど風神は上手く呼べたんだけど、雷雲の威力が強くてすぐ消失したんだ」

「まぁ」

「でもその後に違う魔法で威嚇戦線を継続していたよ」



 もともと威嚇戦線は攻撃に重きを置かない。

 魔力の大きさや繊細さでその場を魅せるかだ。

 キャパニア国の威嚇に気負いしたのは確かだが敵国も威嚇として充分な成果はあげたのだと推測された。



「少なくともあんな魔法を見せられたら尻込みするよ」



 ティトの言葉に三人はなるほどと納得するしかなかった。

 その時ふとティトと視線が隣に座るサラディアナに向く。

 パチリと目があった瞬間ニヤリとティトが笑う。

 嫌な予感がする。だが女騎士の反射神経に叶うはずがなかった。

 瞬く間に伸びてきたティトの腕によってサラディアナは身動きが取れなくなる。

 ふわりと風呂上がりらしい石鹸の香りがしたと思うと同時に「ところで新人ちゃん」と逃れられない圧とともに声がかけられた。




「........はい」

「ハワード殿と顔馴染みだったんだな。どうゆう関係なんだ?」

「.....えっと」



 やっぱりその話か。

 サラディアナは口ごもる。

 戦場では深追いをされなくてホッとしたが、やはり気になっている事柄だったのだろう。

 でもあの場で根掘り葉掘り聞かれず、心を許せる同部屋の人達の前にしてくれたのは、ティトの優しさだろう。



「....同郷なんです」




 キエルが説明したのと同じ台詞を口にする。

 しかし、その台詞にティトは首を横に振った。



「それは以前ハワード殿から聞いたよ。そうではなく私が聞きたいのは"君たちは恋人同士なのか"って事だ」

「は!?」

「なになになに!?どうゆうことぉ!?」



 ティトのニヒル顔を受けて、ニコルとクララが前のめりになった。



「ハワード伯には恋人が居ないって有名な話でしょう?本人に聞いたっていう女官からの情報だし、男色の話も笑顔で否定したって」

「否定したからと言って真実とは限らないわよねぇ。でもぉ、お仕事がお休みの日も鍛錬してる姿をよく見かけるって聞いたわぁ」

「長期休暇も宮廷内の図書室で勉強してるって」

「.....随分な情報量ですね」



 次から次へと出てくるキエル情報にサラディアナは目を顔を強張らせた。



「それはそうよぉ。暇な人間が数人が集まったら一度は出るのがハワード伯の話よぉ」

「けれとどんなに多い情報があろうとも彼の全体像が全く見えないの。その一つが恋愛面」

「ハワード殿が宮廷勤めになり四年目、同郷から来る幼馴染。魔導師と魔導具技師。そして私が貰った男物のアンクレット。色々思うところかあるんだよなぁ」



 名推理と言わんばかりの表情を浮かべるティト。そして期待をかけた2人の視線。

 サラディアナははぁっと一つ息を吐いた後意を決して答えた。



「恋人ではありません。....ただ、私がキエルの事を好きなの」

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