第27話



「宮廷内で働いている人には割と有名な話よぉ」

「ほら、セドリック・ドラフウッドって引きこもりだけれど顔はいいでしょ?進出鬼没さとあの冷たい物言いとかツボな人が割といるのよ。だから小さい事でも噂が回るの」



 その小さい事が「あの"技師の鴉"の弟子」だとすぐにわかった。

 あの噂はあんたとおかげかと外套を剥ぎ取って天日干しに掛けてやりたい気分だ。




「良い男と言えば魔導具技師のキエル・ハワードも有名よねぇ」



 キエルの名前にギクリとサラディアナは肩を揺らす。

 それに気づかなかった三人は、話を続ける。「ああー」という相槌を打ったのはニコルだ。




「ハワード伯も、類い稀な魔力を持っているそうね」

「そしてあの金髪ウェーブに甘い笑顔はときめくわねぇ」

「私は胡散臭い笑い方の男だと思うけどな」



 三者三様の意見だ。

 本人を知っているサラディアナにとっては居た堪れない会話である。

 そして、宮廷魔導師のキエル・ハワードと宮廷魔導具技師のセドリック・ドラフウッド。この2人が"太陽と月の魔法使い"なんて言われて派閥争いが起こっているという事にも驚きだ。

 まぁサラディアナとしては間違いなくキエル派だ。



「ま、とにかくだ。今回太陽と月の2人が先陣切って威嚇戦線を行うらしい。圧倒的な魔力を持って相手を降伏させてまいだな。」

「何事も無く終わればいいわね」



 紅茶を飲み干したニコルがふうとため息をついた。



 戦争は誰もが避けたい事柄だ。

 有事の時のために彼らは日々精進しているのは理解している。

 しかし、いざその本番が来ると思うと、その人達の家族や恋人や友人の事を思うと辛い。

 残していく人も、残されて行く人も皆同じ"苦しみ"がある。

 キエルが村から離れると聞いた時でもあんなにも心が揺らいだ。

 しかし、それは自分に力が無かったからだ。

 あれから3年。サラディアナは血の滲むような努力をした。

 それもこれもキエルの力になるために。


 今回キエルの力になるのは無理だろう。

 それでも、いつかは彼の力になって、魔導具技師としてそばに居られる。

 そう思うと少しだけ苦しさが和らぐのだ。

 自分はもう無力な幼馴染ではないのだと、胸を張って言えるように。


「ティトさん」

「お?」


 突然声をかけられたティトを瞳を見開いた。

 サラディアナは空間魔法が付与された棚から1つのものを取り出した。




「これあげます」

「....これはアンクレットか?」


 棚から出したのはアンクレット。

 ごく普通のアンクレットだが、ここに聖魔法に特化したスライムを粒子状にして練りこんだ魔法石を付けてある。さらにそこに魔導師によって風魔法を付与してもらっている。



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