第43話



「この音はキエルが雷を落とした音だよ。珍しいね、彼が雷魔法を使うなんて」

「え?」

「ああ、今の音はセドが雷神でも呼んだかな。」

「は?」



「2人とも絶好調だね」と笑うアシシに、サラディアナは意図を読み取れずに呆けるしかない。

 その間もアシシは、空色の瞳を細めながら「今のは敵国の威嚇だね」「風神を呼ぼうとして失敗したようだ」とその都度状況を説明を続けた。

 



 茫然と見つめる視線を受けて、アシシはセドリックの悪巧みが成功した時のようににやりと笑う。



「魔力には一人一人個性があってね、神経質な人だとなんとなくわかるんだよ。特にあの2人の力は強い。魔導師ならあの2人の魔力特定は容易いだろうね。」

「そう、なの」


 つまり、いまのアシシの行動は魔導師にとってごく自然なスキルなのだろう。

 それだけ鍛錬を積んだということでもあるだろうが、それ以上にキエルとセドリックの魔力は凄いのだと改めて認識した。




「だから大丈夫だよ。彼らは絶好調だ。威嚇戦線に勝ち負けは無いけど、あの調子だと本格的な戦争には持ち込まれないだろうね。もう少ししたら帰ってくるよ」

「それなら、嬉しいわ」


 アシシの言葉にサラディアナは今度こそ本来の笑顔を浮かべることができた。

 どんなに強くても、どんなに手に入れたい物があっても戦争と言う手段はとても怖ろしいものだ。

 人の人生を奪うことは、どれだけの覚悟が必要なのか、サラディアナにはわからない。

 ただひとつ言えることは、刃を交えた相手はきっと誰かの大切な人だ。

 大切な人を突然失う苦しみは、出来れば天寿を全うした時だけ訪れれば良いと思う。

 そして自分の手が届く範囲では、誰も傷つかないで欲しいと思うのだ。



 サラディアナの微笑みに安心したのか、アシシはニコリと微笑むと「さて」と言葉を発する。

 シリアスな雰囲気が一瞬にして消滅した事をサラディアナは理解した。



「サラの笑顔を観れた事だしそろそろ行くよ」

「セドリック達に会ってはいかないの?」

「うん。俺の用事はサラの笑った顔を見る事だからね。」

「...貴方こそ、調子がいいわね」



 ふふっと笑うとアシシは嬉しそうに目を細めてサラディアナの頭を撫でた。

 少なくとも、アシシのお陰で落ち込んでいた気持ちが浮上した。

 きっとまた自分の不甲斐なさに落ち込むのだろうけど、それでも彼らの強さを同職のアシシに教えられた事で酷い妄想に囚われる事は減るだろうと確信が持てた。




「またセドの部屋で会おう」

「ええ」



 手を挙げて転移地区のある方向へ向かっていくアシシを最後まで見送った。

 その後程なくして前線に向かっていた魔導師や騎士達がキャンプへ帰還した。

 アシシの言う通りキエルセドリックの魔法威嚇は絶好調だったようで、その場に居合わせた人の興奮が伝わってきた。

 なにより、誰も怪我などしなかった事にホッとした。



 ただ、帰ってきて休憩もそこそこに王宮帰還への準備が始まる。ここに長居する理由も無いと言うこともあるが、新たな攻撃などの危機回避のためだという。

 そのため、興奮冷めやらないうちに威嚇前線に参加した人全員が無事王都へ帰還したのだった。








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