第6話


「おねえちゃん、ありがとう!!」



 1時間後大きく手を振った女の子は元気なお礼を言ってお母さんと帰っていった。

 結果で言えは修理成功。

 500年前のオルゴールは、3つの石のバランスによって綺麗な音を出している作りになっていた。

 サラディアナは石のバランスの調整や記憶された曲の編成などを行った。

 女の子のお母さんは何度もお礼を言ってくれた。

 それがとても嬉しかった。

 サラディアナはふうっと一息ついた後荷物を片付ける。

 思った以上に時間が押してしまった。急がなければ。

 その時。



「すごい技術だな」

「!!」



 背後の、しかもかなりの近距離で声がする。

 ガバリと振り向くとそこにはニコニコとこちらを見ている青年が立っていた。

 自分より5〜6歳年齢が上に見える。空色の髪と瞳が印象的だ。真っ黒な外套を着ているが仕草に大人っぽさというか気品というかを感じる。




「君、宮廷魔導具技師?」

「はい。明日から配属されます」

「ふーん。じゃあ新人さんだ!」



 サラディアナの答えに驚くことなく笑う青年。

 さらにしゃがみこんでいたサラディアナの手を取ると軽々と立ち上がらせた。

 目線が近くなった事でサラディアナはふとある事に気づく。

 彼の外套の留め具には王宮で勤めている証である「宮廷徽章」が光っていたからだ。

 これを城門で見せると城内に入れる、言わば入門章の役割を果たしている。



「あなたも宮廷内でお仕事を?」

「ん?まぁそんなとこ!」


 サラディアナの視線に気づいた青年は、宮廷徽章を揺らし輝かせながらまた笑った。

 よく笑う人だなと思った。

 キエルが優しく朗らかに笑うのに対して、この人は電気を灯したように笑う。



「それより君さっきのオルゴールどうやって直したの?」

「....石のバランス調整です」


 サラディアナは素早く一礼すると踵を返す。

 時間が押しているのも勿論だが、サラディアナはその話をしたくないのだ。

 しかし、青年は「まぁ待て」と言うようにサラディアナの行く手を阻んだ。



「通してください」

「じゃあこれだけは教えてくれる?」


 青年は恐ろしくなるほど冷めた視線をサラディアナに向けた。

 有無を言わせない。その視線に怖くなる。




「君、石の力を蘇らせるような、そんな力を持ってるのかい?」

「そんなわけはありません」


 きっぱりとその質問を否定する。

 そうできたのは、そう質問されると予想できたからだ。

 先程のオルゴールが動かなくなったのは3つの魔法石のチカラのバランスだ。3つのうちの2つがもつ本来の石の力を失っていた。そのバランスが保たなくなった事で、音を出す力が無かった。

 だからサラディアナは魔法石の力を蘇生させた。本来消耗品である魔法石の力を、だ。


 もともとサラディアナの魔力は平均値。

 魔法石を使って日常的な魔法を使える程度だ。

 キエルは魔法石を使用せずに魔法を使える。しかも、奇異と言うべき強力な物をだ。だからこそ宮廷魔導師になれたのだ。

 しかし、そのキエルでもサラディアナのように魔法石の力を蘇生することはできない。

 そのような能力は、現段階において確認されていないのだ。

 つまりそれはこの世の理を覆す事。"隠すべき能力"である。

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