第19話




「今手が空いていない。1週間後くらいに直すように調整しておく」

「うん。頼むよ」

「それまでは大人しくしてるんだな」

「はいはい」



「頼んだよ」ともう一度声をかけて、今度は外套の上からセドリックの頭を撫でた。

 嫌がるそぶりはそうそう見せず受け入れるセドリックにサラディアナは瞳を瞬かせる。



「....なに?」

「いえ、されるがままだったので」

「セドは俺の事を好きなんだよ」

「いいから早く出てけ!」



 シッシと手であしらうそぶりを見せた後、セドリックはサラディアナの方へ顔を向けた。



「お前も、宮廷内の担当道具の点検に行ってこい」

「あ!はい!」

「じゃあ途中まで一緒に行こうか」



 先に立ち上がったアシシがサラディアナの方へ手を差し出す。

 戸惑いつつその手を取ると、サラディアナが立ち上がった瞬間にそれは放された。

 男の人に触れる事はキエルが村から出てから殆ど無かったのに、この男は先ほどから妙に触れてくるなとサラディアナは感じた。

 男女の距離感というのはよくわからない。ましてや王都特有よ距離感もあるだろう。

 サラディアナは離れていった手をチラリと見た後に気にしないように努めたのだった。




 部屋を出て音楽室の方は足を向ける。

 何度か行き来したその道順はなんとなくだが1人でも行けるくらいの自信はついた。

 少し歩いてからサラディアナはクルリと後ろを向いた。



「どこまでご一緒するおつもりで?」

「んー音楽室までかな」

「飽きたら帰ってくださいね」

「うん」


 何を言ってもダメだと言うことをわかってきたサラディアナはそのままアシシを放置することにした。

 トコトコと記憶を辿りに足を進める。

 途中、中庭に通じる廊下を通った。

 さぁ────

 風の通り道のようでここにくるたびに風を感じる。

 サラディアナは立ち止まりその風を受け止めた。

 赤銀色の髪が大きく靡く。

 王都はなんとなく空気が悪い気がする。

 サラディアナの居た村の当たり前が実はそうでない事を村から出て気づいた。

 キエルの時と同じだ。

 失って初めて気付くのは人間のさがのようなものなのかもしれない。



 ふと目を開く。

 ここに来て満開だった桜。今は綺麗に咲く役目を終えて綺麗に舞い散り命を終える時期だ。

 王都内の桜は保ちが長い。

 庭師が咲かせた花の時間を魔導師が遅くてしていると聞いた。

 研究も兼ねているらしいが、少しでも長く見られるのはサラディアナにとって嬉しかった。




 桜の中にキエルを見た。


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