第15話 束の間の、休息を

灰色の世界、これでも人々は懸命に生きていた。


しぶとい生き物であるから、すぐにこんな世界でも順応し、笑顔はなくともなんとか生きていた。


食物が魔力にやられ枯れても、結界を張ることで魔力を緩和させ育つようにし。石が魔力にやられ難いとわかると石で家を建て。


たくさんの人が死に、いつも何処かで誰かが泣く声が聞こえる。


他人を思うなどできないし、ちょっとしたことで争いは起きる。だが気がつけば隣に住む者が、昨日言い争った者が居なくなっていたなどということもたくさんあり。


思わずとも消える。思っても消える。


人はどんどん死ぬから、比較的大きめな街跡なら食料が足りないなどということはほとんど起きず、逆に小さな村の方が食料が足りなかった。


変わらず営みを続ける者もいれば、気力を無くし、ただただ何もせず生きる者もいる。


大きな街以外で物を手に入れるには物々交換が主になった。物はほとんど食料。


なぜ、皆大きな街に集まらないのか。


それは移動に危険が伴うから。


何もない灰色が広がる土地を渡るには大量の食料と身を守れる力がいる。途中で食料の確保などできないし、魔力で変化した凶暴な魔物が跋扈する地をわざわざ危険を冒して通ろうなどと考える者はいない。たとえその先に生きやすい場所があるとしても。


魔族の土地でもこれはたいして変わらない。









◼️◼️










新鮮で大きな魚。2匹。


よくわからない魔物。3……匹?


血抜きされただいぶ大きめの鳥。1羽。


そこらへんに生えていたキノコと植物類。たくさん。


「今日は豪勢なのです。ですです。お魚は久しぶりなのですね。フィアは釣りのレベルが2上がった!ですです。でもこのキノコ、食べられますですかね。食べますですけど」


「……うーん、わかりませんわ。この魔物も大丈夫なのかよくわかりませんし。でもお腹に入れば全て同じ、ですわね!さ、丸焼きですわ!」


「ファイヤー!!」


世界に数少なく残った森の中。森の外に魔物がウロウロしているから普通の人なら立ち入ることも、この森を視認することもできない。よっていつもなら静かであるのだが、最近2人の女の声がよく響くようになっていた。


始まりは1人の絶望した少女が安息を求めてやってきたことから。


最初少女は自分を責め、深く絶望していた。


だが、そこに女が現れた。


女は少女の仲間であり、少女を大切に思っていた。女の言葉と行動で少女はほとんど元に戻ることができた。


まだ、わずかに残る自責の念はあるものの、うじうじしていてもどうにかなるわけではない。


「丸焼きなのです!外はパリパリ、中はジューシー!これだけは誰にも負けない気がするです!なのです!」


「炎で包んで焼いてるだけですのに。これはフィアの特技ですわね」


「鳥は煮るですです。そこのキノコと煮るなのですね」


「あ、駄目ですわよ、火だけ起こしてくださいまし。焼けても他は駄目、ですもの。わたくしがやりますわ」


完全に元には戻らない。


だがほぼ、元に戻すことはできる。








────もしそれが、世界だとしたら……?







◼️◼️







キノコも魔物もなかなかの味でしたわ。


毒があったとしても、弱ければ治癒はできますし、強くてもフィアが治してくれるはずですわ。


で、わたくしが最近言おう言おうと思っていたこと。


「フィア。他の人、どうなったか知ってます?わたくし、あの馬鹿が捕まってることしか知らないのですわ。捕まってないことはわかってたのですけど」


手配書を書いていたのはわたくし。


わたくし、人族ではなく魔族ですから、反省した、間違えていた、みたいなことを言っただけで後はだいぶ自由でしたの。


それが本当なら手配書を書け、なんて。


そんなことで本心はどう思っているかなんてわかるわけないではありませんか。長命でも魔族はアホ、ですわね。頭の中身が空っぽですもの。


まあ……いくつかわたくしの魔法をかけたせい、でもあるのですけど。楽でしたけど、暇でしたわ。


「……会ってないからわからないなのです。探すより、目の前の人を助けてたです……。少しでも、何かしたんだ、って思いたかったなのです」


「そう、ですの……。……あの後、フィアはどうやって逃げましたの?」


わたくしは自分から捕まりましたけど。


勇者と一緒に。


あそこで足掻いても勝てないのはわかっていましたし、ならば中からしかないと思ったのですわ。まあそれは半分成功、半分失敗、でしたけど。


「私、あのヴァルの最後の一撃で飛ばされちゃったなのです。こんなちっちゃいですから、簡単に飛んだですです。ポーンて。変なとこにいたのも悪かったですけど、レノが手伸ばしてたのは見えたです。そのまま飛んで、飛んで、落ちたです。飛んでる時に、ちょうどヴァルが倒れたのは見えたなのです。私を追いかけてきたなのですね、レノが受け止めてくれたなのですよ。レノも、ヴァルが倒れたのはわかったみたいで、すぐに行こうとしたですけど、魔王の魔法で行けなかったです。逃げるんだ、ってレノに言われて、私その魔王の魔法がどうしても怖くて、ほんとに逃げたです……。レノは、残ったみたいなのです。来てなかったですから。私、私、わたし、は……逃げ……」


「大丈夫ですわ。レノは、捕まってませんもの。あなたのせいではありません」


最後になるにつれ顔を覆って体を震わせてしまったフィアをわたくしは抱きしめます。こんな小さな体で今までフィアは罪悪感を抱えながらずっと1人でいたのですわね。辛かったでしょうに。


「でも、でも、レノが僕のせいだ、って言ってたです。離れたから、私を助けたから、ってことです。だから、だから……っ!」


「違いますわ。誰かのせいなら、わたくし達全員のせいですわ。勇者の仲間として、戦っていたのはわたくし“達”、なのですから。フィア1人のせいではありませんわ。でしょう?」


わたくしでもフィアと同じような罪悪感はありますわ。だって、魔族を裏切り自分から勇者の仲間になって、多くの人に期待を寄せられて。でも負けて、それだけなら良かったのに世界まで壊して。最悪ですわね。


「私の、せいでも、ある、です。1番いけなかったのは、」


「フィアではないですわ。1番駄目、特に誰のせい、とかはありませんわ。まあ、強いて言うならヴァルですわね。勇者でしょう?なのにレノに頼りすぎなのですわ」


わたくし達のリーダー的存在は、勇者なのにヴァルではなく、レノでしたわね。いつでもレノ、レノ、って。


「私は、どう、すればこの気持ち、捨てられるです……?」


「捨てられませんわ。ただ前を向くだけしかできませんもの。過去のことを考えてこれは自分のせいだ、なんて思っていても仕方ないでしょう?これから先どうするかを考えないと、ですわ。それが唯一、わたくし達の許される道。もしかするとレノ達はもう動き出してるかもしれませんわね」


「なら……」


「ええ、レノ達を探しましょうか」





さ、始めましょう。抗って、争って、どんなにかかろうと這ってでも掴み取る。未来への光を。

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