第44話



「お帰り。ティト、サラディアナ」

「お帰りなさぁい」



 ティトと一緒に春棟にある自分達の部屋に戻ると、ニコルとクララが笑顔で迎えてくれた。

 威嚇戦線に出ていた人達が戻ったことは宮廷ですぐに知らされたらしく、帰ってくるのを待っていてくれたらしい。



「2人ともお疲れ様」

「無事、引分ひきぶになったようねぇ」

「ああ。お疲れさん」

「ありがとうございます」



 引分とは威嚇戦線で用いられる勝敗結果だ。

 威嚇は闘いではないという位置付けなので、勝利も敗北も存在しない。

 表向きは【引き分け】として記録に残るのだ。

 しかし、それはお互いの力を鼓舞する場のほまれになる。

 誰も血を流さない、誰も傷つかない、それがこの世界の平和につながっている。




「凄かったらしいわねぇ〜今回の威嚇」

「ああ、ハワード殿とドラフウッド殿の事だな」



 部屋着に着替えたサラディアナとティトを待っていたとばかりにクララが話しかけてくる。

 いつもより興奮した様子のクララに、ニコルは呆れティトは笑った。




「そうだな。魔導師と合同訓練や魔物退治は何度もしてきたけど、今回はいつも以上に凄かった」

「どんな感じだったのー!?」



 ワクワクした様子のクララ。

 ソファに腰掛けたティトはテーブルに置いてあったクッキーに手を伸ばした。

 それに習って、サラディアナも慌ててソファに腰掛ける。

 クララがいそいそと紅茶の準備をする。

 これはもう女子会開始の合図だった。



「わたし達騎士団は、前線部隊でも後方にいたからそれほど役に立った訳じゃない。前を包囲してたのは宮廷魔導師達だ。そして今回威嚇魔法を使ったのがハワード殿とドラフウッド殿2人」



 ティトの話に誰もが耳を傾けた。

 威嚇戦線に参加していたサラディアナでさえ、当日は後方支援だったので騎士達とは別の場所にいた。

 よって、キエル達の活躍は分からなかったのだ。

 ティアは紅茶を一口飲むと思い出すように「うーん」と唸る。



「いやぁー凄かったな。凄いにつきる。威嚇開始の合図をした後、ハワード殿が勢い良く魔法を空に放ったんだ。」



 ティトの話は三人を引き込んだ。

 ティト曰く、キエルの放った魔法は瞬く間に天へ登った。

 一瞬だけチカリと発光したと思ったら、その周囲の雲を雨雲に変えたのだ。

 その後セドリックが懐から何かを取り出した。

 それは側から見るとただのおもちゃのように見えたらしい。

 それをセドリックがキエルと同じように天に放つと、おもちゃが金色の龍に変わる。

 騎士達がどよめく中、今度はキエルが稲妻を呼んだのだそうだ。

 その一連の動きには歪みも隙間なくあった今の威嚇となったらしい。



「感心するのは、あれほどの大魔法を無詠唱でそこまでしたことだ」

「へぇ!それは凄いね!」


 ティトの言葉に三人は「なるほど」頷いた。

 この国の魔法は媒体を必要とするのが普通だ。それが、「魔法石」であったり「魔法道具」であったり「詠唱」であったりする。

 例えば部屋の電気。

 日常で使用する電気機器には、ほとんどに魔法石や魔法道具が使われている。

 そのためそれ自体が媒体となり無詠唱でも使用可能だ。

 しかし、何もない所で明かりを灯そうとする場合、本人の魔力次第では詠唱を媒体にする必要がある。

 サラディアナの魔力量は「火を起こす」「灯りを灯す」と言ったある程度の日常生活には無詠唱で可能である。

 ただ、人の魔力には限度があるので殆どの魔力を魔法道具技師の仕事に回してしまうのが現状だ。

 他の人もそうだろう。

 ひと昔前とは違い便利な魔法道具があるのだ。自分の中の魔力を消費し気だるくなるよりは、魔法道具を使っては楽をする方が断然良い。

 便利な世の中になったものだ。


 さて、話がそれたが、つまり逆を言えば、より繊細で強力な魔法にはなればなるほど媒体を増やしていく必要がある。という事だ。


 キエルやセドリックの行った魔法は誰が見ても高等技術。

 それを無詠唱で行う事はもちろん、雷龍を作るための媒体がティトか確認した【おもちゃ】では明らかに役不足だ。

 それをやってのけた2人は、魔力量や魔力出力、技術は威嚇戦線において明らかな牽制になっただろう。




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