第4話


 この世界には魔法が存在する。

 殆どの人は僅かな魔力しか持っていないが、魔法石と呼ばれる石を媒体にして様々な魔法道具によって魔力を補い操作する事で生活を成り立たせていた。

 例えば電気。魔法石を使えばランプの火はともりり電気はつく。しかし、それは石による力だ。ランプの光の強弱をつけたり色の変化をつけるにはそれなにの道具がいる。道具を作るのは開発者だが、その道具の整備などは魔導具技師が担うのだ。

 魔導具技師は魔法道具の開発や管理、整備などをする技師の事だ。

 そして宮廷魔導具技師は、宮廷に勤める魔導具技師の事を指す。日常使用される道具は勿論、魔導師が使用する魔導装置や武器など希少道具の管理や整備を行う。そのためより優秀な人材が求められている。

 サラディアナは今年その試験を受験した。




「宮廷魔導具技師ってお前....」



 口を大きく開けてティムは固まる。

 その反応は想定内だ。

 なんたって宮廷魔導具技師。倍率が高い。

 それでもサラディアナはどうしても宮廷魔導具技師になりたかった。




「キエルの力になりたいの」



 思わず出た心の声はこの3年間でずっと唱えてきた言葉だった。

 そう。宮廷魔導具技師になりたい。

 技師になれば、キエルの使う魔導装置をメンテナンスできるかもしれない。

 自分の力でキエルを守れるかもしれない。

 出来なくても、何か手助けが出来るかもしれない。

 少しでもそばにいたい。

 サラディアナにとってこの3年間の支えだった。

 その一心で猛勉強したし、村にいる魔導具技師に学びを請うた。

 出来うることをやってきたのだ。




「おまえ!!」

「!!」


 突然ティムに腕を掴まれた。

 びっくりして身を硬くする。

 目の前にいるティムは怒っているようでサラディアナは戸惑う。



「まだあいつのこと好きなのかよ!」


 あいつとはキエルの事だとすぐに理解した。

 でもなぜティムがそのことを知っているかわからなかった。

 そして何故こんなに怒っているのかも。



「ティム?」

「3年だぞ!3年もお前をほっといて!その間お前はずっと泣き続けて!!やっと泣かなくなったと思ったら家に篭って!なにやってるかと思ったら.....」



 だんだんしりすぼみになるティム。

 ぐっと眉を潜めると小さい声で呟いた。




「あいつのこと考えていたのかよ....」

「ティム....」

「俺の方がお前を幸せにできる。泣かせないのに。」



 ここまで言われてサラディアナはようやく気づいた。

 ティムの気持ちに。

 ティムは自分の知る気持ちをサラディアナに向けていたのだと。

 どうして良いか分からずオロオロしてみたが、せめて心を残さないようにとサラディアナはティムを見据えた。





「ごめんなさいティム。私はキエルが好きなの」

「3年も待たせるあいつなんか、お前の事なんとも思ってないぞ」

「....わかってる。それでもいいの」



 一生好きだから...

 最後に繋がる言葉は紡ぐのは辞めた。

 その言葉は言う必要もないし、自分の心の中に留めておくべき事だと思ったら。




 ティムと玄関先で別れて届いていた封筒を開けた。

 この日サラディアナは、王宮行きを決めたのだった。



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