第32話
サラディアナは前を優雅に歩くセドリックという男を蹴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られていた。
足の長さの違いでこっちは必死について行ってる今のこの現状も気に入らない。
「もー催促されちゃったじゃないですか」
「お前の準備が遅いからだ」
「だからせめて前日に教えておいてくれれば」
気休めにならないが、出来うる批難を浴びせてみたがどこ吹く風で聞き流すこの男。
サラディアナは「いつか絶対あの外套を隠してやる」と決意をした。
珍しく歩いて(こういう時こそ転移では?と思わなくもない)集合場所へ向かう。
ようやく見えてきたその場所は既に大勢の人間で賑やかだった。
「来たようだぜ」
「チッ」
ふと目の前が拓けてセドリックに向かって手を振る大男が目についた。
大柄な男だ。どこかでみたことがある気がするがそれよりも負のオーラが一層強くなった目の前の上司の動向に焦燥する。
「おーセド!元気だったか?」
「うざい五月蝿い話しかけるな」
「相変わらず手厳しいなぁ」
ガハハと笑う男を心底鬱陶しそうな冷めた目で見つめるから、部外者であるサラディアナが慌てふためいた。
「やぁドラフウッド、息災か。たまには魔導師棟に顔を出してくれても構わないんだよ」
40代前半と
宮廷魔導師の服装とその胸元には"師長"を表す徽章が付いている。宮廷魔導師長だ。
宮廷魔導師長もサラディアナの存在に気付きセドリックに向けた笑顔をこちらに向けてくれた。
サラディアナも慌ててお辞儀をする。
「この子が噂の子かな?」
「畏れながら、"技師の鴉の弟子"は誤解です」
「ははっ!噂のサラディアナだ」
「宮廷魔導師長のフォルランだ。よろしく」
最初が肝心だ。
サラディアナは全力でそれを否定する。
クツクツと笑うセドリックはサラディアナを2人に紹介してくれた。
サラディアナの名前に宮廷魔導師長はパッと目を輝かせる。
「やっぱりそうか。君はドラフウッドの気に入りだろう?"俺を行かせたいなら同行させる事"と幹部魔導師に駄々を捏ねていた。珍しい反応だったから驚いたんだ。」
「....は?」
宮廷魔導師長の言葉に勢いよくセドリックの方へ目を向ける。
目を逸らされるかと思ったが悪戯っこのような笑みを浮かべていた。
「つまらない仕事は少しでも楽しくしなきゃならんな」
「ふざけてるんですか?」
「そうだな。どんな顔するか見ものだった」
「セドリック・ドラフウッド.....!!」
会話が成り立っていないが理解した。
つまりこの男は、幹部にごねて無理やりサラディアナを今回の威嚇戦線同行をねじ込んだ挙句、その反応を見たいがためにギリギリまで黙って楽しんでいた。なんてやつだ。
精神的な理由でくらりと立ちくらみがしたサラディアナだが、ガハハと豪快に笑った声の方へ目を向けた。
「確かに可愛い子じゃねーか。猫っ可愛がりたい気持ちも分からなくもねーな」
「はじめまして。サラディアナです」
「ザントだ!」
ザントと名乗った男は豪快にサラディアナの頭を撫でた。
この国の男は頭を触るのが好きなのだろうか。
サラディアナは何人目かわからない手を享受する。
「それにしても綺麗な色の髪だな」
「ありがとうございます」
「珍しく桜みてーでキラキラしてて赤銀色の...赤銀色?」
ニカニカと笑ったザント。しかし笑顔が消えなにかを考える仕草を始めた。
サラディアナは首かしげてみせる。
屈強な印象を受けるが何故か警戒心が起きないこの男を観察した。
以前どこかであったことがあるとサラディアナは考えを巡らせる。
否、会ったというより見かけたのだ。
そう、あれは緑の多い庭。春で桜が待っていた。
脳内でその時の光景を思い出す。
そして、その隣にいたある人のことも────
「.....ディア?」
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