第17話


「お前のその技術を教えたのは、師匠か?」



 サラディアナの手元には、昨日から作業を始めた掛け時計があった。

 かなり古い時計だという。

 意図的に壊して罪になったら、五回は流刑に処されレベルらしい。ちょっと良くわからないが、壊してはいけないことはわかる。

 この時計が、先月くらいから少しずつ秒針が遅れて時間がずれているらしい。

 視診では単なる魔法石の魔力不足だ。

 サラディアナは魔法石を外すための作業にかかっていた。



「そうですね。師匠が私に魔導具技師のいろはを教えてくれました」



 キエルが魔導師になると言って村を出た時、サラディアナを奮い立たせてくれたのがその師匠だ。

魔導師キエルの役に立つ事を教えてくれ」と言った時にはげんこつも食らった。

 そしてキエルのためではなく国の宮廷魔導具技師になるための技術を叩き込んでくれたのだ。

 もしキエルのためにと思って学んでいたら、宮廷魔導具技師にすらなれていなかっただろう。

 キエルの助けにと思えば軍事班に就きたかったが、日用班も文化班も巡り巡ってキエルの助けになる事をサラディアナは知っている。



「だから、師匠は一人で十分なんです」

「だろうな」


 先程の話を思い出して、強調するように答える。




「お前の年でそこまで技師の技術を持ってるのは大したもんだ。」

「...いま褒めました!?」


 褒められたことにびっくりしたサラディアナは手元のネジを1つ落としてしまい慌てて拾い上げる。

 良かった壊れていない。壊したら首が飛ぶ。



「おー褒めた褒めた。あと100年経てば俺に並ぶ宮廷魔導具技師になれるな」

「......そうですか」

「ははっ」


 あげて落とされた。こういう反応をしてくる人間は村に居なかったので、サラディアナはいつも対応に困る。

 ただ、この男の言う通りここ数日で彼の技術は凄いと尊敬しているのだ。



「今に見ていてください。貴方の技術を全部盗んでやります」

「それは楽しみだね」



「200年後が」と付け加えるセドリックをサラディアナは悔しそうに睨みつけた。



「ずいぶん仲良くなったものだね」



 唐突にドア付近から声がかかる。

 サラディアナは聞き覚えのあるその声に肩を揺らした。

 セドリックはチッと舌打ちをするととびら前にいる相手を睨みつける。



「今日は手が空いてない。他所をあたれアシシ」

「可愛い女の子と話すのに夢中で手が動いてなかったようだけどねセド」




 出会った時と同じような太陽の笑顔をした、アシシが立っていたのだ。





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