第36話
「キエルさん。あの女性とお知り合いですか?」
新人魔導師のテトがひょこりと後ろから顔をだした。
少しだけ顔を赤らめている。
「随分かわいい....ってか美人さんでしたね。桃色の髪が綺麗っす。」
「テト。あれが噂の"技師の鴉の弟子"だよ。んでもってこいつが噂の"技師の鴉"」
「はぇ!?」
ザントはガハハと笑った後、3人の下で黙々とクッキーを頬張る外套の男を指差した。
外套で顔も片目も隠れて全体像が把握できないが、睨みを利かせた表情にテトはサッとザントの後ろに隠れた。
「何この人すごい怖い!」
「ガハハ!お前ほんと素直だな!」
「何の用だよ」
「いやいや!さっきまでお前と一緒に会議に出てたろ。その後飯喰いに来るのは普通だろぉが」
そう言ったザント達の手にはたしかに夕食が乗ったプレートが見える。
先ほどまでサラディアナがいた場所に今度はザントが座った。
どうやらこの場所で夕食にするようだ。
セドリックがチッと舌打ちをする。
「お前らのせいで俺のお姫様が逃げちゃっただろ」
「え!?てめぇら既にそういう仲なのか!?ひゅー」
「知ってたんですか?キエルさ......」
ザントが大げさに囃し立てる。
その横の席についたテトも食い気味にセドリックを見た。男3人で恋バナだ。幼馴染と聞いたらテトが未だに一言も言葉を発しないキエルに声を掛ける。しかし。
「..........は?」
常に笑顔を絶やさないキエルからは到底想像出来なかった表情の抜けたそれがそこにあった。
「うぉっ!?キエル!顔!!顔が怖ぇえ!!」
びっくりするザントの声によって、キエルはハッと現実に戻ってくる。
取り繕うようにいつもの笑顔を作るがどこか表情が硬い。
「.......すみません。自分の知らない情報が次から次へと出てくるものだから」
「って事は知らなかったんですね」
テトの声にキエルは「はい」とにこやかに微笑んだ。
「故郷を出てから連絡もとっていなかったので。まさか宮廷魔道具技師になっているとは思いませんでした」
「そうだったのか」
キエルの説明にザントはなるほどと頷いた。
おそらく、だが確実に言えるのは"幼馴染"で"会いたく無い"うえに、"故郷に残してきた"相手というのはサラディアナというあの女性に間違いないとザントは確信を持っていた。
あの反応を見る限りサラディアナはキエルに対して好意的だ。
キエルが魔導師になってから三年後、この場所に来る事を選んだ理由は大方予想がつく程に。
しかしキエルの反応が読めない。
セドリックの弟子がサラディアナだという事実には驚いているようだし、「俺の」発言に関しては衝撃を受けたようだが、それが何に対するものなのか見えないのだ。
もともと秘密主義者であった彼だ。
今後も見えない部分が多いのだろうが。
「なぁ」
ザントが思考をめぐらしていた時、ふいに隣から声がかかる。
ハッとして声の主であるセドリックき目を向けたが、彼はザントではなく後ろにいるキエルに向けられていた。
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