第3話


 あれから3年が経った。

 サラディアナはキエルと同じ歳だ。

 髪も伸びたし背も伸びた。顔立ちも幼さが消えて大人の会話にも馴染めるようになってきた。

 しかしこの3年、キエルがこの村に戻って来ることは無かった。




「サラディアナ!」



 後ろから声がかかる。

 赤銀ピンク色の髪をなびかせてサラディアナが振り返った。

 後ろから声をかけてきたのは同じ学校に通うティムだ。

 村長の一人息子で将来有望だと村人は口々に言う。

 茶色い髪を1つに結んだ少年は顔を少しだけ紅潮させてサラディアナに駆け寄ってきた。




「サラディアナ!相変わらず重そうだな!代わりにもつよ!」

「....ありがとうティム」



 ティムはサラディアナの腕にある数冊の本を奪い取るように取り上げた。

 彼はこうしていつも本を取り上げては家まで持ってくれる。

「大丈夫だ」といっても聞き入れてくれないので最近は抵抗するのをやめた。

 ティムは自然とサラディアナの隣を歩く。

 サラディアナはそっと息をついた。




(私の隣はキエルの物だったのに)



 3年経っても忘れる事が出来ない大切な幼なじみを思ってサラディアナは瞼を下げた。

 そんなサラディアナを横目にティムが緊張した様子で息を吸い込んだ。




「サラディアナ。良かったらこれからネミリ姉さんのお店でお茶でもしない?」



 サラディアナはティムの方を顔をあげるときょとんと首を傾げる。

 ネミリ姉さんのお店とは、村で数少ない甘菓子屋さん《カフェ》だ。

 姉さんが作るケーキは絶品で居心地が良いのでつい長居してしまう癒しスポット。

 でもティムにお誘いを受ける理由が思いつかなかった。




「えっと。ごめんなさい。今日は用事があるの」



 サラディアナはティムの誘いを断った。

 用事があることは嘘ではない。

 ティムは少しだけ悲しそうな顔をしたがなおも言い募る。



「用事ってなに?急ぎなのか?」



 急ぎかと言われてサラディアナは菫色の瞳をパチパチと瞬かせる。

 急ぎ....かと言えば急ぎだ。

 ティムは返答を待っているように口を結んでいる。

 少し躊躇したのちサラディアナは頷いた。




「宮廷魔導具技師試験の結果が来る予定なの」


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