第13話
「ここは、ドラフウッドさんの仕事場なんですか?」
「そうね。彼は特別なのよ」
「ああ....問題児だからですか?」
「はっ!問題児」
サラディアナの発言にと蔑むように笑うセドリック。
しかし、それは一瞬でこちらに興味もなく手元の作業を続けた。
「セドリックは魔導師としても一流の力を持っているの。数十年に一度の逸材とも言われているわ。」
「え....」
"魔導師"という単語に思わず反応する。
キエルの顔が脳裏を過ぎったのは勿論だ。
しかし目の前にいるこのセドリックという男が一流と言うのにも驚いた。
「でも宮廷魔導師への推薦を蹴って宮廷魔導具技師になりたがった。ただ、それを是としない魔導部門のトップがごねてね。
「....なぜ、宮廷魔導師にならなかったのですか?」
宮廷魔導師はエリートと言われる花形部署だ。
魔法石の力に頼っている一般人は入れない。
石を使わずに魔法を操れる人間を魔導師というなら、さらに絶大な魔力を持った物の一握りしか入ることができない。
誰もが憧れる職種。それが宮廷魔導師。
逆に魔導具技師は、魔法が無くてもが知識や技術があれば誰でもなれる。
だからサラディアナもここまでこれた。
しかし、この宮廷内ではカーストでいう下位に位置するだろう。
力があるなら魔導具技師より魔導師の方が遥かに良い(金銭面も含めて)生活ができるだろう。
サラディアナの疑問に鼻で笑ったセドリックは顔を天井に向けた。
「何の魅力もないからだよ。自分達が偉い、有能だとか思ってるようなあんな脳筋単細胞バカ相手にするより、繊細で過密で神秘的な魔法石の力を愛でる方がよっぽど有意義な人生だ」
さらりと髪が肩を滑る。
片目の瞳がうっとりと、浮遊する魔法石を見つめた。
その眼差しに既視感を覚える。
なるほど、これは問題児というより変態だ。
魔法石に恋をしている変態。師匠と同じ。
サラディアナは確信を持った。
「それじゃあセドリック。サラディアナを頼んだわよ」
「嫌ですよ」
「大丈夫。あなたならきっとできるわ」
ふふふ。と有無を言わさないジェルマをひと睨み。
しかしその後はぁと諦めのような溜息を一つついただけだった。
それをみとめたジェルマはニコリとサラディアナに微笑む。
「何かあったらいつでも相談にのるわ。でもきっと大丈夫よ。彼ああ見えて面倒見は良いの」
「はぁ...」
何とも言えない反応をしてしまった。
上司に対してあるまじき返事だ。しっかりせねば。
サラディアナは扉に向かうジェルマに慌ててお辞儀をした。
パタンと扉が閉まる音。
気まずい空気。
サラディアナはくるりと踵を返すと、今度はセドリックの方に向き直った。
「えっと。...ドラフウッドさん。よろしくお願いします。」
片目の瞳と目が合う。
セドリックはもう一度深い溜息をついたあと、ちょいちょいと手招きをした。
「....とりあえずこっちに来て。足手まといになるようなら速攻で追い出すから」
「はい」
どうやらすぐに追い出すつもりはないようだ。
サラディアナはほっと息を吐き出すと、言われた通り彼の方へ向かった。
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