第14話


「おい、知ってるか」


 この日、騎士団の練習場は浮足立っていた。



「あの、"技師のからす"がついに弟子をとったって」

「は?あいつが?」

「なんでも技師長が推薦したらしくて、すっごい美人らしい」

「は!?あいつにしては生意気」



 最初こそ小声だったその会話も、どんどん大きくなっていく。

 その場面に遭遇したのは、宮廷魔導師の数人だった。

 今日は騎士団と宮廷魔導師の合同練習だ。



「技師の鴉ってなんスか?」

「ああ。新人君たちは知らなねーか!セドリック・ドラフウッド。凄い魔力を持った宮廷魔導具技師だよ。」


 騎士団の会話に興味を持った新人魔導師テトは、上司の説明に目を丸くする。


「へー!そんな人がいるんっすか」

「時々魔導師の訓練に来るぞ〜。たまに騎士団とも相手をするんだが、まぁ魔力も武術も剣術もそこそこ上にいく奴でなぁ。部屋に引きこもっているやつに負けるっていうのが悔しくて、やっかみ受けてんだよ」



 がはははと笑う上司の男は、テトが思うほどやっかんでいないようだ。

 むしろ好意的な気もしなくはない。



「あってみたいっすね」

「おーおー。必死こいて鍛錬してりゃいつかは会えるだろ」

「そのセドリックさんってキエル副師長より強いですか?」

「え?」



 新人がくるりと後ろを振り向く。

 そこで今まで黙っていた後ろにいた男───キエル・ハワードが目を瞬かせた。



「キエルとセドかぁー。そりゃ見物だわな」

「って事は互角って事っすか?」



 すげーと興奮するテトに、キエルは眉を下げて笑う。


「どうかな。少なくとも俺の方が魔力は弱いからねぇ。彼国一番の魔力の持ち主って言われているし。」

「戦略とか頭脳戦が得意なキエルと、やる気皆無のセド。魔導師長に頼んで対戦してもらうか」

「やめてくださいねザント」


 ザントと呼ばれた男は再びガハハと大笑いをするとはぐらかすように「それより」と話を続けた。


「俺はセドリックの話より、弟子の美女って所が気になるぜ」

「そうっすね!」


 賑やかな2人は美人という女性について想像力を働かせる。

 キエルは自分の話題が過ぎたことにほっとしつつ、2人の後ろを歩いた。


 さぁっと強めの風が吹いた。

 その風とともに近くの桜の木から花弁が舞う。

 キエルはおもむろに足を止めると桜の木を見るために天を仰いだ。



 ここに来て4年目の春だ。

 その間にキエルは宮廷魔導副師長にまで上り詰め、国王に認められて"ハワード"という姓とともに爵位も賜った。

 類い稀なる魔力はキエルが思っている以上に強いもので、この宮廷内でも群を抜いていたのだ。

 しかし、それだけでは三年でこの地位確立は無理だった。

 たゆまぬ努力と持って生まれた素質センス

 そして何より宮廷魔導師としての確固たる意思が身を結んだ結果だ。

 周りのやっかみも無くは無かったが、天性の人誑ひとたらししである性格キャラクターで乗り切った。


 それもこれも全て力が欲しかったから。




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