第20話
「....キエル」
3年の月日が経っても一目であの横顔が"
魔導師の服をきっちりと纏ったキエル。少しだけ伸びた身長。ああ、でも筋肉がついて少し顔が引き締まったように見える。
横顔だけでもサラサラと風で靡く髪は相変わらず綺麗な金髪だ。
サラディアナの好きな黄金色の瞳は、先ほどの自分ように桜を仰いでいた。
「────ッ‼︎」
サラディアナは両手で口元を押さえた。
サッと物陰に隠れてうずくまる。
そうでもしないと叫び出しそうだった。駆け出しそうだった。
でもまだどうやって彼に向かい合えばいいのなわからなかった。
「サラ?」
サラディアナの様子を見ていたアシシは心配そうにサラディアナのとなりに腰を下ろす。
チラリとキエルに視線を向けるが、何も言わずにそっとサラディアナの頭を撫でた。
「キエル!やっぱりここにいたか!」
サラディアナが隠れた物陰近くを通り過ぎた男がキエルに近づく。
キエルと同じく魔導師と思われる服を身につけたガタイの良い
「魔導師長が呼んでるぞ!お前隙あらばここに来るのな!」
「探しやすくていいでしょう?」
「うっせぇふざけんな!」
サラディアナが聞いたことの無い崩れた豪快な物言いを、キエルは爽やかな笑顔で流す。
キエルはそっと桜に手をかざした。
ふわりと彼から桜の木へ光が移動した。
「あと数日ですかね」
「この桜もだいぶ保ったよ」
「さすが我らの副師長さま」と揶揄したような口ぶりでザントは笑った。
王都内の桜は保ちが長い。
庭師が咲かせた花の時間を魔導師が遅くてしていると聞いた。
研究も兼ねているらしいが、その魔法をキエルが行なっていたのか。
「しかしお前ぇ、この桜の木に随分粘着してんな。他の奴らなんか2日にいっぺん魔法かけるだけだぜ?」
「....せめて毎日やっていただかないと研究にならない気がしますが」
困ったように笑うキエルは再び桜に目を向けた。
「故郷においてきた幼馴染を思い出すんですよ」
「......ほう?」
ザントの目がすっと細まる。
「赤銀色の髪で、とても優しい子なんです。どこかいつも気を張っているんですが僕の前ではその表情が少し緩むんだ。それが嬉しくて。あの子にもこの桜にも必要とされると嬉しいんです」
敬語と私用語の混じったキエルの話し方にザントは口角をあげた。
本人も自覚していないようだが一人称が"僕"なの所が彼の本質を垣間見た気がする。
「でももうこの花も見納めですね」
「また来年って所な」
「来年....」
キエルは長い睫毛を落とす。
しかしその陰りもすぐに消して、ザントに「そうですね」と笑いかけた。
「さて、師長が呼んでらっしゃるんでしたね」
「そうだった!きっと今日の共同訓練の小言だ!」
「ちょっと暴れすぎましたからねぇザントが」
「俺じゃねぇ!!」
先ほどの雰囲気を一掃させた2人はマントを翻し、助走も付けずに近くの壁をタンッと登る。
そのままひらりと向こう側へ降りていくと2つの足音が少しずつ遠ざかっていった。
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