第5話


 王都では桜が咲いていた。

 春の訪れはどの地域でも同じで桜も村にあるものと同じだ。

 でも、違うこともある。

 それは人の多さである。

 サラディアナは1週間かけて村から王都まで馬車を乗り継ぎやってきた。

 田舎で暮らしていたサラディアナにとって、王都の活気や人混みに眩暈を起こすのは十分だった。




「気持ちが悪いわ....」



 サラディアナは王都に入ってすぐの木陰で腰を下ろしていた。

 1週間の旅路の疲れもあるだろう。

 それでも想像していた風景も違って頭が回らない。

 その上、「近くにキエルがいるかもしれない」というか期待も相まって心も落ち着かない。


「少し休んだらお城に向かわなくちゃ。」


 目を細めて目の前の大きなお城を見る。

 この大通りをまっすぐ行けば城門まで行けると、王都に入る際に守衛に伝えられた。

 就任日は明日だ。

 今日の夜までに城につけば明日の朝には間に合う。

 だが職場や自分の動線は確認したいので今日のお昼過ぎには到着したいと考えてはいる。

 桜の木の下からゆっくり立ち上がり服についた砂をパンパンと叩く。

 自分と同じ色の桜は好きだ。

 でもキエルと最後に交わした会話はこんな桜が満開に咲く春の季節だった。

 少しだけ痛む胸に気づかないフリをしてサラディアナは一歩前に踏み出した。



「うわーん!!」

「もう!仕方ないでしょう!」



 歩き始めて少し経つと大通りの隅で女の子とお母さんの思われる女性が目にとまる。

 泣いているのは女の子のようた。

 女の子の手には小さな箱を抱えていた。



「だって!これお父さんがくれた、みいのたからもの!」

「でもねぇ。技師さんがもう直せないって言ってたじゃない」

「やだーー!!!」



 どうやら、女の子の大切なものが壊れて直せないらしい。

 サラディアナは少し躊躇した後、女の子に近づいた。




「そのたからもの、みせてくれる?」

「え?」

「わたしも"まどうぐぎし"なの」



 できるだけ優しく声をかけると、女の子は恐る恐る宝物を渡してくれた。

 宝物はかなり古そうなオルゴール。中を開けると小さな魔法石が3つ程使われたもののようだった。


「....古いわね」

 軽くみても500年ほど前の代物だ。今で動いていたのが不思議なくらい。

 王都では最先端が揃うものだ。

 もうこの手のオルゴールを扱える人間が居ないのかもしれない。



「なおる?」

 女の子が心配そうに聞いてくる。

 サラディアナは少しだけ微笑んで小さく頷いた。



「まえにおなじオルゴールをなおしたことがあるわ」



 その返答に女の子はパアッと顔を明るくさせた。

 サラディアナは懐から技師道具を取り出すとオルゴールの修理に取り掛かった。



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