第4話 担任と肉食系女子
「おはよう山田くん」
「おはよう委員長」
教室に入り席に着くと黒髪の女子生徒が俺の席の前まで来る。
「委員長じゃないって言ってるでしょ。まだ入学して二日目よ、係りも決まって
ないわよ」
まだ前の席の生徒が来てない為、その椅子に座った。
「私の名前覚えてるかしら?小学校からの幼馴染なんだけど?」
揺れる黒髪を手で押さえながら俺に顔を近づける。
思わず顔をそらす。
「いや、覚えてるよ。確か早乙女……?」
「全然違うんだけど。
「初めまして」
「殴るわよ」
日本人にしては整った顔で微笑むと、黒い目を半目にし俺の頬を引っ張る。
「ごめんなひゃい」
「はぁ、許してあげる」
何故上から目線なのか不明だが、委員長は気が済んだのか頬から手を離す。
「そういえば、聞きたい事あるんだけど?」
「何?」
「なんで入学そうそう上級生や先生に喧嘩売ってるの?」
「はは、なんの事やら……」
「あの時殺気返してたでしょ」
笑顔で委員長こと四島ちひろが問い正す。
「それには胸の谷間ほどに深いわけがありまして」
「そう、それは凄く深いわね。で?」
委員長の凄みが増した。
「身体が勝手に殺気を発しまして・・・(汗)」
「へぇ〜。勝手ににねぇ?」
「そうでやんす。だから俺は悪くないと思うでやんす」
「成る程。身体が反射的に私が知らない程の殺気を出したと?」
「はい」
どんどん委員長の顔が近づいてくる。近いっす。
甘い匂いがした。
「そう、ならお爺ちゃんに言ってもいいわね」
「何故!」
「だって今が限界じゃないんでしょう?それだったら鍛えれるもの」
委員長が俺から離れ笑顔で死刑宣告をした。
「いいわよね」
「はい」
落ち込む俺と笑顔で去っていく委員長。
「頑張れ」
やり取りを見ていたまどかが、俺の方に手を置いた。
その顔は笑っていたが。
「全員席につけ!ホームルームを始める」
中性的な声がし、一人の女性が入ってきた。
教師らしかなぬ格好で。
茶髪のウルフカット。タンクトップに緑のジャケットを羽織っている。
ホットパンツを履き、健康的な小麦色の肌が見える。
猫のようなまん丸な眼。
普通なら男ウケしそうだが、手に持っているものが問題だ。
そう2メートル程の両斧を担いでいる。
「昨日はダンジョンの探索があってこ来れなくて悪かった」
ニヤッと笑いながら生徒全員を見渡す。
「私が担任の
ノリ軽いな。
まぁ知り合いだからいいけど、もっと教師らしくしないのかね?
「お前らの自己紹介はいらねぇ。全員今からトレーニーング場に集合だ。
そこで『ディバイド』を行う」
「なっ!」
「え、いきなり実戦?」
「よっしゃぁああ!」
「実戦の方が勉強よりマシかな?」
教室の中にいる40人の生徒から驚きと喜びが伝わる。
不安に思う者は驚いたままだ。
「肩苦しい勉強なんかは後だ。まずはお前たちがどの程度強いか
私が見極める」
ドン!
巨大な斧を置き、クルミ先生が笑う。
「あの、先生が一人で全員と戦うんですか?」
委員長にまだなってない四十万さんが、恐る恐る質問する。
「うん?そうだよお前達殺すのに一人3秒だな!」
「・・・・・・」
クラスメイトが俺以外全員固まる。
「ま、手加減してやるから一人2分ってとこだな。それと私は魔道具を
使って分身を出す。力は精々本体の10分の1ぐらいだから心配するな」
ハハハと笑いながら生徒に喧嘩を売っている。
苦々しい表情やおもしろそうだと笑う者、腰が引けている者もいる。
「本体である私と戦いたい奴がいれば、直々に相手してやるよ」
ゾワッ!
教室中を殺気が包む。
「私はレベル280。ランクSのアサシン(暗殺者)だ!」
「!!!」
昔の勇者と殆ど同じレベル。そしてまさかの暗殺者ジョブ。
思いっきりアタッカータイプのナイトや重戦士だと思っていた者達の
顔が引きつる。
「暗殺者」、アサシンと呼ばれる者たちは一概に非力だと言われる。
索敵、トラップ解除、毒攻撃など多彩なスキルと引き換えに
ナイトや重戦士、魔法使い等に比べ火力(戦闘力)が弱い為だ。
が、クルミ先生は、どう見ても当てはまらない。
「ま、今私がアサシンだと言って油断した奴はすぐ死ぬな。ハハハッ!」
いつの間にか殺気が消えていた。
「はい!」
左側の一番前に座っていた男子が手を挙げる。
「なんだ、縄部?」
「ディバイドで何か賭けないんですか?」
確か入学式の時、俺の横でくだらない事を言っていた男子だ。
==============================
=鑑定=
注意度D 縄部ひしき レベル32 テイマー(調教師)
『
自身が望む効果を1種類付属した鎖を体のどこからでも出す事ができる。
例、自然効果、毒属性、精神効果など。洗脳効果は相手のレベルが
高い場合発動不可。現在出せる鎖は3つまで。最長30メートル
==============================
なるほど。鎖で調教師だから接近戦に特化してる先生なら何とか
なると思ってやがる。
本人は純粋な男子学生のつもりだが、どう見てもエロい事しか考えてない
顔だ。
ま、クルミさんも解ってて笑ってるからいいけど……。
「そうだなぁ、私の分身に勝ったら一ヶ月食堂はタダにしてやるよ」
「マジ?」
「よっしゃ、やる気出てきた」
「神詠学院の食堂はプロのシェフがやってるらしいよ」
「えー、何食べようかなぁ?」
「じゃぁ、本体に勝ったら?」
縄部がさらに続ける。まぁあいつの目的は先生の身体だろう。
俺は呆れながら見続ける。
クラスメイトで縄部の狙いに気付く奴は頭の良い男子か、奴隷制度が
嫌いな女子だろう。今の時代「ディバイド」で奴隷を獲得するのは
男だけはないと言うのに。
「おう、なんだ、私に挑戦者か?言っとくけど私ら教師は奴隷にはできないぞ?ま、私に勝ったら一晩くらい相手にしてやるよ!」
「!!!」
その言葉にクラス中が静まる。何人かの男子はいやらしい笑みを浮かべた。
「その言葉、嘘じゃないですよね?」
縄部が純朴な笑顔のまま聞く。
「当たり前だろ。ただし」
「ただし?」
「私と一晩賭けて戦うなら、負けたら死ねよ?」
「は?」
縄部を筆頭に、アホな事を考えていた数人の生徒がポカンとする。
「当たり前だろ、乙女の純情賭けるんだ。お前ら程度だったら
命を賭けるのは当たり前だろ。私の一日は高いんだぞ」
縄部の考えていいる事などお見通しだったようだ。
「な、『ディベイド』じゃ、死なないんじゃ」
「生徒手帳読むように言ってあったろ?教師には生徒の殺害許可が
出てるんだよ。試合が終わった後に決まってんだろ」
「なっ!?」
縄部の顔が驚く。
他の生徒も驚愕している。
まぁ真面目なやつ以外は生徒手帳なんか読まない。
俺は=インストール=したけど。
「まぁ、裏で女子生徒に無理やり「ディバイド」引っ掛けて
奴隷にしたやつもいるし、そういうやつは教師の権限で殺せるんだよ。
なんだ?知ってて言ったんじゃないのか?」
クルミ先生は呆れたように縄部を見る。
縄部の顔は青くなっていた。
周りの生徒も、慌てて生徒手帳を取り出し中身を見て驚愕している。
「初めにに言ったろ。校長が。生一杯楽しんでくださいって」
精一杯じゃなく、生一杯。つまり命の限りか、怖いな。
「それで私と戦いたい奴いるか?」
教室を見渡すが誰も手を上げない。当たり前だな。「ディバイド」の亜空間で死ぬような事があっても、現実世界に戻れば生き返る。
でも現実で死ねば?
「お前らそれでも男かよ。性欲だけあっても貧弱じゃ、誰も相手にしないぞ」
先生が男子に向かい呆れた声を上げる。確かに今の時代、強い冒険者が何人も妻を持つ。弱い奴はあまり相手にされない。それが全ての基準ではないが。
それより先程から、俺限定で嫌がらせが酷い。
あれだけ啖呵切ったのだから、お前が闘えよ縄部?
俺にだけ当てられる、殺気と言う悪戯に耐えかね手を上げた。
「はい」
「山田くん!?」
「お、なんだ山田?」
「俺が先生と戦います」
驚いて俺を見る隣の席の巣能さんと笑うクルミ先生。もうクルミさんとは呼んでやらない。
絶対だ!
クラスメイトが驚く中、俺は溜息を吐いた。
まだ初日なんですけど?
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