第29話 言葉は、なくても
「私結構好きですよ、ルーナフェルト様のこと」
「あんまり嬉しくないかな」
「酷いですね。せっかくルーナフェルト様が1人にならないように残ってあげたのに」
「人探しは終わったんだから僕に着いてくる必要ないよね?」
「さっきも言ったように、私は人探しをしにきたのであって、姉さんに着いて行くためにきたわけではありません」
「僕に着いて来るためでもなくない……?」
「それはそれです」
ルーナフェルト様は素直じゃない。前々からわかっていたけど、本当に素直じゃない。
今だって、嬉しくはないかもしれないけど嫌だとは思っていない。もちろん好きか嫌いかの下りではなく、私が残ったことについて、だ。
でもルーナフェルト様も私のこと嫌ってはないし、好きか嫌いか聞いたら答えてはくれないと思うけど、好きな方なんじゃないかな。……と願いたい。
「まあとっちでもいいけどさ……邪魔はしないでよ?」
「私がルーナフェルト様の邪魔をしたことがありますか」
ないはず。食べ物以外では。
「……今の所はない、かな」
良かった。なかった。
もちろん私だからあるはずはない。うん。
「でもね。これから先、僕のすることをシュティルは絶対に反対する。シュティルが反対したとしても僕はやめないし、もし本当に邪魔になったら実力行使だ。死ぬよ?シュティル?」
死ぬなんて言っているけれどルーナフェルト様の口元は笑っている。なんてことないみたいに。
ああ、そうだ。ルーナフェルト様は簡単に私を殺せる。だけどそれは最終手段なんだろう。ギリギリを見極めるのが私。ギリギリまでは粘っても大丈夫。
「私が反対することをするというのはどういうことですか。そんなに悪いことをするんですか?私に食べることを禁止するんですか?」
でも、私が反対することなんて美味しいものを食べることを禁止された時くらいだろう。
後は、いきなり大量虐殺を始めるとか。
「それを止めたら逆に僕が怖いからやらないけど……。まあいいよ、君がそうしたいなら止めない。だから僕も君を攻撃するのを躊躇しない。いいね?」
「ということは、今までは何かあったとしても私を攻撃するのは躊躇っていた、ということですか。なるほど。されたことありませんけど。ということは!ルーナフェルト様は少なからず私を思っていてくれていると!解釈していいですよね!」
嬉しい。
自分の口角が上がっているのがわかる。
ルーナフェルト様が私に実力行使したことはまだない。迷惑をかけまくったし、嫌な顔をされたこともたくさんある。
けれどルーナフェルト様は絶対に手は出さなかった。言葉で止められた。その言葉も棘のあるものはごく僅かだった。私が自分でもわかるほどにまずいことをした時だけだ。そんなことはほとんどしていないけど。
「あー……ああそうだよ」
珍しい。ルーナフェルト様がデレた。
さっきまでは余裕の笑みで私に死ぬとか言っていたのに、今では私の目を見ることなく僅かに視線を逸らして変な所を見ている。
「シュティルのことは、嫌いじゃない。まあ何かあれば助けてもいいかな、とは思う」
「もう少し詳しく言ってもらってもいいですか遠回しに言われると私ちょっとわからないです────痛い」
叩かれた。げんこつで、頭のてっぺんをコツンと。
強くはなかった。
「調子に乗らない。僕の邪魔をしなければ、だよ。すれば何の関係もなくなるんだから」
このくらいかな。
私が下手なことをしない限りはルーナフェルト様とこの関係を続けられる。
いつか、本心を言ってくれるようになればいいな。秘密ばかりはずるい。
「本当に悪いことでない限り止めませんよ。私はわかる女ですから」
胸を張って言える。
私はわかる女だ。引き際が。
……そんなに胸を張ることでもないか。胸無いし……。この悲しい気持ちにならないためにはやっぱりもっと食べるしかない。
「ということで、夜ご飯です」
「ということでってどういうこと……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます