第27話 集合し、変化していく

「なんだよ戦ってるし余裕そうだな」


少し離れた場所からスヴァルトは明るい茶髪のクラムが動き回る様子を見ていた。


進む速さが普通に歩いているにしては遅かったため、迎えにきたのだ。スヴァルトが来た時にはすでに戦い始めていた。


「……あれ?片足無い?……え?なんであんなに動けんの?」


よくよくクラムを見れば、右足の膝の下からが無くなっている。だが戦う様は両足があるのと変わらない。片足だけというのを感じさせない動き。


そのことに驚いている内に、戦闘は終わっていた。


「ヴァルじゃないですかぁ〜。まだ魔王城だと思ってましたよ。お久ですねぇ。お元気でした?」


近づいて行けば、スヴァルトに気がついていたクラムがニコニコとしながら手を振ってきた。


「いや元気、だけど……クラムその足……」


「ああ、色々ありまして。駄目になったんで切っちゃいました。不便ですねー、片足無いと」


不便、という割りには口調も、表情も明るい。


「大丈夫、なのか?」


片足が無くなって大丈夫、ということはないだろうが、それしかかける言葉がない。


「あー、大丈夫ですよ。戦えますし。でもセラには怒られますかねぇ。もう泣かせたくないんですけど、大丈夫でしょうか」


「大丈夫じゃないだろ……」


絶対に怒りながら泣くであろうセラを思い浮かべたのか、クラムは困ったような表情をした。


誰にでも飄々とした態度で、本心がわからないようなクラムだが、セラに対してはべつにだった。


「ですよねぇ。……でも私、何も悪いことしてないじゃないですか。それで謝るのもなんか癪に触るというか。どうしたもんですかねー」


「それはそうだけど……。とりあえず、行くか。みんな待ってる」


「お。私以外もうすでにお揃いでしたか?私合流するの遅すぎ?」


「いや……」


言葉が詰まる。


揃っていれば、どれだけ良かったか。


「レノが、まだ。俺を……いや、後で話すよ」


自分のせいで、自分の代わりに。その言葉を口に出すのは、勇気がいる。


「レノが。珍しいですね。あの野蛮女なら来てなくても納得できますが、レノがいないとは。あ、待ってください。あんまり早く歩けないんです」







◼️◼️









「馬鹿っ!なんで、なんでそんな……っ!!」


懐かしい、という思いと申し訳なさ。


いや、申し訳ないって思うのおかしくないかな。泣かせたことは申し訳ないけれども……。


「……すみません。でも生きてますし。足無くなったくらいどうでもない────っい」


痛い。平手打ち。バシンって良い音。


じゃなくて。


「どうでもなくないっ!どこか怪我した、とかなら治せるわ。でも、無くなったらもうどうしようもないじゃない……!」


なんだか、何について怒られているのかわからなくなってきた。足を無くしたことか。


「でも運が悪かった、としか言いようがなくてですね……。足が残っていれば今頃私は、魔族にいいように使われてたとこですよ?生きていればいい方、悪ければ解体されて目だけ取られて家畜のエサになってたかも」


何も言えなくなったのか、セラは私を睨むとポス、と胸の辺りをグーで叩いた。泣き顔で睨んでいるからそこまで怖くない。怖さより本当に、泣かせてしまった、という罪悪感の方が大きい。


「…………生きてて、よかった」


女というのは本当にわからない。わかっているつもりでも、やはりわからない。さっき怒っていたのに、今はもう怒っていない。


女性の扱いは慣れている方だと思っていたけれども、まだまだらしい。


「ええ、セラこそ。生きていてよかったです。心配かけてすみません」


「……足、どうするの」


「まあ動けますから。きちんと戦えるんですよ?生活にも支障はあまりないと思います」


少し動きにくいけれど、それはまあ仕方ない。杖があれば移動はできる。なくてもゆっくりならいけるはずだ。


戦闘面も問題なかった。勢いをつけて少し魔法で補助しながら動けば案外いける。私はヴァルのように力で潰す戦い方ではなく、小さな力で速度を使って戦うからちょうどいい。


「あるわよ……膝は、残ってるから…………。ええ、いけるわ。義足、作りましょう」


セラはそう考えなかったらしい。






◼️◼️







セラとクラムが2人で再会を喜んでいる時。


「うーん。リルアはヴァルがクラムを迎えに行った後にもう行ってしまったですし、あの2人はもう2人の世界に入ってますですし、いつもの感じだとヴァルの相手はレノなのですけど、レノはいないですし。ですね?」


「ですね?じゃなくてさ。お前が変なこと言おうとしてるのはわかってるから言わなくていい。ていうか俺の相手がレノってその言い方だとレノが仕方なく俺の面倒見てたみたいなんだけど……っておい。あっ言っちゃった!みたいな顔すんのやめろ!」


残った2人、フィアとスヴァルトは、仲間内で唯一のカップルを離れた所で眺めていた。


ようやく、元に戻りつつあった。






リルアは、スヴァルトが戻る前に出て行っていた。スヴァルトが戻ってきてから行けば、また着いて行くと言い出すかもしれない。


「あの街まで私の足で、約5時間。……なんで、シュティがあの方と一緒にいるのかしら……。まさか脅されてる、ってわけじゃないですわよね。やはりあなたは信用できませんわ、ルーナフェルト様」








◼️◼️






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

長い時が過ぎ、2人の間には子供が2人、生まれました。この時が彼らにとって幸せの絶頂期だったのでしょう。

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






◼️◼️







「何千年と。ずっと。自分を置いて全て過ぎ去って行く。ああ、本当に、なぜ。苦しい。悲しい。辛い。でもそれももう、終わる。道は定まった。────始めよう。全てを完璧に終わらせるために」

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