第35話
「セドリック、今までどこに?」
はたと気づいた。
この男、魔導具の点検時姿を見せなかった。
まさかここに来てサボっていたのだろうか。
胡乱げに目を細め相手を見やると、セドリックはフォークに刺したトマトをサラディアナの口の中に放り込んだ。
「お前いま失礼な事考えただろ」
「....もぐ」
「威嚇戦線についての会議だよ」
おっと、意外と真面目な理由だった。
サラディアナは口に入れられたトマトをゴクリと飲み込んで頷いた。
「....偉いじゃないですか」
「お前ほんとに俺のことなんと思ってんだ」
ギロリと睨んでくるセドリックだが、疲れ切った顔で睨まれても怖くない。
むしろ同情と心配が先に来る。
サラディアナはキョロキョロと目を彷徨わせたあと、近くにあったクッキーを1つ摘んで差し出した。
昨日の夜クララが持たせてくれた手作りクッキーだ。
目の前に差し出されたクッキーをじっと見つめたセドリックは瞳の奥に戸惑いの色を見せる。
「えっと。甘いものでも食べて疲れを癒してください」
「は?」
「そう言えば、嫌だ嫌だと言いながら仕事はちゃんとやってますもんねセドリックは。そういうところは尊敬してますよ」
にこりと微笑んだ後、サラディアナは先ほどのお返しとばかりにセドリックの口にクッキーを放り込んだ。
びっくりした顔のままモグモグと口を動かすその姿はなんとなく警戒心の強いリスのようでちょっとだけ笑えた。
数秒後ふっと息を吐くようにしてセドリックが笑う。
「....お前、本当に良い女だなぁ」
「は!?」
セドリックは右腕をさっと一振りする。
その瞬間にはグイッとサラディアナの体はセドリックの方は引っ張られた。
そのままグリグリと頭を撫でられる。
「ちょっと!魔法をつかうのは反則!!」
「はっはっはっ!!」
顔を外套で覆ったセドリックは大笑いをした。
この男と仕事をして随分たつが、相変わらずこの男のツボがわからないサラディアナだ。
「....珍しいな」
「え?」
「あ?」
後ろにある通り道から声がした。
座っている自分達。
頭上からの声は聞き覚えのある声だ。
サラディアナはそろりと声の方を顔を向けた。
「!!」
「....あ」
サラディアナは目を大きく開いて唖然とした。
声をかけてきたのはザントと呼ばれた男。
ボソリと呟いたのはキエルだった。
そしていま自分はセドリックという男に頭を撫でられている状態だ。
非常にまずい。
「あ....あう.....」
慄くサラディアナ。
口をパクパクさせて、勢いよくセドリックから離れる。
ボサボサになった髪を慌てて撫でるように直してサラディアナはザリザリと足を後退させた。
「サラ?」
「サラディアナちゃん?」
セドリックとザントが声を掛けてくるが、サラディアナの目には映っていない。
映っているのはキエルただ1人だ。
「ディア」
「...ひッ!!」
キエルが自分の名前を口にする。
それだけで、自分の心臓が今までにないくらいに跳ねた。
「私部屋に戻ります!!」
「え?」
「失礼しますぅうううう!!」
びっくりするくらいの速さでサラディアナは自分の寝床の方向へ走っていった。
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