第38話 未来へ、準備を
ここ数日は魔王との再戦に向け、ルト達は準備を始めていた。まるで前の戦いの時のようだ。僕は参加していないけど。
なんてことを思いながら僕は1日のほとんどを部屋でゴロゴロしていた。
することがないし、1番邪魔にならない所が部屋の中だった。調子が良ければ運動のために少し部屋の中を動いて、今日みたいに天気のいい日は大きな窓の前に置いてある1人掛けの椅子に座って本を読む。
食事はこの部屋にみんなで集まり食べている。これは一階からわざわざ持ってくるわけだから申し訳ないと思うけど、一緒に食べた方が片付けも楽、だと言われてしまったら何もできない僕は何も言い返せない。
アズラクの魔法はルトのおかげで消すことができた。だからもう、あんな風に悩むこともない。
フィアには、『一気に元に戻って図々しくなったです。病人ってもっと大人しいはずなのですね……』と言われてしまったけど。
悩んでいても、何か変わるわけじゃないし。こうなってしまったんだから、その状況に慣れるしかない。何もできない、ということは変わらないからね。
「レノーっ!いつもの短剣と、こっちの短剣!どっちがいいと思う?いつものは使い慣れてるけど、この前の戦いでいくつか魔法が壊れてて、こっちはあんまり使ってないけど、使ってないからどこも壊れてない。いつものにまた全部掛け直すのは時間が足りないから、今からこっちの短剣使えるようにしといた方がいいかな?」
ドタドタドタ!と走る音が聞こえたと思えばルトが部屋の中に入ってきた。
こういう風に突然ルトが入ってくるから、部屋の扉は開けっぱなし。閉めておくと開く音と閉まる音で2度うるさい。
「慣れてるのにしておいた方がいいと思う。今回は僕はいないから、セラとフィアの支援も1人分楽になる。だから、よく使うやつだけ直せばいいんじゃないかな。周囲を考えなければ大剣のみでいけるんだから」
「そっか。……レノいないんだもんなぁ。後ろ大丈夫かな。いつも気にしないでやってたから」
いつもは、ルトとリルアが1番に突っ込んでいき、その後ろに僕とクラムが続き、1番後ろでセラとフィアが支援してくれていた。
ルトとリルアがただ突っ込んでいくから、その後ろを守るように僕とクラムで対処していて、最後の魔王との決戦ではルトが魔王と戦っているのを見ながら、周りを僕が倒していた。
だからルトは目の前の敵だけに集中していれば良かった。
周囲に気を配れないとかではなく、長くそんな戦い方をしていたから慣れてしまった、というだけで。
「大丈夫。魔王とは一対一になるだろう?周りはリルアが片付けるだろうし、クラムだっている。僕がいなくても十分戦える」
魔王の方も、何人か仲間が消えているはずだ。この終わった世界の魔力は人族、魔族関係なく作用した。それを僕はこの目で見てきた。
勝ち目は五分五分。でも、必ず勝たなくてはいけない。僕は祈るしかできないけれど。
「……だよな。大丈夫。よしっ!いつもの短剣な!あ、もうすぐ昼飯ってセラが言ってた。またすぐ来るから」
「わかった」
ニッ、と笑うとルトは部屋から出て行った。
これはどうだ、とか少しでも悩むと僕の所にくるのはやめてもらいたい。
しかもルトだけじゃなくて……。
「レノ!杖の魔石に込める魔法でまた話があるなのです!あのですね、やっぱり結界多めにすべきだと思うなのですよ。でもでも、全体攻撃で倒せたら防御いらないなのですね?全部が同じように倒せるとは思わないなのですけど、支援だけでなく援護もしないと厳しい戦いになると思うですし……どうするです?」
他の人もやってくる。
僕は動けないし参加出来ないんだから、僕に聞いてもあんまり意味がなくないか……?
「えっと。大きな魔法はセラがやるって言ってから、1人を相手できるように範囲は小さくて威力の大きいものにした方がいいんじゃないかな。一点集中なら消費魔力も少ないだろう?結界は普通にやると時間がかかるんだから、多く入れて損はないと思う」
「一点集中……ならあれなのですね……。わかったなのです!あ、もうすぐお昼できそうなのですよ。……強化結界と……治癒、は随時だとして……個人にすべきなのですかね……」
ぶつぶつと、込める魔法を呟きながらフィアは部屋を出ていった。
「なんで僕……」
結界系の魔法は苦手だ。なんていうか、あの細かい魔法を制御する、というのは僕には向いてない。結界で守りを固めるより、他の魔法で蹴散らす方が早いし。
出来なくはないけれど、できたらやりたくない。
もちろん、今ではやりたくても出来ないけど。
魔法が使えないということが、こんなに不便だとは思わなかった。日常生活でも使っていたし、本当に慣れない。ルトがやってくれているとはいえ、ちょっとしたことも出来ないからその度に、前との違いを実感させられる。
辛くはない。……とは言えないかな。
出来ていたことが出来なくなるのはだいぶ辛い。仕方がないことだけどね。
「今日もいい匂いです。流石セラだ」
「もう。いつも同じようなこと言うんだから。……でも、ありがと」
今度はセラとクラムだ。お昼を持ってきたらしい。セラが水の入った瓶を2つ持ち、クラムがたくさんの皿をどうやってか持っている。グラグラしていて見ているこっちがハラハラする。
「レノ、お昼にしましょ。今日は行商人が来てたの。冒険者たちと組んで、小さな村から大きな街までできる限りの場所に行ってるんですって。お金があればお金で、なければ物々交換。物の方がいいみたいだから、薬と交換してきたわ。薬はどこでもすぐに売り切れるから歓迎だって。だからたくさんもらえたの。ほら、卵もたくさんなのよ」
部屋の真ん中辺りにある大きな長方形の机に、料理を2人で並べていく。
湯気の立つスープに、サラダ。何かの肉の蒸し料理。たぶん、昨日リルアが狩ったって言っていた魔物の肉。
いい匂いが部屋に広がる。
「みんなを呼んでくるわね。クラムはレノをお願い」
並べ終えると、セラはルト達を呼びにいった。
クラムが机の横の椅子を座りやすいように動かし、こちらを向いて満面の笑みになると、軽く手を叩き始めた。
「ほーらレノ、おいでおいで〜。…………冗談です。そんな残念な人を見る目しないでください」
「実際に残念な人だったからね」
「セラも認めるいい男ですよ!?」
ゆっくりと、足に力を入れて立ち上がる。うん、行ける。
「大丈夫ですか?手、掴んで」
「ありがとう」
クラムが差し出した手を掴み、椅子まで歩く。このくらいなら、なんてことはない。
「おっひるーです!……もしかしてその肉、昨日リルアが狩ってきたやつです……?」
「え……マジ?」
「そうよ。味見したけど、意外と美味しかったわ」
セラが戻ってきた。リルアだけまだ来ていない。
フィアとルトは入ってくるなり、机の上の肉を見て固まった。見た目は普通の肉だけど。何かあるんだろうか。
「嘘だ……」
「で、でもセラが美味しいって言うですし、美味しいはず……なのです。ですね?」
「失礼ね、美味しいわよ。ほら座って。冷めちゃう」
促され、2人は席に着く。
僕の隣にルト、その隣にフィア。反対側は、セラとクラムとリルアが座る。いつもと同じ、席順だ。
「肉がどうかしたの?」
「この魔物、蜘蛛だった」
ルトに聞けば、すぐに理由がわかった。
大きな蜘蛛型の魔物がいる。リルアが狩ってきたのは、そんな魔物だったらしい。細長い脚と、細かい毛のびっしり生えた胴体に、大きな目。まあはっきり言って気持ち悪い見た目の魔物だ。
そんな魔物だと知っていて食べるのは確かに躊躇いがある。
「リルア、来ないわね。……まあいいわ。先に食べましょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます