第6話 金魚とスライムとスポンジと

「おお、街中の再現率が高いな」


ディバイドの空間は都会のオフィス街を再現したものだった。

ただ、今俺たちがいる場所は大きなコンクリートの闘技場のような場所だ。

白いタイルが並べられた床はかなり広く設定されている。


「すげーだろ。本来の「ディバイド」のシステムの中でも最新版だぜ!」

周りを見渡していたらクルミ先生が笑っていた。

周りにいた生徒はドーム状の結界の外側にいる。中から見るとドームが青い。


「だいぶ広いな」


「当たり前だろ。チーム戦も考えられている。半径5キロはあるぞ」

いつの間にか斧を背負った先生がいた。案内している時は消していた。


「ビル壊してもいいんですか?」


闘技場は直径2キロメートルの正方形。

その近くに公園やビルがある。


「あぁ、壊しても現実に影響ないからな!逃げても隠れてもいいぞ」

楽しそうにクルミ先生が笑う。



「それで「賭け」はどうする?」

俺と先生の前にウインドウが表示される。


「私に勝ったら一晩付き合うぜ。奴隷はダメだが」


「いや、勝てないのわかってて言ってますよね?」

俺はいやらしく笑う先生に文句を言う。


「じゃぁお前が負けたらどうする?」


「え?」


「別に私と一晩とか体目当てじゃないだろ?」


「はい」

俺は別にクルミさんにそんな事臨んじゃいない。

だいたい、俺にだけ殺気を向けてきたくせに。

知り合いだからって遊ばないで欲しい。


「特に無いなら私が決めてもいいか?」


「まぁ、裸で校内回れとかじゃなきゃ別に」

俺は特にないので任せた。

すぐ後悔したが。


「じゃあ私が勝ったら、私に一晩服従な?」

言葉の爆弾を落とした。


「は?いや、奴隷はダメだって」


「別に今日だけだし、先生がこき使うように生徒手帳にも

 書いてあっただろ」

確かに教師は生徒の許可がある場合と、生徒を処罰する場合、一時的に

奴隷にできる事が書いてあったけど。


(命じゃないだけましだけど、変わらなくないそれ?)


「ちょ、おかしいじゃないですか?」

外野にいた縄部が先生に向かい文句を言う。


「俺の時は命かけろっ言ってなんでそいつだけ」

他にも文句を言う馬鹿がいるが先生が斧を床に叩きつける。


ドガンッ!

「うるせーなぁ。それは縄部、お前と戦う場合だろ?両方が自由に

 「賭け」の内容を決めれるんだ。私がどう決めたって関係ないだろ」

先生が縄部を睨みつけた。


「な!何でそいつは良くて、俺は?」


「そりゃお前が嫌いだからだよ。私も人間だしな。女を物のようにしか見ない

 馬鹿に抱かれたくないしな」

当たり前のような顔で言うクルミ先生。


「ま、教師である以上精神的に成長させるのも役目だし、お前みたいなのは

 何人も見てきたから別にお前が悪いわけじゃない」


「ぐっ!」

縄部が先生を睨んだ。

周りの生徒は呆れた視線を向けていた。


「それに私にも好きなタイプはいるしな」

笑いながら俺を見る。


(いや、俺がタイプなわけないだろ!)

自分の身なりはわかっている。

黒髪で背は高いが、どこにでもいるようなぱっとしない容姿だ。

死にたくないので鍛えてはいるがそれぐらいだ。

だいたいマッチョが好きとか言ってなかったか?


ハリーはどうした。米軍の奴と付き合っているって姉さんが言ってたのに。


「もう、始めてもいいですかね?」

俺たちが長々と話していたので飽きたのかウインドウの向こうで

仮想世界のナビゲーター「リリス」がおせんべいを食べながら

睨んでいた。


「はは、わりぃ。じゃスタートの合図頼む」

先生が軽く謝る。


「よろしくお願いします」

俺は「リリス」に頼むと、

「はい、わかりました。マスター」と笑顔でいい。先生には

舌を出していた。性格悪いなこのナビ。


「それでは「ディバイド」」

ビィー!!

大きなブザーが鳴った。


「シッ」

俺は歩いて先生の首元を小さいナイフで狙いに行く。

「ッ!?」


目の前にいた俺に、先生が驚くも紙一重で首を反らし避ける。

続けざまに足をかけようとするもバク転の要領で先生が距離をとる。


「やっぱ初撃じゃ仕留められれないか」

俺は追撃せず、睨んでくる先生を見ていた。


「今のは何のスキルだ?転移だったら私が気づく」

先生から笑顔が消えた。


「ただ、歩いただけですよ。じゃ、行きます」

ヒットアンドウェイに切り替える。


左後ろに回り込む。先生が斧を担いでいた側にわざと移動し

斧に攻撃をする。

ガギィイイン!!


「グ、この野郎っ!」

先生が斧を持つ手に衝撃を感じバランスを崩す。


「セイッ!」

俺はわざと声をかけクナイを顔に向けて投げる。

反対の手で細い針を足に向かい投げた。


「甘い」

隠し針にも気づいていたようで斧を立てのようにし体を回転させながら

俺を吹き飛ばす。


「・・・・」

吹き飛ばされる前に、糸を先生に巻きつけるが回転の力で引きちぎられる。


「結構とばされ「ウラァア」こわっ!」

着地した瞬間に、斧を担いだ先生が飛んできた。


バゴン!!

斧が闘技場の床に突き刺さる。


俺はバク転を繰り返し先生から距離を取るが、振り降ろした斧の勢いに

任せ、回転しながら追撃が来る。


跳躍。先生の方に片足を乗せ、バランスを崩すように体重をかけ踏みつけ後方へ

逃げる。


「この、ちょこまかと!いい加減当たれ」

「手加減忘れてませんか?」

自分を踏み台にして逃げた俺に文句を言う。


「うるさい。腕一本は残してやるからさっさと死にな!」


「えっとお断りします」


さて、そろそろ使うか

俺はいつの間にか左手に現れていた、青い携帯ゲーム機の電源を入れる。

=自分クエストを開始します=

ゲームが起動する。


『自分クエスト』

ゲーム名が俺の前に表示される。俺は次の項目へ移動と念じた。


《スタイルを選んでください。》

ゲームのコスチュームを選ぶ項目になり、俺はその中の黒い目玉がついた

青いフードの衣装を選ぶ。



=スポンジスタイルを選択します=

シュュン!!

青いカラーに金色の水玉模様のコートを身にまとっていた。



先生が攻撃しようとした手を止め驚く。

「まさか!それは『天装』か?」


「いえ、違います」


先生がでないと発現しない「天装」と間違えた。


「さて、仕切り直しましょう」

俺は1メートル程のポイを出す。


「なんだそれ?」

先生は動かず俺を見ていた。


「ポイです。金魚すくい、したことないですか?」

ポイで周りの空気をすくいながら先生に答える。


=エアスプーン=

空気を掬い、先生めがけて投げる。

ドォォン!ドォォン!ドォォン!

空気の塊が衝撃弾となり、先生に当たる。


「ぐぅう!!」

先生はとっさに斧を盾にし防ぐが俺は構わず掬い続け、空気弾を

作り出す。

ドォォン!ドォォン!ドォォン!ドォォン!


「流石に効いた「わけないだろ?」やっぱり」

まさか倒せたかと思ったがそんな訳はなく、俺の眼の前で

斧を振りかざしていた。


「終わりだっ!」

俺は脳天から真っ二つにされた。

・・・ように見えた。


グニャャャャア!ボヨンッ!

俺の身体はスポンジのように衝撃を加えられ元に戻る。

その強力な反動で、先生が跳ね飛ばされる。


「うぁぁ、なんだよそれ!」

先生が空中でなんとか体制を立て直す。


「スタイルですよ。俺の能力です」

先生は俺の『魂具ガング』を知ってはいるが詳しい事までは

教えていない。学校には自分の成長度合いが判るとだけ言ってある。


「さて、また空気を・・」

ポイを構え空気を掬おうとすると、


「させねーよ!」

先生が目の前まで来て俺を殴る。

(斧の遠心力で飛んでくるの反則だろ)


慌てて先生を掬い、投げる。


「おわぁ、私まで掬うのかぁあああ!」

先生がビルまで飛場されていく。


ドゴォォォン!!パラ、パラ

投げつけられたビルが、先生が当たった衝撃で少し崩れる。


「マジかよ?」

「嘘、レベル280だよ、手加減してるんじゃない?」


騒ぐ生徒の中に俺の能力を教えていない友人である委員長こと、四十万ちひろがいた。

ものすごい笑顔だ。きっと嘘をついた事を怒っているのだろう。

(後で説明しないと殺されそうだ)

先生が出てきたのは煙の中で確認した。

俺はもう一つの防御を選択した。


ザシュ!


「よしっ!」

先生がいつの間にか俺のいた場所に立って死亡確認していた。

俺は二つに割れて無残に倒れている。


「ま、いい線いってたよ。成長したじゃん。」

緑の光に輝く斧を担ぎ、笑顔で割れた俺を見ていた。


一瞬で俺の前まで戻り、スキルで強化した斧で両断。

観客席で見ていた生徒は、今度は元に戻らない俺を見て静まり返る。



1分ほどして先生が俺から離れようとした。

「さて、これで終わりだな」


グニャリ!

俺はその言葉を聞きながら身体を針状にし、ハエトリ草のように先生を

包もうとした。


「な!」


シュガン。針の花が閉まる前に、先生が飛び退く。

「まだ、気を失ってないので試合続行です〜」

飛び退く先生に、ウインドウが開き意地の悪い笑みを浮かべたリリスがいた。


「うるさいっ」

右足は間に合わなかったのか、俺の針に貫かれちが吹き出していた。

なんとか斧を杖代わりにして着地し、俺だったものを睨む。


俺は水のような身体を起こし元の形に戻る。


(もうちょっと削れるかなと思ったけど)

先生の無事を確認し、俺は手から水の槍を先生に向けて発射する

ドガガガガガァン!!

先生に向かった槍は難なく避けられる。流石レベル280。


「ヒール」

先生は俺が槍を生成すると同時に自分を治療し、俺の攻撃を避けまくっていた。


「この槍、もらうぜ」

避けた槍の雨の中、先生が突っ込んでくる。


「ああゆうのを一騎当千って言うんだろうな」

闘技場の隅で待つ俺に向かい槍と斧で薙ぎ払い、直進してくる先生。

まぁ、わざとその槍は固めてるんだけど。


「もうちょっと俺に優しく」


「するわけねぇだろうがぁッァァァァァア」

物凄く怒ってますね。



さて、次は逃げようかな?

怒りの表情で俺が打ち出す槍の束を打ち払っている。

「オラァアアアア!」

だから怖いよ。マジで


俺は意図的に耐久力を弱くした水の槍に、次のプログラムを発動させる。

先生が突進してくる。

後ろにあった折れた水槍の残骸が変形する。

やがて30程の砲台になり、マシンガンの形状が現れる。

「さて、上手くいくと・・・いいなぁ」

鬼のような形相で俺に迫る先生に、後ろからマシンガンの如く

水弾が発射される。


「チィ!」

慌てて方向転換し、ジグザグに走り回りながら俺に近づく。


(あれ避けんの?わかってたけど)


先生が壊しまくり、宙を舞った水槍の残骸の二つ目のプログラムを発動。

宙を舞った部分はあらかじめ、重さを変えていたのだ。

残った部分にも仕掛けがある。


まずは空中に散らばった水やりが縄目上になり、さらに氷柱のような棘が生成。

先生の頭上で網が展開される。


「このクソ野郎!どんだけ罠張ってんだよぉお」

前に水槍の雨、後ろに水のマシンガン、上から針の網。

さてどうする。


バゴオォオン!

先生が笑うと斧を地面を叩きつけ土の層を掘り起こした。

あたり一面土煙が舞う。なるほど自分の姿を隠し、土の壁を盾にする。

その巨大な盾で上から降る針の網を絡め取る。


後ろのマシンガンはあまり威力がないのはバレているようだ。

俺の目は見えなくてもフードの金魚の目が見えている。

煙に乗じ、音もなく俺に近づいてくる。

(流石アサシン)

今までの戦闘はなんだったのかと思ったが、闘技場に入った瞬間、

槍の下部分に2つ目のプログラムを発動。


シュゥン!

一瞬で水槍はツルツルな地面になり、先生は滑り、顔面から落ちる。


「ぐふっ」

あまりの勢いに俺のそばを通り過ぎ、闘技場の反対側の公園に突っ込んでいく。


ガギイィン!ガガガ、ドサッ!

先生が持っていた斧と勢いが殺せなかった先生は顔面滑走をしていた。


(これは殺されるかな?マジで)

防御力はあるだろうから、多少の擦り傷はあるだろうが大丈夫だと確認する。

この金魚の目は水で同じ目を作ることで視界を増やす。

周りには先生が破壊した、水の槍と嘘をついた氷の槍の破片がキラキラと舞う。

その水分で作り出した「目」は青いフードの黒目とリンクしている。

 

透明なので見えないし、3センチ程の小さな目だからまず気づかれない。

「殺す、100回殺す」

先生が呟く声も聞こえる機能付きだ。


ゆらりと立った先生の姿がブレた。

(ここまでか)


俺は『魂具』を操作し、痛覚を切った。


一瞬で先生が目の前に現れ、1秒で100回ほど斧を振るう。

細切れにされていく俺を他人事のように金魚の目で見ながら意識を失った。


とりあえず、データを記録しておこう。そう思った。







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