第16話


 この日サラディアナはセドリックに向かって愚痴をこぼしていた。

 セドリックの部屋2人とも作業をしながらの雑談だ。

 憤慨する様子なのはサラディアナ。そのサラディアナの話を適当な相槌で聞くのはセドリックだった。

 サラディアナの話はここ最近知った"技師の鴉の弟子"について、だ。



「弟子ねぇ....」

「知らない人にジロジロ見られると思ったら、ルームメイトに聞いたんです。この前私とドラフウッドさんが並走してるのを見られていたらしくて」

「はっ...並走」

「掘り下げて欲しいところは"並走"じゃなくて"弟子"って事です」


 セドリックの笑いにサラディアナは反応した。

 数日一緒にいてわかった事だがこの人意外とツボが浅い。変な方向で。

 あと、意外と喋ってくれるし話を聞いてくれる事もわかった。

 不安だった仕事環境も悪く無く、魔導具技師として働いて数週間。サラディアナは意外にもすんなりと仕事に溶け込んでいた。



「俺が部屋を出ることなんて滅多に無いからな」

「ほとんどの仕事をここでしますよね」

「やれる事はな」



 先日はサラディアナがまだ城内の場所を把握しきれて居ないので案内を兼ねての並走だった。

 並走をお願いした時、これ以上無いと思うほど嫌そうな顔をされたのは記憶に新しい。

 この男、出不精と言う事もあるが、多分人と関わる事も嫌いなのだろう。

 "技師の鴉"なんてふざけたあだ名も、好奇な眼差しを向けられるのも。

 だからこそこのセドリックの部屋が彼にとっての砦なのだ。




 セドリックは部屋から出なくてもそれほど困らない。要はここに持ち込んで仕舞えばいいのだ。

 彼の仕事は主に楽器や文化物の魔導具の管理と魔法石の研究だ。

 文化物が壊れる事は殆どないが、壊れたものを修理するのには繊細な修理が必要で時間がかかる。

 そしてここにいるセドリックはガサツな物言いとは裏腹にとても丁寧に治すのだ。

 しかし、それだけでは無い。

 宮廷魔導師として優秀な彼は、もちろん魔導具技師の中で指折りの技術を持つ。

 ほかの技師がお手上げだった仕事も請け負っている、つまり全能オールマイティと言うわけだ。



「メンテナンスで楽器室にいくときは転移魔法で何とかなるし、後は誰かに持って来させる」

「....宮廷内での転移魔法は制限されてるって」




 サラディアナの指摘を受けてセドリックはニヤリと口角を上げた。

 ここは国王や王族がいる場所。

 不届き者の侵入を防ぐために魔導師によって様々な魔法や制限がされていると聞く。

 特に攻撃魔法や転移魔法はかなり強い制限がかかっている....はずだ。

 サラディアナは追求するのを辞めて手元の仕事に集中する事にした。



「弟子といえば」

「え?」


 サラディアナの作業をじっと見つめていたセドリックは、珍しく声をかけてきた。




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