第12話


 ジェルマの後をついて、サラディアナは王宮の奥へと向かう。

 もともと魔導研究科の部屋は王宮内の端に位置していた。

 だが、これから向かう場所もかなり奥だ。


「ジェルマさん。問題児ってどういう事ですか?」

「会えばわかるけど言葉通りの意味よ。大丈夫。魔導具技師としては一流なの。」



 いや、全く大丈夫な気がしない。

 そんな時を思っているとほどなくして、ある一室の前に来ていた。

 ドアには"ドラフウッド"と書いてある。

 そしてその扉の下に紙切れが落ちてた。そこには"サラディアナ"の文字。



「ビンゴ」


 ふふふと笑うジャルマは、そのままその部屋のドアを叩いた。


「....はい」


 少し経った後に返答の声がある。

 ジャルマはそれを確認するとドアノブを捻って中へ入室した。

 中は図書館かというように天井まで本棚で埋め尽くされている。

 それなのに地面には一つも本が置いてなくて逆に真っ白すぎるくらいの床面が見えている。

 広々としたソファの上にひとりの人間が座っていた。

 無造作に伸ばされた長い黒髪は顔全体を覆っていて表情だけでなく輪郭すら見えない。

 それに合わせたような黒い外套を見にまとっている。

 猫背にしたその背中は伸ばしたら高そうだと予報されるが、外套から見える腕は細く筋肉が少ない印象を受けた。

 しかしサラディアナは目の前の人間について詳細に観察する暇がなかった。

 何故ならその人間の周りに浮遊しているものがあり、それに目を奪われたからだ。


「魔法石....」



 大小も色もさまざまな魔法石が彼の周りを浮遊ていた。

 それはこの空間に不釣り合いなようで、でもどこか共存しているよう。

 それは、今まで見てきた何よりもの景色に引けを取らない凄く神秘的なものでサラディアナは思わず息を呑んだ。



「あなたまた扉に阻害魔法をかけたわね。お陰で私の魔法が届かなかったじゃないの。」

「.....」

「セドリック?聞いてる?」


 "セドリック"それが彼の名前なのだろう。

 名を呼ばれた男はようやくジェルマの方を見やった。

 顔の右半分はやはり髪で覆われて見えない。

 辛うじて見えた左目は漆黒で、冷たい印象が強いが、どこか人を惹きつける力を感じた。


「仕事の邪魔になるもので」

「仮にも上司だぞ私は」



 頭を抱え溜息をついた。

「君の部下を連れてきた」

「結構です」


 風のような速さで拒否の言葉。

 すでに視線はこちらには無く手元にある何かに向いていた。

 だかジェルマはそれを受け流しニコニコと声を掛けていく。



「名前はサラディアナだ。色々教えてやってくれ」

「.....」

「サラディアナ。これはドラフウッド、セドリック・ドラフウッドだ。担当は文化班。主に楽器や文化物の魔導具を管理している。わが宮廷魔導具技師の期待のエースよ。ちょっと性格と社交性に難ありだけど。」

「なんですかその紹介」



 話は聞いていたらしい。

 セドリックは胡乱げにジェルマを見た。

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