第7話 それぞれの視点 生徒編

「マジ、あいつ勝てる見込みでもあんのかよ?」

イラついた顔を隠そうともせず、縄部と言われた男子が呟く。


私はそれを冷めた目で見ながら、友人である策士木さくしきまどかのところへ行く。

「ねぇ、山田くん勝てるの?」


いつの間にかBクラスから見学に来ていた小太りの少年と、オレンジ髪の少女に聞いた。

「無理でしょ。ほとんど昔の勇者レベルだよ?」

「逃げることならできそうだけど」

突き放した言い方をするまどかと、心配そうに見る男の子、岩湖くんが答えた。


「あ、始まった」

二人の戦いが始まり外野席にいた私たちも目を向ける。


「シッ」

いきなり山田くんが先生の前に現れ、首を掻き切るつもりが防がれた。跳びのき

先生が山田くんから距離を取る。


「何、あれ、?」

あんな動き見たことない。転移の魔法なんて使えないはずだ。


「うそっ」

「すごいな」

隣にいる二人も驚いている。


初撃が防がれた山田くんは、斧を殴打し手放させようとしたが叶わず、

斧と先生の回転で飛び退いた。

クナイや、見えにくかったけど細い棒手裏剣も使っていた。

(どっちがアサシンなの?)

呆れる私だが、まだ戦闘中だ。


先生の追撃が入る。斧の遠心力を利用しまるでタイヤのように転がりながら

山田くんに迫る。

先生の足に攻撃したが振り下ろされた斧に諦め、先生の方を踏み台にし、

飛び退いた。


「この、ちょこまかと!いい加減当たれ」

「手加減忘れてませんか?」


「うるさい。腕一本は残してやるから・・・」

何故か平気そうな山田くんとイラついているクルミ先生。

(殺す気満々じゃない?いいのかしら)


二人のやり取りが聞こえ、冷や汗が出た。

まどかや岩湖くんも真剣に見ていた。


先生から距離をとった山田くんが左手から青いゲーム機をだした。

確か山田くんの魂具ガング、『自分クエスト』

自身の成長をゲームみたいに見れるやつ。

そんな物、今見ても・・・。


私が疑問に思っていると突然、山田くんの姿が変わった。


青いフードに金魚の目玉がついたレインコートのような姿をしていた。


「何?あれ」

私は訳がわからない。成長記録を見れるだけの能力じゃなかったのだろうか?


「あぁ、また新しい作ってるし。優吾、あれ何?」

隣のまどかがさらに隣の岩湖くんに突っかかる。


「あの、」


「何、ちひろ?」

岩湖くんを睨んだままの目を、こちらに向けまどかが答えた。


「睨むのやめてくれない。それとスタイルって何?」

思わず、まどかの両頬を掴んだ私は悪くない。


「い、いヒャイ、いう、いうから離して」

涙目で訴えるまだかを話してやる。


「痛いよ〜跡になったらどうするの、ちひろ」

恨めしそうなまどかを無視し説明を聞く。


「あら、楽しそうですね、私も混ぜてもらってもいいですか?」


ゾワッ!

私達三人はその声に硬直した。

「ダメでしょうか?」


後ろを向くと白い銀髪の髪に雪のように白い肌、入学式で見た

破条真冬先輩がいた。


「あの?」

私達が答えられないでいると、


「ど、どうぞ、いくらでも見ていってください」

「これよかったら飲んでください」

「こ、これも」

近くにいた縄部たちが慌てて席を空け、自分たちで買ってきたであろう

ジュースや、ポップコーンを差し出す。


(美人は得ね。私は貰っても嬉しくないけど)

彼らはクルミ先生の本体と戦いたいと、手をあげていた馬鹿達だ。

体目的なのはどこにでもいる高校生だが、その隠そうとしない下品さに

女子がなびくとも思っているのだろうか。


「ありがとうございます」

馬鹿達から席を譲ってもらうと後ろにいた、生徒会役員通称「神詠隊」

がぞろぞろと現れ、座ろうとする生徒会長の下にハンカチを敷き、

受け取ったジュースを紙コップごと蒸発させ、ポップコーンは砂になり

代わりに美味しそうなスコーンと紅茶が用意された。

その間、約30秒。


流れる動作が自然すぎて、折角買ってきた食べ物が砂になっても

縄部たちは動けなかった。


「お嬢、生徒会長はこういった物は口にしない。弁償はしよう。

 すまなかった」

紫に近い青い髪をアップにした背の高い女生徒が、縄部たちと

波状先輩の間に入る。


懐から万札を出し、一人一人に3万ずつ渡す。


何も言えない縄部たちが驚いたまま受け取る。

「あの、これ多すぎ「馬鹿、いうな!」」

その中の一人が返そうとするが縄部が止めた。そういう所が

最低と言われるのに。


「これは席料も入っている。お嬢、生徒会長は他から狙われる為、

 ここら一帯を買い取りたい。君たちも退いて頂けると有難い」

振り返って見ていた私達にも立ち退くように行ってきた。

彼女がお金を出そうとすると、


「この方達は、戦っている山田さんのご友人ですので許してあげてください」

と波状先輩が言ってきた。


「ハァ?」

唖然としていたまどかの表情がイラついた顔になる。


「ちょ、まどか落ち着いて!」

立ち上がり文句を言おうとするまどかを、慌てて止める岩湖くん。


「なんで上から目線なの?最初にこっちが座ってましたよね?」

気持ちはわかるけど、今はそれを言うのは良くないだろう。


「申し訳ありません。そんなつもりは無かったんです」

破条先輩が頭をさげる。


「・・・」

まどかちゃんはずっと睨んだままだ。

神詠隊の人たちはすぐ動けるように会長の周りを取り囲んでいる。

何かあればこちらを攻撃する気が見て取れる。


「ルシア、やめなさい。私たちが悪いのですから」

頭を下げたまま横にいるお金を渡そうとした女性を咎めた。

ルシアと呼ばれた女性は右手を白い鞘にかけていた。


「大変申し訳ありません。入学式で今戦闘をしている山田さんが

 気になったものですから、一度見てみたくて」

 頭を上げた破条先輩が、山田くんとクルミ先生の方を見る。


私たちが見てない間にだいぶ戦局が変わったようだ。


先生が何かの衝撃を斧で防いでいた。

そして山田くんを真っ二つにしていた。


「太郎っ!」

驚くまどかちゃんと私。

生徒会の人達も驚いていた。


「勝負は決まった「まだだよ」えっ?」

破条先輩が残念そうな顔をして帰ろうとした時、岩湖くんが

厳しい目で山田くんを見ていて。

 

何故かその目が気になったが、私は山田くんの異変に気付いた。


倒れていないのだ。頭から二つに割られたのに・・・。


ボヨン!

「うぁぁ、なんだよそれ!」

先生が空中でなんとか体制を立て直す。


切られたと思ったのに、元に戻った。そう山田くんの身体が

何事もなかったように戻り、その反動で先生が跳ね返されていた。


「スタイルですよ。俺の能力です」

太郎くんが首を鳴らしながら、何事もなかったように大きなラケットのような物を振り回す。


「あれってさぁ、金魚すくいするときの奴だよね?なんだっけ」


「ポイって言うんだよ。ただ、金魚掬うわけじゃなくて今は空気を掬ってるけど」


まどかちゃんの疑問に岩湖くんが答えた。


「空気?」


「うん、太郎は戦闘に使えるスタイルから、ああゆうトリック系のスタイルまで

 持ってるんだ。それが太郎の「魂具ガング『自分クエスト』」

私の質問に岩湖くんが答えてくれた。さっき迄の厳しい眼差しはない。


「でも、自分の成長をゲージとかで見れるだけじゃ?」


「えっと、それは一つの機能に過ぎなくて、ほ、ほらゲームとかで

 強い武器や装備が得られるだろう。太郎の「魂具ガング」は

 ゲームそのものなんだよ」

岩湖くんが悪いわけではないのに、思わず睨んでしまう。

岩湖くんはその視線にしどろもどろで答えた。


「じゃぁ、RPGみたいに進んでくと貰えるの?」



小さい頃、山田くんと出会って以来私は彼とゲーム仲間だ。

ゲームの中では現実の辛さ(修行の)を忘れられた。

その時から山田くんは、

「もっと、自分にあった、使い勝手の良い装備や武器が手に入れば

 楽に進むのに」と文句を言っていた。


私は最初苛立ちを覚えた男の子。

だが、いつの間にか一緒にゲームをするのが待ちどうしくなる程、親しい存在になった。彼と遊ぶのに夢中でその言葉はあまり覚えていなかったけど。


10歳の時、「魂具ガング」召喚の儀で、彼が見せてくれた青いゲーム機。

それを見せてくれた時も、どこまでゲームが好きなのかと呆れていた位だ。


その時の彼の喜びようは、私に対戦ゲームで初めて勝った時の顔に似ていた。



「いや、自分で作れるんだよ。装備も武器も。自由にね、それが

 コスチューム『スタイル』なんだ」


「!?」


「それは伝説の武器なども作れるということでしょうか!?」

今まで話を聞いていた、破条先輩がびっくりする程大きな声で言う。


「い、いや、自分で想像できるものだけだよ」


「そうですか・・・」

その大声に思わずビビる岩湖くんと、残念そうに目を伏せる波状先輩。


(そんなに落ち込まなくても。岩湖くんはびびりすぎ、私もだけど)

内心の動揺を隠し、太郎くんを見た。


「あと制限もある。新しいコスチュームは一年に一度だけしか作れない」


「「一年に一度?」」

私と波状先輩はシンクロしてしまった。


波状先輩も恥ずかしそうにしている。私も恥ずかしい。


「でも、私あのスタイル知らないんだけど名前は?」

事情を知っているようで会話に興味を持たず、睨むように太郎くんを見ていた

まどかちゃんが岩湖くんに聞く。


「あれはえっと、す、スポンジスタイルだよ」

言いづらそうに岩湖くんが言った。


「はぁ?何その変な名前。そんなんで戦えるわけ、戦えてるけど」

名前に驚き文句を言おうとするも、太郎くんの戦いを見て黙るまどかちゃん。


「スポンジとは何ですか?」

不思議そうに私たちに聞く、破条先輩。


「・・・・・」

多分私とまどかちゃん、岩湖くんの心の中は一緒だろう。


お嬢様めっ!!!!


「あの、何か悪い事を聞いたのでしょうか?」

私たちや周りにいたクラスの生徒が、無表情になるのを雰囲気で察したのか

破条先輩はおどおどしていた。


「会長、スポンジと言うのは・・・」

ルシアさんが会長に耳打ちしていた。

私達は無視してやった。


「おわぁ、私まで掬うのかぁあああ!」

先生がビルまで飛ばされていく。

ドゴォォォン!!パラ、パラ

投げつけられた先生がビルにぶつかり、衝撃で少し崩れる。


「マジかよ?」

「嘘、レベル280だよ、手加減してるんじゃない?」


周りのクラスメイトが騒いだす。

太郎くんがこっちを見ていた。


私は笑顔で返した。嘘ついたなこの野郎と。

太郎くんは引きつった笑みをしていたがビルの向こうに視線を向けた。



ザシュ!


「よしっ!」

先生がいつの間にか俺のいた場所に立っていた。


「え?」

太郎くんが二つに割れて無残に倒れている。


先生の斧は緑色の光を帯びていた。何かのスキルだろうか。


「ここまでかな」

岩湖くんが呟く。


「し、死んじゃったの?」

私の頭が真っ白になる。


「だ、大丈夫だよ。『ディバイド』の中だし」

慌てて岩湖くんがフォローする。

まどかちゃんは先生を睨んでいた。


「ま、いい線いってたよ。成長したじゃん。」

緑の光に輝く斧を担ぎ、笑顔で割れた太郎くんを見ていた。


「・・・・・・」

あまりの光景。さっきも似たようなものを見たが元に戻らない山田くんを見て

誰もが沈黙していた。



時間にして1分くらいだろうか?


グニャリ!


その時、山田くんの身体が水のように変化し針状になる。

あれはハエトリ草だろうか?

油断していた先生は慌てて飛び退くも左足を貫かれ、苦痛に顔を歪めた。


「なんだあれは。僕は知らない・・・」

あのコスチュームの事を知っていた岩湖くんが苦々しそうに言った。


(友達じゃないのかしら?)

まどかちゃんは、山田くんに夢中で気づいていない。


私は岩湖くんに危険な物を感じた。

私が岩子くんを見ている間に戦局が変わったようだ。


「水槍」


太郎くんが両手の袖から、無数の氷の槍が形成され、雨のように先生に降り注ぐ。

どう見ても氷の槍なのに、水の槍と言い続ける山田くん。

雨のように降る水の槍にクルミ先生が、闘技場の隅まで追い詰められる。


「確かに驚いた。でもこんな弱い氷の槍じゃ意味ねーよ」

先生は当たり前のように防いでいた。

斧で破壊された氷の槍の破片ががキラキラ輝く。


「綺麗」

後ろにいたはずの破条先輩が横に来ていた。

(今のをおじいちゃんが見たら、修行5割り増しね)


気付けなかった事の反省は後だ。

山田くんの攻撃は続く。だが全て破壊されている。

クルミ先生のあの斧はかなり脅威だ。


先ほどの緑の光は、あれはスキルだ。

「魂具」本来の能力ではなく付属のようなものだろう。

スキルは「マナ」、魂具は「魂力」であり、似たような物でも

別のエネルギーを使う。


「マナ」が血液だとすれば、「魂力」は「心臓」のようなものだ。

流れる力と人を生かすエンジン(心臓)の違い。

勿論、エンジンの方が強い。

だが、その分負担も多い。使いすぎると死ぬと言われている。


「あまり、耐久力は無いようだな」

破条先輩と私の間は人一人分空いていたが、そこにルシアさんがいた。


(自信が無くなりそう)

常日頃からお爺ちゃんから死ぬほど稽古を受け、遠くにいる動物の気配まで

分かるようになったというのに。


「闘技場に槍を生やしてますね。バリケードでしょうか?」


「はい、ですが先ほどよりは弱いです。「魂力」の限界が近いのでしょう?」

会長とルシアさんが分析していた。


「でもこの程度で、終わるかな太郎って」

先ほどよりは落ち着いたのか、まどかちゃんの言葉遣いが優しい。


「うん、まだ、2、3手はあるだろうね」

岩湖くんも同じ意見らしい。


(次はどうするのかしら)

どんどん壊され、道が作られていく。

先生は羅刹のごとく、折れなさそうな槍と斧で無双をしている。

山田くんはそれでも来させないように槍を繰り出すが徐々に数が減っていく。



先生と山田くんの距離は後300メートル程だろうか。槍が破壊され宙を舞う。

幻想的な場面だけど。

「そろそろ終わりのようです」

今度こそ終了宣言をした破条先輩。


「見てあれ!」

まどかちゃんが先生の後ろ折られた槍を指差す。


「あれは?」

破条先輩もその光景に驚く。


「待って、上も何か変だ!」

岩湖くんが上を見て驚いている。


後ろの折られた槍が混ざり形を変えた。

30程の扇状に展開された砲台。あれにマシンガンが乗っている。

ゲームでチート装備の一つ。よく二人でゾンビを殺した。


「上は糸、いや、網だっ!」

ルシアさんが叫ぶ。


私が上を見ると宙を舞っていた折られた槍が糸のようになり

それぞれ結合していく。さらに網の結び目や途中に針のような

氷柱ができていた。


「まさかここまで計算していたのか?」

驚きながら山田くんを見るルシアさん。


「たぶんまだよ?」


「「「「え?」」」」

私の声に反応した四人。


だってこれ、くんが好きだった罠作成ゲームと同じ展開だもの。

昔私が勝ちすぎて格闘ゲームに飽きた太郎くんに、

8歳の誕生日プレゼントに買ってあげたゲームの攻略法と一緒。


太郎くんは物凄くはまり込んでいた。

お爺ちゃんの金○を狙い、一本取ったご褒美でもらったお金で

買った甲斐があった。


ただ、夢中になりすぎて私に目もくれなくなったから、殴ったのは

可愛い過ちだろう。

その頃から何故か太郎くんが避けるようになった。

コントローラーは以外と硬かったらしい。


「前に槍、後ろに銃弾、上に刃のついた網、だったら下にも必ず仕掛ける」


(私だったら絶対にあれをやる。さっきから氷の槍をずっと水槍って言ってるし)


私は太郎くんが攻撃するとき、必ず「水槍」と言っているのを気になっていた。

まぁ「氷姫」の二つ名がある波状先輩が、「あれは氷の槍では?」と言っていたから気付けたんだけれど。


昔、太郎くんが言っていた。

「先入観はかなり危ない。これはリンゴですよって言いいながら毒リンゴを

出したどこかの美魔女のように」


それは魔女だと思うが真剣に話す太郎くんを……私は叩いた。

だって人のおやつを平気で目の前で口に入れた。

あまりの真剣さに気づかなかったのだ。話に思考が持って行かれて。


「たぶん床を凍らせる。よく見れば、闘技場の折れた槍の壊れ方は

 とても綺麗だし」


「え、嘘」

驚くまどかちゃんをはじめ、岩湖くんや波状先輩、ルシアさんまで目を皿のように折れた槍を見ている。


「確かに、まるで半分に折られたように綺麗な切り口です」


「他のはひび割れてたり、長さもバラバラだ」

破条先輩と岩湖くんが目を見開く。


「なんでそんな風にしたの?他のも変化させればいいのに」

まどかちゃんがを疑問に思うと、


「あれほどの攻撃の質量だ。「魂力」を相当消費する。おそらくこの広い闘技場

 全ての槍を変形させるのは愚策と考えたのだ。自分と先生が通る部分の

 槍以外は壊される事が前提。先生が離れたのを見計らって、マシンガンに

 変形させるプログラムのようなも物を仕込んでいた。」


「!?」


「上の網とこれから起こるであろう床に対しての変化も、きっと最初から計算のうちだ。周囲の槍はせめてもの嫌がらせだろう。本当に子供かあれは」

ルシア先輩が睨みつけるように太郎くんを見ている。確かに大人でもまず、そこまで先を読まない。


私は自分の考えをルシアさんに言った。あなたはまだ甘い。


「ルシアさん、クルミ先生はレベル280の冒険者ですよ。それ位気づきますよ」

私は思わず笑ってしまった。


「どういうことだ、キミが言った事と私がした推測は間違ってないはずだ」

ルシアさんが不機嫌そうに私に問い詰める。


私は内心可愛いとルシアさんを思いながら説明をした。


「昔、太郎くんが好きな怪盗物のアニメがあったんです」

よくわからないと言う表情のルシアさん。他の人も同様だ。


「その怪盗である主人公が言ってたんです『私が話し、行う事全てが罠だ』と」


「!?」

驚くルシアさんに私は続ける。


「ルシアさんが言った「魂力」の消費を抑えたと言う点は間違ってません」


「む」

ルシアさんの少し太い眉がよる。


「ですが本当に、消費を抑えたいなら前からの水槍の量を増やせば十分です」



「だったら何故無駄な事をしている。変形もできない壊される槍を作った?」


(私に詰め寄られても。クスッ)


「壊される必要があったんです」


「!?」


「どういう事でしょうか?」

驚くルシアさんと答えが早く知りたい破条先輩。

目がキラキラしている。


(生徒会長だよね、この人)

若干引きながら答えた。


「私やルシアさんが思う疑問なら、先生も気づいていない訳ないと思います」


「それはさっき聞いた。ならば何故先生はあんなに苦戦してるんだ」

確かに手加減して山田くんの戦術も破っているのに、先生は後手後手に

回っている。


「山田くんの「魂具」の能力は置いといて、先生の手に持っていた

 氷の槍は覚えてますか?」


「ああ、丈夫そうなのを引き抜いて使っていた」

ルシアさんが答える。隣の破条先輩は両手を拳にしウンウンと頷いていた。

まどかちゃんと、岩湖くんも目は山田くんに向いているが耳が動いていた。


「普通あそこまで強度が強いのはおかしくないですか?」


「!?」

四人が驚いてこちらを見る。まどかちゃん達もびっくりして

試合から目を離していた。


「どういう事!」

まどかちゃん。顔近いっ!

 

手でまどかちゃんの顔をどかしながら私は続ける。


「つまりわざと強い槍を作り先生に使わせたんです」


「わざと?ありえない。いくら後方の槍がマシンガンに変わるとしても

 わざわざ自分の武器で壊させる馬鹿はいない!」

先輩が怒る。


「確かにあの場面、槍が無数に上から落とされ、その中で強度の

 高い「氷の槍」を見つけるのは至難です。でもそれはレベルの低い

 冒険者だった場合です」


「なっ?まさかあの槍の雨からその一本を見つけ出させたというのか!」

コロコロ表情が変わるルシアさん。少し癖になりそうだ。


「はい。多分落ちた時の地面に刺さった音や強さを見抜いたんです。

 先生は最初の出だしだからエネルギーの配分を間違えたか、最初だけ

 強い槍で刺そうとしたかと考えました」


「凄い、それが罠だったんですね」

もはや子供にしか見えなくなった生徒会長に苦笑する。


「はい、ここで山田くんは三つの罠を仕掛けてます!」


「三つも?」

岩子くんが驚く。


「一つは先程行ったように氷の槍を「水槍」と言った事。勿論先生は

 氷の槍だと気づいてましが、先生がそう認識する事が罠だったんです」


「何?」

ルシアさんの驚き一つゲット。

心の中でガッツポーズをする。


「これは水の槍じゃないと強く認識させる事で、水のように流体的に

 変化する可能性を先生の頭から消し去ったんです」


「まさかそんな事」

驚いて山田くんを見る。

2Pゲット。


「だから先生は自分が壊した背後や、頭上の槍に注意が向かなかった」


「氷だと思えば変化しない。盲点でした」

破条先輩がつぶやいた。「氷姫」の二つ名だ。何か思う事もあるのだろう。


「先生の思考が、後手に回ったのには他にもあります」


「何だ」

ルシアさんが身を乗り出す。

だから近いって。


「先生に強固な槍を持たせることで、いつ同じ強度の槍が来るのか

 警戒させる事。これが二つ目です」


「!?」


「確かに弱い槍だけ来るなんて保証は何処にもない」

岩湖くんが下を向き呟く。


「三つめは闘技場で上下に変形する槍です。ルシアさんの推測通り

 最初から分割し、変形するものだった場合、普通の槍を作り、

 そこから操作するよりは「魂力」の消費は少ないと思います」


「ああ、だから最初から仕組んでいたと言った」

納得したように頷くルシアさん。


「ですが先生はレベル280の勇者に近い強さです。経験も私達とは比べものに

 なりません。闘技場に罠が仕掛けてあると知ってました」

私は斧で闘技場の床を斧でを砕き、槍や網を防いでいる先生を指差した。


「だったらなんで?」

まどかちゃんが先生が出した大岩を見ながら言った。


「あれなら防げる」

岩湖が先生の技を見て引いていた。


「ですから今先生が闘技場から下がった辺りにある無駄な槍が

 役に立つんです」


「どうゆうことですか!?」

説明する私か戦う山田くん。どっちを向いていいか分からず

悔しそうな顔になる生徒会長。


(大丈夫かしら。この学校)


私も山田くんを見ながら話を続ける。

必死で戦う彼は少しだけ、カッコよかった。


「あの周囲の変形しない槍は、後ろの槍と同じものです。

 全ては、この槍は氷だから変形しない。そして自分の防御力なら耐えられる。

 そう思うわされたから。でも、変化し、自分に攻撃してきた。

 だから先生は闘技場で後ろの槍がマシンガンに、上の槍が網に変わって

 驚いてました。

 そして無駄だと思われる周囲の槍。変化せず、バリケードにしか見えない。

 でも先生は周囲の槍も警戒する必要があります。

 何故なら周囲の槍が、いつかわからないのですから」

私が一気に話すとみんな静まった。

気持ちいい、胸がスッとした。


「そこまで、そこまで考えていたのですか?」

もう、目のキラキラが止まらない生徒会長。

よだれが出てます。


「あの槍の量と、空中の網をどうにかするには大きなもので遮るしか

 ありません。そして経験豊かな人ならまず、術者を叩くので

 自分が見えなくなるように前面に壁を出します。土の壁なら地形も崩し、

 身を隠す事も出来ますから」

私は土煙で見えないであろう先生の居場所を推測する。

先生は自分がアサシン(暗殺者)と言っている。

 

斧で割った地面から出した土の壁で前の攻撃を塞ぎ、その衝撃で出た

土煙を利用しない手はない。


「多分先生は土煙に乗じて、山田くんを攻撃します」


「でも今までの全てに注意を向けすぎた先生は最初に考えた

 周囲の変化に囚われ過ぎです」


「どうして先生は床の危険性を忘れたのでしょうか?」


「!!!!!」

私の言葉にみんなが驚く。


「槍に組み込んだプログラムは2つまでと、誰が決めたのしょうか?」

私は山田くんを馬鹿にしすぎた先生に向かい言葉を放つ。


まるで氷のリンクだ。

マシンガンの弾にしていた氷や、上から落ちてきた網、周りの折られた槍が

全て解け氷のリンクを作り出した。


音もなく勢いで走り出した先生は、対応できるはずもなく罠にかかる。


「ぐふっ」

土煙で見えない中、先生の声が聞こえた気がした。




ガギイィン!ガガガ、ドサッ!

後で山田くんに聞くと、持っていた斧の勢いが殺せなかった先生は

顔面滑走をしていたらしい。 


土煙が晴れた私たちは、山田くんが見ている公園に目を向けた。


「うわ」

思わず私はそう漏らした。


斧は公園の遊具に刺さり、先生は顔面から公園の砂場に頭を突っ込んでいた。

砂のお城が崩れていた。


「マジで殺されるなこれは」


自分でやったくせに引いている山田くん。


2、3分経ったのだろうか、急激に寒気がした。

ぞわぁああ!

おじいちゃんの殺気と同じくらいの物が私の中を通り過ぎる。


「100回殺してやる」

砂場から起き上がった化け物が呟いた。


「ま、ここまでか」

山田くんが呟くと同時に細切れにされ

そこにはクルミ先生が無表情で立っていた。

一瞬だった。山田くんは、元の形がわからない程細切れにされていた。


これがレベル280の冒険者。



私達は絶対に先生に逆らわないようにしようと心に誓った。

あまりの殺気に、少し漏らしてしまった。あとで山田くんを殴ろうと思う。

生きていればだが・・・。


私はバレないように「クリーン」のスキルを使い、細切れにされた

山田くんの冥福を祈った。

『ディバイド』だから終われば体は修復されるらしいけど。


そのあと、先生が何事もなく山田くんの肩を抱き、出てきた。

やっぱり殴ろうと思った私はいい子だと思う。


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