第33話
ドクリ.....
サラディアナの心臓の音が耳に響く。
急激に喉が乾いたように身体中の水分が何処かに奪われていく。
まだ会う予定は無かった。
合わせる顔も、話す事も、何も整理できていないのに。
「ディアなのか?」
「....ッ‼︎」
3年ぶりの声が自分を呼んでいる。
その事実にサラディアナは肩を揺らし、顔を歪めた。
深呼吸を1つしてゆっくりと振り返る。
彼に会った時にと隠れて練習した笑顔を作った。
「キエル」
太陽の光に負けないくらいの金髪。
正面からみた彼は3年前に比べて身長も体格も大人になっていて、宮廷魔導師の礼服がとても良く似合っていた。
黄金の瞳をめいいっぱい開いた顔は滑稽だったけれどサラディアナの胸をときめかすのには十分だった。
「ディア...」
キエルは、彼しか呼ばない愛称を口にする。
その耳に心地よい声が自分に届く。
胸がいっぱいだ、それだけで。
「何故こんな場所に来た」
「....え」
顔を歪めたキエル。
苦しそうで、悲しそうで、怒っているようなそんな表情をサラディアナは久しぶりに見た。
目の前が真っ白になる。頭が追いつかない。
いま、キエルはなんて言った────?
「えっと、キエル。知り合いか?」
「....故郷の幼馴染です。」
魔導師長フォルランの戸惑った声。
それに
ふっと息を吐いた後キエルは再び笑顔になった。
でも、サラディアナにはわかる。否、みなわかっているだろう。
この笑顔が無理に作った偽りだと言うことを。
「さぁ、そろそろ戦線地区に向かいましょう。ずいぶん時間を使ってしまいました。半数は転移していますが時間は有限です。」
「あ、ああ」
「待ってキエル!」
クルリと踵を返して歩き出すキエルにサラディアナは叫ぶ。
わかっている。
今は私情を話すべきではない。
でもどうしても声を掛けてしまった。
サラディアナの声でピタリとキエルが止まる。
ザァッ...と風が吹く。
キエルの髪が揺れて輝いている。
3年前、キエルと言葉を交わしたあの日が脳内で思い出された。
「ディア....宮廷魔導具技師になったんだね」
「...うん。」
こちらに体を向けることないキエル。
サラディアナ自身の心臓の音がドクドクと耳につく。
ガクガクと足が震えているのがわかった。
「会えて嬉しいよディア」
「キエル」
「でも」
サラディアナを遮るように声を被せる。
チラリとこちらをみたキエルの表情にサラディアナはヒュッと息を飲んだ。
大好きな瞳が冷たい色でサラディアナを見ていた。
「君はこんなところに来ては行けなかった。それだけは心から言えるよ」
「....ッ!!」
「また後で話をしよう」
再びキエルが足を進める。
今度はその背中に声をかけることが、サラディアナには出来なかった。
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