第15話
「おいおいおいおい」
ザントの声に、目を瞑っていたキエルは我にかえる。
声の方を見ると呆れたような顔をするザントと苦笑いの新人がいた。
「おめーふざけんなよ。美人顔が桜の木の下で物思いにふけるなんてどんな拷問よ。肖像画でも描いてやろーか?」
「....すみません」
周りを見ると、二人だけで無く周りの騎士団や魔導師達もこちらを見ている。
数人は少し顔が赤い。これはいけない。
キエルははぐらかすように笑い謝罪を口にする。
「桜が綺麗だなぁと思って」
「美人の話より木の話かよ」
ケッと不貞腐れたようなザントの言葉に新人はハッとする。
「そういえばキエルさんって恋人とか居ないんっすか?」
「バカかお前。恋人っつーことは、この顔の隣ぃ歩くんだぜ。俺が女なら御免被るわ」
「ははっ...」
キエルは、生き抜く術として習得した「笑って誤魔化す」を披露する。
こういった時は話を流すのが1番効率がいい事を知っているからだ。
「じゃあ、その"技師の鴉"さん所の美人さんならいい感じになるんじゃないっすか?」
良さに妙案だというようにテトが顔を明るくした。
「あいにくですが、恋人はちょっと」
「そう言ってお前この前も飲み屋のねーちゃん振ってたな」
「あー羨ましい胸だった」なんてザントは下衆な発言をする。
キエルは「ザント」と叱咤した。
新人魔導師は若干面白そうに顔を向けてきた。
「男色家って訳でも無いですよね」
「偏見は無いですが、恋愛対象は女性ですね」
キエルの発言に、周りで聞き耳を立てていた数人が落胆したような仕草をした。
宮廷魔導師になって男性陣と生活する時間が増えて、恋愛対象が同性という人も居ることを知った。
顔も気立ても物腰も良いキエルも標的にされない事もなかった。
キエルとしては事実偏見は無いが応えることが出来ないので対処に困惑する事はしばしばなのだ。
ザント達の発言によって思わぬ所で牽制できた。
じゃあなんで?と食い下がる2人に、キエルは困ったように眉を下げた。
「自分はまだ魔導師になって四年目です。仕事の方に力をいれたので」
「うわ!超真面目発言」
ザントは「つまんねー」と叫んだ後、止まってた足を再び動かした。
目の前を歩く2人に向かって、キエルはニコニコと笑顔を保ったままついていく。
「とにかく!近いうちにセド呼んで色々聞いてみるか」
「それよりもザント。今日の合同訓練をしっかりしてくださいね。あなた、諦めが早いのと雑な所がありますから」
「うげ!!副師長の小言が始まった」
少しだけ早足になるザントにキエルはしたり顔をする。
もう一度少しだけ桜の木に目を配る。
赤銀色の髪の幼馴染を少しだけ脳裏に思い出し、キエルはザント達を追いかけた。
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