第7話
この能力を知っているのは、サラディアナの魔導具技師の師匠。そしてキエルの2人だけだ。
最初に見つけたのは勿論キエル。
それを知った時驚く表情のあと、今までに見たことも無いくらい怖い顔をしていたのを覚えている。
そのあとすぐに「これは2人だけの秘密だ」と約束を交わされた。
何故キエルがこんなにも怖い顔をしたのかサラディアナにはわからなかった。
師匠には自分から伝えた。
そして、キエルと同じくこの力を隠すように厳命されたのだ。
しかしありがたい事に師匠はこの力の脅威を説いてくれた。
その時始めて、キエルがあの瞬間に何を考え、予想しサラディアナを守ったのか理解できたのだった。
だからこそ、ここで肯定の意を唱えてはならないのだ。
サラディアナの表情を見ていた青年は、先ほどの雰囲気を消失させニカリと笑った。
「だよね!そんな力持った人いるわけないし」
「いるのなら希少もいいところです」
油断して下手にでれば揚げ足を取られる可能性もあるので、サラディアナは当たり障りの無い事でやり過ごした。
目の前の彼も「たしかに」なんて言ってカラカラと笑っている。
はぐらかせたのかわからない。
だが青年も食い下がるつもりは無いようなので、サラディアナは内心安堵した。
「それでは、そろそろ城に向かわないと本当に大変なので失礼します」
荷物を抱えてお辞儀をしたサラディアナ。
青年は「うん」と頷いて右手を差し出してきた。
「俺は、宮廷魔導師のアシシだ。城内であったら声かけてくれ!」
「え」
"宮廷魔導師"
その単語が耳に入った瞬間、ドクリと全身に血が駆け巡るような感覚に捉われた。
アシシはキエルと顔見知りかもしれない。
そう理解して、サラディアナは思わず口を開きかける。
「ん?」
「.........いえ。」
寸での所で、サラディアナは口から出かかった声を飲み込んだ。
今ここでキエルの事を聞いて、もし自分が知らないキエルの情報に受け止める自信がない。
逆に、サラディアナが王都にいると、キエルが人づてに聞いてしまう事でどう思うかわからない。
まずは仕事に慣れて落ち着くことが先だ。
サラディアナは未だ見つめている空色の瞳に向かって
「縁がありましたらまたお会いしましょう。アシシ」
丁寧にお辞儀をした後、サラディアナはようやく青年───アシシから解放されて城へと足を向けた。
桜の花びらぎひらひらと舞う。
その花と同じ赤銀色の髪を靡かせた背中をアシシは優しい瞳で見つめていた。
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