第8話 それぞれの視点 教師視点

「ほう、クルミのやつが戦うのか?あいつは確か入学式の時に

 目立っててやつか?」


二年の授業が終わった一人の教師が、ある一つの試合を

見に来ていた。



「あら〜、猿渡先生〜。今始まるところなんですよ〜」

先に外野席に座っていた、一人の女性が間延びした声を出した。


「教頭、いいんですか、遊んでて?」

巨大な体格でドカッと、その女性の隣に座る。


「いいんですよ〜。将来有望な生徒は何人か見かけましたから〜」

膝まで届く緑に輝く髪を揺らめかせ、エプロンをかけた女性が微笑む。


深淵学園第一教頭=デイジー・アロマロス= レベル500 

ジョブは魔法使いジョブを極めた「魔帝」

魔力が宿るという、緑に輝く髪。イギリス人の母とアメリア人の父をもつ女性。

目は青色でどこから見ても外人だが、外交官の両親の影響で日本語が上手い。

間延びした話し方をするが、戦闘では無詠唱で魔法を放つ天才。

昔の勇者のレベル300を軽々と超え、世界で3位に入る魔女だ。

性格は表向きは優しいが、悪意を持つものや、犯罪者にはとても厳しい。

以前組んだ時、犯罪者を治癒しながら燃やしていた。

子供が好きで、将来悪い道に進まないよう指導するのが夢らしいが

指導している所は一度も見たことがない。

さらに彼女が優秀という生徒は、大抵が有能だが危険と呼ばれる

冒険者になる。


「そうですか」

この人が言う将来有望な生徒は、とても危険なやつと同義だ。


「じゃぁ、こいつもですか?」

俺は今クルミに一刀両断された生徒が、まるでスポンジのように

元に戻り、大きならラケットのような物でビルまで吹き飛ばしたのを

見ていた。


「いえ〜。多分この学校で一番安全な子供ですよ〜」


俺の問いに教頭はニコニコと笑っていた。





面白い子供がいると、校長が言ってたのですがどう見ても普通の少年。

私が最初に思ったのはそれでした。

その彼が、猿渡先生と生徒会長に殺気を返したようには見えません。

ただ、私の目には彼が銀色のオーラに包まれているのが見えました。

多少は邪気などあるのが普通の人間ですが、彼には見えません。


(面白い)

銀色のオーラは人格者などが纏うオーラです。

普通の子供には現れません。それこそ年齢と経験を重ねた

大人が出せるオーラです。

最近はそういうマシな大人がいないのが現状ですが。



担任であるクルミ先生が、ルームへ移動したのを見計らい

大急ぎで観戦に来ました。苦笑いしていた校長もいつの間にか

横にいます。


「始まりましたねぇ」

お茶を飲みながらゆったり校長が話します。


「戦い方はアサシンに似てますね〜」

初撃の一撃。クルミ先生も油断していたのか、本気で避けました。


「あの歩法は・・・」

私には山田太郎と呼ばれた生徒が、一歩歩いただけでクルミ先生の

前まで急に現れように見えた。


「知ってるんですか〜」

笑顔で校長に聞く。


「ええ、ですが失われた技術ですよ。まさか独学でやるとは」

校長は戦闘が続く試合を見ながら、お茶をすする。


詳細を言うつもりは無いらしい。


見ていると調度猿渡先生が来た。私は隣を促す。彼は百戦錬磨の

猛者で、分析力も高い。コメンテーターになってもらう。


「校長!いつの間に」

猿渡先生が驚く。最初からずっといましたよ。

私は呆れていた。今死んでてもおかしくないですよ〜・


「今来たんですよ猿渡先生」

平気で嘘をつく校長。


私は視線を試合に戻す。

「あれは!」

そこには覚醒者しか纏うことが出来ない武装「天装」を纏う

山田太郎がいた。


「ありえねぇ、調べたがレベル10だぞ、あいつは!」


「えっと〜、先生今なんて?」

聞き間違いだろうか。レベル280の教師が手抜きとはいえ苦戦する

相手がレベル10?

 

「ああ、計測した教務部のやつらが言ってた。あいつが基準以下でも

 この学校に入ったのは校長、あんたの推薦があったからだろ!」


私を挟んで隣にいた校長に苦言を言う。


「彼は、私が見てきた中でも異常です」

校長は静かに湯飲みを置き、話し始めた。


「私が彼を見たのは彼が中学生の時です」


「将来有望な者を是非、我が校でと思い、それとなく

 忍び込んだのですが・・・」

不法侵入です。校長〜。


その言葉に呆れてしまう私。


「ドゴッ!」

校長の頭に巨大な黒い手が振り下ろされていた。


「校長・・・有罪」

SからEまでの生徒の試合が終わったのか、それぞれの担任が来ていた。



今、校長に黒鋼の巨大な手でツッコんだ子供にしか見えない女性。

Aクラス担任=オベリア・デ・アーニ= レベル350

ジョブは「バーサーカー」

ロシア人の父と日本人の母とのハーフ。

深い青色の髪をツインテールに人形のように小さな顔。

なぜかいつもレオタードを着ている。露出狂ではなく、

脱ぎやすく、着やすいそうだ。

藍色の瞳は校長を睨んでいた。


「ほほほ、許可は事前にとってますよ。ただいつ行くとは言ってなかった

 だけです」

頭に強大な鉄の手が振り下ろされたのに、なんともない様子で校長が言う。


「話の続きと、お茶」

校長の横に座る。テーブルとお茶が出ていた。

私も欲しい。


「ほう、興味深い、校長あの生徒と知り合いか?」


「今それを話そうとしていたはずですが、ボケました?」

そう言って二人の教師が観覧席に来た。


Eクラス担任=宇佐美静馬= レベル270 

ジョブは「ネクロマンサー」

黒いボサボサの髪に四角いメガネ。無精髭を隠そうともしない。

白衣を着た怪しい男性。

魔物や、見知らぬ魔術が大好物の、マッドサイエンティスト。

普通なら捕まりそうな彼だが、疫病に対する抗体や魔物の素材の再利用。

ダンジョンの研究など、数々の功績を挙げている。

本来なら魔道学科の先生になりそうだが

何故か頑なに特戦科を希望。

本人曰く、

「才能あるものなど育ててどうする。傲慢になるだけではないか?

 私は凡人が有能な魔法使いを跪かせるのが夢なのだ!」

ひねくれた性格であった。


そして宇佐美先生に毒を吐くのは、長い黒髪を一つに縛り、銀色の箒を

持っている胸の大きなメイド服の女性。


Bクラス担任=倉石ハドメ=  レベル320

ジョブはレアな「スイーパー」 

わざととしか見えないくらい、襟の空いたメイド服を着こなし数多くの

男子生徒を魅了する容姿。

顔は日本人ならだれもが振り返る東洋美人。


「まあそういうな。いくらあいつが弱くても、まともに戦える 

 生徒がいることが、問題なのだからな」

先程生徒を見下していたとは思えない程、穏やかに話す金髪のヒゲ。

Sクラス担任=ウィシュタル・リガーゲン= レベル380

ジョブは「ランサー」

イギリスの名門貴族であり、次期当主候補であるが根っからの

武人であり、権力争いが嫌で逃げてきたらしい。


見た目は金髪をオールバックにし、口ひげを生やしたいかつい顔の

おじさんにしか見えない50歳だが32才も年下の奥さんに一目惚れし、

見事ゴールイン。18才の若妻の尻にひかれる。

子供も二人生まれており、ロリコンである。

大の子供好きで(変な意味でなく)、生徒の成長の為なら悪役も

厭わない。


彼のクラスの卒業生は皆、生存しておりそれぞれ華々しい活躍を

している。この神詠学園が有名なのにも、彼の尽力がある。


「それより、話の続きを聞きませんか」

私の後ろに音もなく現れた銀髪のイケメン。


Dクラス担任=エディク・シルバリオン= レベル300

ジョブは「拳聖」かつて勇者と共に戦った日本人が持っていた

伝説のジョブだ。

本人はアメリカ人だが。

銀髪のナチュラルヘア。ボサボサの宇佐美先生とは違い

とても清潔感がある。目は青色で学校のパンフレットでも

教員紹介でセンターである。

彼の人気は凄まじく、生徒のみならず、保護者までも虜にする。

本人はモテるのをわかっており、彼に誘われた女性徒も数知れず。

恋人にしてもらえなくても、一夜の夢のようなひと時を過ごせる。

そんな彼の価値観はよく分からない。

特定の誰かと付き合うわけではないので、周りから嫉妬される事は

以外と少ない。勿論、世の男どもは嫉妬しているが。

女性に優しく、男にもしっかり指導する。

だからこそ人気がある。


今年も彼のクラスに入りたい者が多すぎて、権力を持つ生徒や、

子供を餌にして会いにくる親が絶えなかった。

脅迫や賄賂が学校にあり、今までAクラスを担当していたが

Dクラスに配属される事になった。

Aクラスの女子の悲鳴とDクラスの歓喜の声が鳴り響いいたそうだ。

ちなみに女性教師にも声をかけているようだが、あまり相手にされてない。


私も何度も懲りずに声をかけられましたけど〜。


「わかりました」

校長がお茶を飲みながら話す。

私達は試合を見ながら聞いた。


「あれは8月の中頃、私が付属中学である「東陵中学」に

 忍び込んだ時です」

懐かしそうに話す校長。許可取っても勝手に入れば、不法侵入です。


「屋上から失礼したんですが、丁度そこでお鍋をしている彼に出会いました」


「「「「「「「は?」」」」」」」

私を含め全員がポカンとした。


「授業中に忍び込んだはずなんですけど、それは見事に鍋を食べてました」


「サボりじゃねぇか、それ!」

猿渡先生が吠える。

うるさいです〜。


「ええ。ですが驚いた事に、彼は私に気づいたんですよ」


「!?」

校長はお忍びと言った。教師ならまだしも生徒に気付かれるほど

弱くない。


「それが理由ですか〜?」

私は動揺を悟られないように聞く。


「いえ、それも確かにありますが、一番の理由は・・・お鍋が美味しかったんです」


「食べたんかい!」

思わず普段の口調も忘れてツッコむ。

他の先生たちも呆れていた。


「はい、とても美味しかったです」

笑顔で言う校長。何しに行ったのでしょう、全く。


「そのお鍋に特別な素材でも入ってたんですか?」


呆れていた私たちの中でハドメ先生が首をかしげる。胸も揺れる。

あそ胸には夢でも詰まっているのでしょうか〜。

私も大きい方ですけど、彼女は特大ですね。確かJとか・・・。


「ええ、私が知る限りどれも入手難易度AからSでした」

何でもないように言う校長。


「「「「「「「!?」」」」」」」


「皆さんが驚くのはわかります。彼が作っていた鍋の具材に私も驚きました。

 S級鳥獣グラスバードの手羽先、トロルポークのブロック肉

 入手難易度Aの氷大根に、千年ネギ、グツグツ卵に万能白滝」

校長がどれも並の冒険者では手に入らない素材の名前を口にした。


「ありえねぇ!どれも市場じゃ殆ど出回らねぇぞ」

猿渡先生が驚いて山田太郎を見る。


他の先生も同様だ。


「普通の森程度なら、レベル30の冒険者でも大丈夫だけど」

エディク先生が言う。


「グラスバードはルーディアスの魔境、トロルポークは 

 魔泥森の奥地。氷大根は氷雪大陸ノヴァにしか生えない」

宇佐美先生がぶつぶつ言いながらリングで調べていた。


「はい、千年ネギは一角竜の草原、グツグツ卵はバルシャワ溶岩地帯

 万能白滝は激流の川に流れるものです。白煙の湿原にしかありません」

校長先生が続ける。


「それほどの食材は貴族でも滅多に手に入らん。子供が手にできる物ではない」

 ウィシュタル先生が口ひげをいじりながら、訝しむ。


「はい。少なくとも彼は貴族の出ではないです。それに本人に確認

 したところと言いました」


「は?」

育てる?どれも危険地帯にしかない素材だ。普通の環境では育たない。

それを育てる?どこで、どうやって?


「・・・・・・」

私や他の先生も困惑していた。


「まぁ、普通は信じませんが、私の気配に気づき挨拶まで

 してきた子ですから」


「つまり本当の事を言っていると!だとしたら大発見だぞ!」

宇佐美先生が興奮した面持ちで校長に迫る。


「落ち着いてください、宇佐美先生」

エディク先生が校長から宇佐美先生を引き離す。


「だから入学させたと?」

猿渡先生が校長を睨む。


「ええ、猿渡先生が理由もあります」


「どういう事?パリッ」

おせんべいを食べていたオベリア先生が質問をした。


「難易度の高い素材を育てる事が本当に出来るとしたらですよね?」

私が代わりに答えた。


「ええ、どれもレベル90以上のモンスターです。本当に育てる事が可能で

 自分の思い通りに言う事を聞かせられたら?」


「!?」

先生達に緊張が走る。


でも、私は違う考えを言った。

「または保護ですかね。監視という名目の」


「保護?危険対象なら排除すればいいのでは?」

ハドメ先生が当たり前のように言う。


「デイジー先生が言う通り、保護という名目の方です」

校長が山田太郎を見ながら言う。


「危険度はないと?」

ウィシュタル先生が校長に確認する。


「ええ、デイジー先生が安全だと言ったので」

にこやかに私に微笑む。


「私ですか〜」

私も笑顔で返す。


「そんなの当てになるのか?」

猿渡先生が私を見る。


「もぅ〜、どう言う意味ですか?」

私は猿渡先生を威圧する。


「い、いや何でもねぇ」

先生が慌てて顔をそらす。


「デイジー先生は悪意を見抜きますから。彼が安全でないなら、私に

 報告がありますし、入学式の件で個人情報を調べてますよ」

校長が笑いながら言う。


先生達が複雑そうな目で私を見ていた。


確かに私の目は邪気を見抜く。生まれた時から聖女と言われた程に。

ただ今は「微笑の魔女」と言われているが・・・。


「まぁいい。悪の道に走るならその時、排除するだけだ」

入学式で殺気を返された猿渡先生がため息を吐きながら言った。


「僕はデイジー先生が言うなら信じますよ」

その辺の女子生徒なら、黄色い悲鳴をあげるような笑みで

エディク先生が言う。


私は無視した。


「スルー。ウケる」

オベリア先生が静かに言い、エディク先生の顔が引き攣る。


「それよりあれは「天装」か?覚醒者しか発現しないはずだろ!」

猿渡先生が校長に聞く。


「私も詳しく彼の能力を聞いてはいません。しかしあれは「天装」

 ではありません」

校長が説明する。


「じゃぁ、あれは「それは彼の友人に聞いてみましょうか」何?」

校長が私に目配せし、猿渡先生の言葉を私が遮った。


「盗み聞きしちゃいましょうか〜」

笑顔で言う私に、先生達が黙り込む。

私は盗聴の魔法を使用した。



彼らの会話が聞こえた。

「いや、自分で作れるんだよ。装備も武器も。自由にね、それが

 コスチューム『スタイル』って訳」

少年の声が聞こえた。

「!?」


「それは伝説の武器なども作れるということでしょうか!?」

生徒会長の破条真冬がびっくりする程大きな声で言う。


「い、いや、自分で想像できるものだけだよ」

少年が臆病そうに答えた。

少しだけ、彼の声に違和感を感じたがこの時は気にしなかった。


「そうですか・・・」

その大声に思わずビビる少年と、残念そうな破条さんの声。




「・・・・・・」

彼らの話を聞き、教師陣の皆が沈黙していた。

レベル280のクルミ先生を追い込むほどの能力。

それが「天装」では無いとすればなんなのだろうか?


「天装」=レベル100を超えた者にだけ発言する武装。

魂具を強化するほか、身体能力や特殊なスキルも持つ勇者の一行が

着ていた伝説の武具。

一つとして同じ物はなく、防御力や耐久力も並の防具ではない。


岩湖と呼ばれる少年が語る内容は、とんでもないものだった。

彼が話す山田太郎の「魂具」、「自分クエスト」は報告とは大きく違った。

提出された報告では、自分のレベルのゲージ表示され、成長度合いが

見れる程度のものだった。


それが自分の想像した武器や、装備を作成できる能力などと聞いた事がない。

例え一年に一度だとしてもだ。

「魂具の武器」は、普通の装備とは違う。迷宮や魔物から採れた素材で作られた武器でも、魂具の武器にはかなわないものが多い。本人にしか扱えない、魂の宿る武器だからだろうか。


勿論「天装」も同じである。

錬金術士や鍛冶師などが「の魂具」で鍛えた装備や武器でさえ、

普通の装備と比べ物にならないくらい高価で強い。

直接「魂具」で装備を作り出す能力は今のところ、発見されていない。


だが本当に、装備そのものを作り出せる能力だったら?

しかも自分が思うような装備を。

「恐ろしいですねぇ。どこまでの能力があるのか」

校長先生が呟いた。


そもそも「魂具」や「天装」は魂の具現化であり、唯一無二の

ものだ。能力は選べない。双子でさえ、同じ「魂具」にはならない。

「天装」と今彼が纏っている装備の違い。


あるのだろうか?もしそれが無いとしたら?

今までの常識が崩れるだろう。

肉体を強化し、千の敵を打ち滅ぼしても疲れないと言われる

伝説の鎧「天装」。

それが何個も使える?馬鹿げている。

しかも可能性の話だが、他者もそのコスチュームを着れる可能性が

ある。他の国や、危険な奴らにそれが渡れば・・・?


私はその光景を想像し、背筋が凍った。

「天装」の軍隊。容易に世界を滅ぼす光景が浮かぶ。


「まぁ、大丈夫でしょう」

考え込んだ私の方に、校長が手を置く。


「彼の能力は政府や、他の者たちに利用される可能性があります」


「「「「「「!?」」」」」」

私以外の先生達が、校長の言葉に驚く。


「なら?」

ウィシュタルが校長の言葉を待つ。


「ですから、この件は聞かなかったことにしましょう」


「は?」


「無理じゃないかなそれ。センターにも情報が送られてるはずだけど」

エディク先生が校長の提案に最もな意見を放つ。


「ええ、ですがデータだけです。誰も生徒が戦ったなんて

 記録には残りません」

笑顔で校長が続ける。


「わかった。私が戦った事にするんだな?」


「お願いできますか?宇佐美先生」

校長の意図を読んだ宇佐美先生が静かに言った。


確かに彼の「天装」ならありえる。

自然現象を操る、彼の「天装」なら。


「ですが、レベル10ですよ?」

ハドメ先生が宇佐美先生と校長を見る。


「なに、レベルを低く抑える魔道具と「天装」の実験とでも言えばいい」

ククク、と意地悪く笑う宇佐美先生。


「生徒に箝口令は?」と、エディク先生が言う。


「必要ない。どうせセンターの連中は、画像も音声も拾えない。

 学校が法人でよかった。勝手に判断する。生徒の方は噂になるだろうが

 いつかはバレる。それを学校が認めなければいい。だろ校長?」

宇佐美先生が校長に確認を取る。


校長が大きく頷いた。

「はい、三年ほど隠しましょうか?」


「三年か?長いようで短いな」

ウィシュタル先生も私と同じように、二人の意図に気づく。


「三年?それでどうするんだ」

一番最初に気づきそうな猿渡が質問をした。


「鍛えるんですよ。彼を私たちで」

彼らの代わりに私が答えた。


「なるほど。三年で、馬鹿な事を考える奴らに対抗できるようにか」

エディク先生がいつもと違う笑みを浮かべた。彼は以前、アメリカの政府に

無理やり働かせられた事が原因で仲間を失った事がある。

それ以来日本に移住している。権力を笠に、思い通りにしようとする

連中が大嫌いなようだ。


「殺した方が早くありませんか?」

ハドメ先生は原因である山田くんを排除した方が良いと思っている。


「・・・良い案ではない。彼は子供。何もしてない」

オリビア先生がオーラを放つ。ハドメ先生を止めるためだ。


「ハドメ。一つ聞くが彼のようなタイプが今後生まれない理由を

 私に述べろ」

宇佐美先生がハドメ先生に問う。


「・・・。わかりました」

いつの間にか持っていた銀の箒をしまうハドメ先生。


「確かに、これから同じような力を持った子供が生まれないとも限らない。

 その時に対抗できるよう、こちら側に取り込んでおくのが無難かな?」

黒い手袋をつけていたエディク先生が笑う。


もし、今ハドメ先生が山田太郎の所へ行ってたら、彼女は殺されて

いただろう。「黒の死神」の手によって。


「皆さん、試合が終盤ですよ」


彼の友人である女子生徒、四十万しじまちひろ。彼女の推理を聞きながら

お茶を飲んでいた校長が私達に伝える。


「大丈夫ですよ。彼の事を大切に思ってくれる友達がいますから」

校長は優しような目で、クルミ先生に細切れにされる彼を見ていた。


「決まりだな。ハドメ、お前もそれでいいか?」

如意棒、そう呼ばれる伝説の「魂具」を持つ猿渡先生が

ハドメ先生に問いかける。


「はい。皆さんがそう言われるなら」

心の中ではわからないが、ハドメ先生の事だ。しっかり彼を

指導してくれるだろう。指導中に死なせるかもしれないが。


「なら、これからの事は私とウィシュタル、教頭と校長で

 考え、皆に通達する。それでいいか?」

宇佐美先生が話を纏める。


おそらく彼の中では、山田太郎の「魂具」の事で頭が一杯だろう。


「それでいいよ。僕は僕のクラスの事があるし」


「私も良い。楽しみ」


「問題ありません」

エディク先生、オベリア先生、ハドメ先生が答えた。



「では、クルミ先生がやりすぎないよう、注意に行きましょうか?」


「やりすぎとは?」

ウィシュタル先生が校長に疑問を投げかけた。


「おや?彼女が勝てば、山田くんを一晩自由にできる『賭け』を

 していたんですよ。あまり無茶をさせないように先に注意をと」


「「「「「「「な、なんだと!?」」」」」」」

楽しそうに笑う校長に、私達は絶句した。


お持ち帰りとか・・・・ずるいです!!!くるみ先生〜。

私はほんの少し、いやかなり羨ましいと思ってしまった。


なかなか強い男に巡り会えない世の中なのに・・・。


そんな私達を校長は笑って見ていた。



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