第41話 戦いの、始まり

世界は、終わった。


勇者が魔王に負けたから。


ふふ、よくそんな馬鹿げたこと、信じられるよね。


間違っては、ないんだけど。



長く、長く生きてきた。


何度も死にたいと、そう強く願った。


死ねなかった。


愛する人が死んだ時。愛する子が死んだ時。


知り合いが誰も居なくなっても、自分だけは若い姿のまま、ずっと。生き続けていた。


誰も敵わないくらい、強くなった。


愛する人を守るために身につけた力は、自分をこの苦しみから逃れさせてくれない、大きな枷となった。



深く関われば、別れの時の傷は大きい。人と深く関わらなくなってどのくらい経つだろう。


楽しみだとか、嬉しいことだとか。


娯楽と言えるようなのは無くなった。


小さなことを楽しみに生きて行ける“普通の人”が羨ましかった。


ただ、叶わない1つのことだけを願って。



世界が荒れ果てたのは僕のせいだ。すべて劣化するのは僕の願いだ。


僕の、思いだ。



────全部全部、無くなってしまえばいい!!この苦しみから、解放させてくれ!



この時はそう思うしかできなかった。


裏切られ、縛られ、毎日苦しみから逃れることもできず、心の底から全てを呪って。


それがどういったことを引き起こすかをわかった上で、思わずにいられなかった。




世界は、救われる。


どうでもいいことだけど、このままこの世界が終わった所で僕は死ねないだろう。死ねないのに世界が終われば、どうなるのかわからない。


荒れた世界でただ1人生き続けるのか。他にも“世界”はいくつもあるから、そのどこかに飛ばされるのか。



ずっと昔からの、呪い。僕に掛けられた呪い。


酷いことだ。僕は関係ないのに。


……関係は、あるのか。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


遠い昔、魔族と人族が恋に落ちました。


昔から2つの種族は対立していましたから、大きく周りに反対されました。


ですが、片方は魔王であり魔族の頂点に立つ者。もう片方は魔王に着いていけるだけの力を持つ人族からしたら勇者とも言える存在。


反対を力で押し退け、気がつけば2人は結ばれ、共に魔族を治めるようになっていました。


ここまで来れば周りも2人を認め、祝福します。良い統治者であったということも、その理由になったのかもしれません。


力を持って魔族を治めてはいましたが、その力は内部に使うことはほとんどなく、人族との戦いのみに使っていました。



そのようにして2人は幸せに暮らしていました。




長い時が過ぎ、2人の間には子供が2人、生まれました。この時が彼らにとって幸せの絶頂期だったのでしょう。


子供達が共に歩け、話せるようになった頃。



『────このまま年を取り、老いていけば自分の力もまた、老いていくだろう。あの人の隣に並び立つことは、もう、出来なくなる』



魔族と人族では生きる時間が違います。


もちろん、長い時を魔族と同じように生きる人族も稀にいます。


ただの人族ならば長くても70年ほどでその生を終わらせます。


いくら勇者と呼ばれ、魔王と並ぶような力を持っていても、人族であることに変わりはありません。


人族であり勇者と呼ばれながら魔族と恋に落ちた者は、見た目が人族に近い方の子供を連れ、誰も知らない内に魔王の元から去りました。


『どうか、愛するこの地を、最愛のあなたが最良の地にできるように。あの子と共に』


心から愛したパートナーの消えた魔王は、心に大きな穴の空いたような気持ちでいました。ですが、残された言葉だけが、魔王を落ち着かせ平静を保たせました。


たくさんの場所を、捜索させました。自分でも、探しに行きました。ですがどこへ行っても愛する人の姿はありませんでした。


この地を最良の地に。


なぜいなくなったのかと、そう嘆きながら魔王はこの言葉を忠実に守ろうとしました。


人族との戦いは続いています。



2つの種族の戦いは、この魔王の子供の代、その次の代、またその次……という具合にずっと続いています。





1つの勘違いがありました。


勇者がただの人族であるはずがありませんでした。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




◼️◼️








レノが消えた。


もう何も、考えられなくなった。怒りで何もかもを壊したくなった。


その度にレノのことを思い出して自分を落ち着かせた。


大丈夫だ。今度は、助けに行ける。



「結界は、切ったし……余計なとこも、無し。よし。行けるわ」


「行こう。さっさと」


セラが居なければ転移魔法が使えない。みんなが行けるのなら、1人で行くより少し待った方が早い。


「緊張してきたです……」


フィアはまだ少し怖いようだ。でもそれで躊躇ってはいられない。


時間は、ないんだから。


「必ず、勝つ。勝って、みんなで戻ってくるんだ。レノを連れて。いいな?死ぬなよ。死んだら、そいつの全財産俺が貰うから」


「無駄に変な物に使われてすぐ無くなりそうね……。絶対嫌だわ」


冗談で言ったのに、セラがそう言えばみんな同じ反応をした。なんだよ変な物って。食い物くらいだろ。


「まあそれはともかく。ヴァルの言う通りですわ。ヴァルに財産を変に使われないよう、きちんと生き残りましょうか。さ、セラ。お願いしますわ」


「ええ。転移場所は魔王城門前。到着次第私が結界を1部壊して入れるようにする。その間にフィアが全員に強化魔法をかける。終わり次第、全員逸れず一緒に突入。目指すは魔王のいるであろう、玉座の間。着いたら私たちはヴァルの支援をしながら周りを倒す。それまでに何か予定に不具合があれば各自対応。今回は場所が前よりかは狭いからそれだけ注意。これでいいわね?」


セラの言葉に俺は強く頷く。


これで負ければもう終わり。逃げることは困難だろうし、待つのは死。


負けない。大丈夫だ。1度やったこと。戦い方はわかってる。


「行こう。再戦の地へ」








◼️◼️









魔王城、玉座の間では、慌ただしく人が出入りしていた。


「グラース殿!魔獣部隊はどう致しましょう!?魔力の影響で制御不能になった魔獣はもう処分してしまいましたが」


「ある分だけでどうにかしろ!結界はどうなっている!?」


「アセヒ様が対応しております!」


「魔王様!保護していた魔族の者たちはいかがしますか!」


「最上階へ。そこなら戦いの衝撃も少ないはずだ。もしもそこでも無理そうなら、早めにこの城から別の場所へ移せ」


いつくるかわからない勇者への準備が急いで進められていた。


「アズラク!アズラクはどこだ!」


「ここに!」


「お前は魔獣部隊へ着け。魔獣を制御できるのは少ないからな」


「了解致しました」


魔族も負けは許されない。


今の魔王が負ければ、世継ぎがいない。そうなると魔族の未来がどうなるかわからない。


魔王は、魔族の存続のためにも勝たなくてはならなかった。


「……これで救われるというのなら」


──────簡単なものなのだが。




どう転ぶかわからない戦いが今、始まろうとしていた。







◼️◼️







廊下が騒がしい。戦いの準備をしているのか。


「レノさん、具合はどうですか?」


「大丈夫。なんともないよ」


ソファに座った僕とシュティルはすることもなく、2人して暇を持て余していた。


「ですが驚きですよね。敵のレノさんを牢に繋ぐでもなく私と一緒に普通の部屋に鍵かけて放り込むだけなんて。結界さえありませんよ。しかも食事付き。パイが美味しかったです」


「どうせこの体じゃあ何もできないからね。ここにいる者ならすぐにそれはわかる。誰も文句は言わないよ。勇者の足手まといってすぐわかるから」


あの後魔王はすぐに人を呼ぶと、僕を運ばせ玉座の間から離れた部屋へ、シュティルと一緒に入れさせた。


魔王がシュティルへ、「無いとは思うが。あの人の頼みだ。逃がさないようにしてくれ」とだけ言うと、部屋の鍵を外から閉め、行ってしまった。


後で食事が2人分運ばれてきて、シュティルが1.5人前食べた。


「それはそうなんですけど。アセヒ姉さんも来ませんし。なんか呆気ないというか素っ気ないというか。なんて言うんでしたっけ、こういうの」


「さあ。僕はもう待つだけだから」


ルーナフェルトが来ない限り、いつどうすればいいのかわからない。


「私、許しませんから。絶対に。止めますから。ルーナフェルト様の言うこともわかりますけど、望んでなったわけじゃないですし。……というより今レノさんを別の所へ運んでしまえばいいのでは……。はっ。名案」


「駄目だよ、シュティル。僕はこれでいいと思ってる。これ以上の方法は考えられないし、もう事は動き出してる。だから、お願い。僕の決意を揺さぶるようなこと、言わないで」


「レノさん……」


あの日、ルーナフェルトに言われたこと。





「全てを。全部を終わらせる。遠い昔から続くこれに、終止符を打つ」


シュティルも声を出さない。車の走る音のみが、耳に入ってくる。


「悪いけど君には死んでもらうよ」


何て言ったか理解ができなかった。


意味はわかるけれど、どうしてそうなるのかが、全くわからなかった。


「……は。それは、どういう……」


「そのままの意味だ。勇者とそのパートナー。この関係は、今の世界を引き起こす燃料だった。パートナーが勇者の純粋な力を使うことで、その力に不純物が混じる。不純物は世界に溜まり、やがて今の魔力に変わり世界を覆った。わかる?君が戦うことで世界は終わったんだ。君がギリギリまで溜まっていたものを、溢れさせた。君の責任……いや、これまでの勇者とそのパートナー、そして僕の責任」





信じられなかった。


良いと思ってやってきたことが、駄目なことだった。


勇者と、その相棒、パートナーの関係。これはずっと続いてきたこと。ルトから聞いていた。最も信頼する者に、力を分けて一緒に戦うと。


ルーナフェルトは今までずっと、パートナーがこれ以上力を使わないように、1番使うであろう魔王戦の前に脱落させていたらしい。戦えなくさせるか、最悪、魔王の仕業に見せかけて殺す。そうして勇者にやる気を出させることで、魔王という壁を乗り越えさせていた。


だが1つ、想定と違うことがあった。


それは、ルーナフェルトが与える側になってしまったこと。ルーナフェルトはルトの立場、前魔王は、僕の立場だったと。これでよく前の勇者は勝てたな、とこの時僕は驚いた。


ボロボロに使われ、弱ったルーナフェルトは僕たちの魔王戦に間に合わなかった。


よって、世界は終わってしまった。


前魔王のことがあるから、ルーナフェルトは与えられる立場の僕が嫌い。与えられるだけで、寄生虫のようだと。


そう言われれば、納得できてしまった。僕がもし彼の立場なら、同じことを思うから。


僕が死ぬことで、勇者と僕の関係が切れるため、世界の不純物がなくなるらしい。


ここは少しわからなかった。


だって、ルーナフェルトは今までパートナーを殺したこともある。なのに不純物は溜まり続けていた。


僕が死んだ所で何かが変わるとは思えない。ルトが泣くくらいじゃないかな。


でもルーナフェルトがあそこで嘘を言っているようには思えなかった。何かまだ隠している感じはしたけれど、嘘は言っていない。


なぜこんなことを知っているのか、だとか。


なぜそんなことをし続けてきたのか、だとか。


気になることはたくさんある。なんで僕なんだ、とか、他に方法は?とか。でも僕がすべきことは、彼の言う通りに動くことだけ。


もう何か、疲れてしまった。


僕もこの世界の魔力にやられているのかもしれない。


“死”への恐怖はある。


でも、ルーナフェルトなら何も感じさせず、わからない内に終わらせることもできる。だから信じて、待つだけ。


「全部終わって、どうなるかわからないけれど、頼んでもいいかな?」


「何を、ですか」


「ルト……勇者に、また会えればいいんだけど、それは叶いそうにないから。勇者に伝えてくれるかな。出来れば、でいいから。『何もできなくてごめん』って」


応援なんて。ルトを考えることも。


本当に何もできなかった。足を引っ張ってばかりで。ごめん、ルト。僕の、大切な光。


「……考えておきます。私のことだから、悲しくて忘れちゃいますきっと」


「困るな、それは」


きっと、シュティルは伝えてくれる。


僕なんかのことでも悲しんでくれるような、いい子だから。







◼️◼️









「はいはーい、止まってー」


転移直後。魔王城の目の前で、俺たちは止められた。


「ルーナフェルトっ!?なんでお前が!」


「戦おうっていうのはいいんだけど、ごめんね、少しだけ言いたいことあるから移動するよ」


景色は魔王城前ではなく、灰色の大地が広がる街の外。離れた場所になった。


周りを確かめれば、ちゃんとみんないる。


「良かった、向こうには気がつかれる前だったね。ごめんねー、いきなり」


「何のご用件でしょうか、センセイ?」


キツい口調でリルアがルーナフェルトへと突っかかる。


全員戦闘態勢で、リルアなんて言いながら掴みかかりそうだ。


「いや、こんなとこで言うのもなんだけど、スヴァルト、君何か気になること、あるんじゃないの?」


俺……?


俺が、気になること。


「レノ……?」


今はそれしか考えられない。レノは無事か、大変な目に合っていないか。


「そっち行っちゃうか。違くて、もっと他に。前から思ってたこと」


前から?


それは、それ、は……。


「あの時の“俺”……?でもそれは今本当に関係ない……」


「あーそれ。それそれ。君の中の、“黒い”とこ。その理由。勇者と、魔王。この関係を知れば、すっきりできる。でも戦い難くなるかな?それは君次第だけど。さあ心の準備はいいかな?僕も興奮しててさ。もうすぐで悲願を達成できるから」


ルーナフェルトは、俺の何を知っている?あの“俺”を知っているのか?


「君の仲間がどう取るかは知らない。ただスヴァルトがどう思うかが重要。勇者と魔王。これはずっと昔に遡る。初代たちの時代まで」





◼️◼️



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「なんで……こんな、はずでは……」


勇者は自身を呪います。


「もう会えないというのに……!なんでっ、なんでっ!!こんなこと知らなかった!!こんなことなら、離れる必要なんてなかった!!」


勇者として人族を離れ魔王と結ばれ、その魔王の元からも離れた勇者はもうどこにも居場所がありませんでした。


ただ1人、心の拠り所となるのは愛する人との唯一の繋がりの、幼く愛しい我が子だけ。


「駄目だ……この子のためにも、生きなくては……」


逃げ、隠れて我が子を連れ過ごします。


長い長い時を隠れて過ごしました。


勇者は全盛期の姿のまま老いることはなく、また魔王と勇者の子もまた、普通ではなかったのである年になってから老いることは無くなりました。


成長した我が子はどう見ても、愛しい人の姿とそっくりでした。


「あぁ……。わかっている、あの人ではない。でも、でも……!あの子を見るとあの人を思い出してしまう……っ!」


いつしか勇者は我が子に愛する人の姿を重ねて見るようになっていました。



恐ろしいことに、


勇者がそうして我が子と愛する人を重ね想いを募らせる内に、1つのこれからずっと続く魔法の原型ができ、その副作用としてその子に酷い呪いがかかりました。




長命でもいつしか命は無くなります。


人族を愛したあの魔王も。


魔族を愛したあの勇者も。


代替わりをし、体が大地に帰りました。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



◼️◼️






「1番始め。人族で最も強く、勇者と呼ばれた者が、魔族の王と恋に落ちた。2人は反対を押し切って、めでたく結ばれた。2人の間には子供が2人生まれた。1人は勇者として。1人は魔王として。各々別れ、子孫を作っていった。これが、勇者と魔王の関係」


「は……?……え?だって、そうなると、そう、すると……」


元を辿れば、勇者と魔王の血は繋がっていることになってしまう。


「そう、その通りだよ。勇者と魔王は同じ。元々は同じ。あの時逆だったら、もしかしたらスヴァルトが魔王だったかもしれないし、ディアリが勇者だったかもしれない」


あり得ない。


だって、俺は。俺の、あの家は。勇者の家系ということに誇りを持っていた。そういう風にずっと言われて来た。疑問はあったけれど、実際その通りだったから。


それが、魔王と同じだなんて、どうすれば信じることができる?


「信じ、られない……。魔王と……」


「事実だから。もう1人が悪だったとか、そういうんじゃない。魔族が悪だとか、そういうのでもない。同じだから。勇者が善の面しか持たないと、魔王は悪しか無いと、そう思っているのなら、それは間違いだ」


あの“俺”は。魔王だった場合の俺ということなのか?それとも、勇者だからと押しやってきた俺自身の、元々の気持ち……?


「だとしても」


黙っていたリルアが口を開く。


「ヴァルがヴァルであるとこに変わりありませんわ。勇者だとか、そういうもの以前に。ヴァルは、ヴァルでしょう?」


「です。今は悩むより、先にやることがあるなのです。ですね?あ、あの。もしかしてあの人倒さないと駄目な感じです?ちょっとそれは無理があるのでは、と私思うなのですけど」


「そうですねぇ。終わった後にレノにでも相談すればいいんじゃないですか?」


迷いがある状態で、あいつと戦って勝てるのだろうか。


いや、そもそもこれは迷いなのか?


『俺は、善なんかじゃない。俺には、悪の、暗い感情の方が、多くを占めてるって。俺は、“俺”なんだ』


勇者だから。善で、光であるべき。


俺はそういうことに、ずっと悩んでいたんじゃないのか?


「難しく考えないでほしいな。僕はただ、楽にしてほしいだけ。“勇者”っていう立場に悩んでるのなら、スヴァルトはディアリに勝てない。思いの差が違うから。勇者だからやらないといけない。そう思ってると、負けるよ」


勇者だから。


「僕の話を信じるかは君次第。でもわかったよね?君は君であり、勇者は君。だけど魔王も結局は同じ。僕は、勇者って大したことないと思うんだ。気持ちだとか、そういうのね」


ルーナフェルトが何を言いたいのかは、何となくわかった。


勇者だから必ず光でなければいけない、善として正しいことをしなければいけない。そういう気持ちと、“俺”の気持ち。


このままの俺で、勇者としてあって大丈夫だと言う、慰めになっているのかなっていないのかよくわからないこと。


「でもそれ、今するべきことなのか……?」


「だって、今しないといつするの?」


「知らないけど……」


魔王との再戦に今行く所だった。


決意と準備をして、今。


その直前に、魔王とは元を辿れば繋がっているといきなり言われ。遠い親戚と殺し合いをしているんだよ。と言われているのと一緒。


魔王とは、遠くても親戚だとは思えないけど。


「……転移するわ。ヴァル、大丈夫ね?」


「ああ」


ルーナフェルトの言葉を待たずにセラが転移魔法を使い、魔王城前に戻ってきた。


「頑張ってね。魔王は玉座の間だ」


邪魔せず着いてきたらしいルーナフェルトは、それだけ言うと消えた。何がしたかったのか。俺を揺さぶるのが目的か?


「【全体強化】!【魔法強化】!【効率上昇】!ああもう!全部なのです!全部全部!【自動強化結界】!行けます!」


「破壊完了!行けるわ!」


今は、ルーナフェルトのことを考えている場合じゃない。目の前のことだけ考えないと。


レノを助けて世界を変えるんだ。


「行くぞ!」


「「「「了解!」」」」







◼️◼️







「魔王様!勇者が!勇者が来ました!城門の結界を突破されました!」


もう、来たのか。


「力に自信の無い者は出て行け!魔王様の邪魔になるだけだ!さあ始まるぞ!ここで全てを終わらせる!魔族へ光を!魔王様へ勝利を!」


玉座の間全体へと聞こえるようにグラースが声を張り上げる。


ここに来るまでにも城の中には部下を配置している。まだ少し時間があるはずだ。


「いいか、必ず勝つ。死ぬ気でかかれ!」


死なないことが1番だが。


多くの者が玉座の間から出て行く。残るのは、精鋭の、俺が力を与えているような者たちだけ。


充分だ。


「グラース。あいつは……レノルアムはどうしている」


「部屋の中で……妹と、ただ話しているようです。いかがしますか。連れて来させますか?」


どうするべきか。預かれと言われただけだ。


下手に動かして、あの人の不利になるようなことがあれば魔族へ害を与えるかもしれない。


「いや、いい。そのままなら、放っておけ。お前はいいのか。妹たちに何も言わず」


「何も、言うことはありませんので」


「そうか」


グラースの妹たちはなんというか、個性溢れる者たちだ。アセヒは魔紋を扱うことにとても長けているが、魔王への色々な思いが他の者より飛び抜けて高い。リルア・グラナティス。あいつは能力は高いのに、魔族の裏切り者となった。1番下のあの少女は、よくわからないあの人と行動していた。よくできるな、と思う。


「勇者は魔獣部隊と接触した模様です」


「様子はどうだ」


遠視の魔法を使っていた者が、報告してきた。


「まだかかりそうです。アズラクが上手くやっています」


「そう、か。勇者は俺が相手する。お前らは手を出すなよ。いいな」


前もそうだったから、大丈夫だとは思うが。念のためだ。最中に邪魔をされたら冷めてしまう。






戦いは、始まった。

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