第46話 悪夢と、悪魔の遭遇
「アセヒが消えた?」
「はい。昨日、用があったので工房を訪ねたところ、中に居なかったので他の場所を探したのですが魔王城にはどこにも居ませんでした。1日居なくなるくらいはあったので今日には戻っているかと思ったのですが、今日も戻ることはなく、実家にも帰ってはいないようです」
城の自室で俺はグラースからそんな話を聞いていた。
世界が元に戻って半年。
終わる前の世界に戻ったわけではないから、元に戻るという言い方は違うのかもしれない。
被害は大きく、人口は半分以下にまで減った。人族はもっと減ったらしい。今まで濃い魔力の中で生きていた魔族だからこの程度で済んだのか。
日々はほとんど戻った。隣人は消え、住居も変わったが、営みは変わらない。
魔王城も修理を終え、変わらないものを取り戻している。
ひと通りの仕事を終え、今日は久しぶりにゆっくりできるのだ。
「絶対にここを離れないのにな。……少し捜索に人員を割り当てるか?アセヒのことだから何かに夢中になってそこらへんで倒れている、ということもありそうだ」
アセヒが何かに夢中になり、魔力の使いすぎで倒れることはよくあること。
彼女の魔紋は強力だ。
ただ、彼女自身の魔力量はそこまで多くない。魔族の平均より下だ。だから、少ない魔力で扱える魔紋を使っている。
「いえ……今は復興が最優先かと。その内戻ってくるはずです。ただ、居ないという報告はした方が良いと思っただけですので」
「そうか、わかった」
アセヒのことだ。グラースがいいと言うのならいいのだろう。
「ところで王よ。なぜ、玉座の間の床に絨毯を敷き詰めてしまわれたのですか?せっかく前以上に素晴らしく、彼が修復したではありませんか」
再戦の場となった玉座の間は、大きく壊れたものの、あの人が修復してくれた。直してくれたのは良かった。だが、おかしな遊びを広めてしまったのは良くないことだ。
笑顔になれることはいいことだが、玉座の間であれをやられると魔王としての威厳も何も無くなってしまう。あそこは、魔王が魔王として君臨する象徴の一つなのだから。
「……あのまま話しているとな、誰もがウズウズした表情になる。それにあの床は滑りやすいだろう。だからだ」
「そうですか……」
「なんだ、お前もあの場にいたのか?」
もしそうならそれは見たかった。この真面目が具現化したようなグラースが、皆と同じように石を床の上で滑らせ遊んでいたら、それは想像するだけで笑えてくる。
「い、いえ。あり得ません」
あり得るな。目が泳いでいる。
「そうか。なら気にすることではないだろう」
「そうですが……」
ふむ。
「まあ、ずっと同じ絨毯だと汚れるからな。取り替える間はしばらくあの床だけになるか」
言った途端、グラースの表情がわずかに明るくなった。長くいるから、わかりやすい。
でも待て、あの遊びをあの場ですることは禁止したはずだ。なのに何故、そんな表情になる?まるでまたやれるのを楽しみにしているような……。
「……お前ら俺がいない間に隠れてあそこでやっていたのか?」
「まっ、さか!」
……ああ、そうなのか……。
◼️◼️
人が居なくなった廃墟の町で、その者は暗いグレーのマントに身を包み、フードを深く被り歩いていた。
体格からして男。
生物はその町に男しかいないようだった。
突然男がどこからか大剣を取り出し、横に突き出した。
「……さっきから何の用だ」
男は、“誰か”へと声をかける。
「あら……物騒」
剣を向けた先の廃墟の中から姿を現したのは、1人の女。
「……何の用だ」
「いいえ、違うの……。ええ、ええ。違うのよ……そう、敵意はないの。ただ……場所を教えてもらいたいの」
廃墟に似合わない、楽しそうな声音で女は話す。男を警戒している様子もない。
「場所?何の?……いや、お前に教えるものなどない。《人形使い》」
言い終わると、男は女に向かって剣を振るった。
女の後ろの廃墟を巻き込み、斬撃は広範囲を壊していく。
「……酷い。ワタシ、あなたとは……分かり合えると思うの」
「…………何が分かり合えるだ」
男の攻撃をどうやってか避け、男の目の前へと移動した女は、笑顔で男へ話しかける。
「だって、そうでしょう……?ワタシと、あなた。歪んでる
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