第32話 2人に、できること

「フィアは、どう思う?レノの状態」


「……良くは、ないなのです。だってあの魔紋、あれですよね?あれの、もっとやばいやつですね?セラは、聞いたです?あの魔紋は、リルアの……」


「ええ……聞いたわ。自身は決して戦わず、他人の体に魔紋を植え付けて戦わせる。あの“人形遣い”は、リルアの姉……。あんな大きな魔紋がついた人形は見たことがないわ。これまでだって、本当に僅かなやつだったもの。ねぇ、気がついていると思う……?」


一階。セラとフィアのみがその部屋にはいた。


大きなソファに、2人で並んで座っている。


「リルアはわかっていると思うですけど、レノ自身と後2人はわからないなのです。あの魔紋と、いつもの魔紋を結びつけるのは難しいなのですからね。あれは、中身を全部壊しにかかってるです。1から作り直すようなやつです。レノがレノのままなのが不思議ですね」


「そうね。耐えているのか……それとも、ルーナフェルトの魔法のおかげなのか。もしそうなら、彼には感謝すべきなのかしら」


既に、スヴァルトとクラム、そしてリルアは出発していた。


レノは3階に、だから2人の会話が2人以外に聞こえることはない。


「いーえ、感謝なんてしたらダメなのですよ。レノの状態は、そうでなくても酷いなのですからね!酷いことに変わりないのに感謝する意味はない!なのです!感謝するなら、リルアの妹さんに、なのですね。あの石はいいものなのです」


2人はよくわかっていた。


治療しているのは2人なのだからそれは当たり前なのだが。


フィアの得意とする魔法は支援魔法。回復はもちろん、強化、防御といったほとんど全ての支援魔法を得意とする。自身も軽い戦闘くらいなら行え、硬い防御魔法を周りに張り巡らせれば、だいぶ時間はかかるものの、ほぼ無傷で戦闘を終わらせることができる。


セラの得意とする魔法は遠距離魔法。遠距離魔法とは言っても、結界や攻撃などといった様々な形の魔法を得意とする。植物の成長を早めることから、複雑な結界、大規模魔法。他人の結界に干渉し壊すことも強化することもできる。近距離での戦闘はだいぶ苦手だが、近くに寄られたら転移魔法で遠くへと移動し、戦う。


どちらも治癒魔法は得意である上に、複雑な魔法を扱うこともできる。


残った3人はというと、また系統が違うためこういったことには向いていない。


「どうにかして、魔法を戻してあげたいわ。……魔法を使えるようになれば、体もだいぶ楽にになるはずだもの」


「体が先か、魔法が先か、なのですね。諦めはしないなのですけど、だいぶきついです。ですね?」


「そう、ね。レノ自身そこまで気にしてないみたいだけど……私だったら嫌だもの。魔法が使えなくなったら、なんて考えたくもない。この魔法が使えることで悪いこともあったけど、いいことだってあったもの」


普通に魔法が使える世界で、それが当たり前の世界で。個人差はあれど、“魔法”という奇跡を起こすことはほとんどの者ができること。その中で魔法が使えなくなる、ということはどういうことなのか。


本人は普通を装っていても、内心では何を思っているのかわからない。


「というより、こんな世界で魔法が使えないというのは致命的なのですね?この悪い魔力の影響はないみたいなのですけど、戦えないなのですし、すぐ死ぬなのですね?……うーん。笑えないなのです」


弱い魔物など、すぐにいなくなった。


より強い魔物に食い尽くされた魔物もいれば、変化した魔力に順応できず、消えていった魔物もいた。そうして残った魔物は、強い魔物ばかり。


町から町へと移動することも困難。


戦えるのなら話は別だが、戦う術を持たない者達はその町から出ることは叶わない。


「できる限りのことをしましょう。私がいれば移動は問題ないし、あの人たちが戻ってくれば、戦闘面も問題ないもの。さ、今日は何を食べたい?3人だから、ちょっと凝ったものでも作りましょうか」







◼️◼️







光と。希望。


輝かしいもの。







◼️◼️







なぜだと嘆いた時もあった。


遠い過去のことだけども。


でもまあ…………もう終わることだ。


終わらせられること。


後、少し。後少しで終わる。全て。



「……さあ行こう。彼とは一度話しておかなければならない」

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