第11話 ゆっくりと、事を進めて

バンッ、ドンッ。ゴッ。


薄暗い路地に鈍い音が響く。


どこも暗いことに変わりはないが、そこよりもっと暗い場所。


「相手との力量差もわからない馬鹿なのによくこの世界で生き残ることができたな……」


「うが……」


「う”……」


暗めの茶髪に、蒼い瞳。顔付きは柔らかく、体は細め。どちらかというと女性的で、倒れる男達2人を相手できるとは思えないような男。レノだ。


だが、見た目と中身が一致しないというのはこの世界が変化する前からの常識。


地面に倒れるのは、大柄な男が2人。1人は人族で、1人は魔族。


「で?」


2人の近くにしゃがみ、無表情のまま問いかける。


「人族を何故魔族は欲しがる?暮らしがきついのは魔族も変わらないだろう?」


「…………」


「まぁいいや。狙う相手は体つきがしっかりしているか、顔がいい。そして若くて健康。これじゃただの奴隷の条件だね。でもそういうわけじゃないだろう?ならば魔族でもいいはずだ。何故人族ばかりを狙う?」


「……知らねぇよ、金になりゃどうでもいい」


倒れたまま、顔をレノへと少しだけ向けて人族の男が呟く。


「俺たちは商品を持ってくだけだ。その先は知らねぇ」


本当に知らない、という声だった。


「ふーん。そうだと思った」


呆気ない。


2人から何か得ることを目的としていたわけではないのか、レノはそのまま立ち上がる。


「そうだ、最後に聞かせて」


「……?」


「僕って顔いいの?」








◼️◼️








「あんた馬鹿ね」


「開口一番それは酷くないかい?」


「だってそうじゃない、大した情報持っていないってわかっていたでしょう?なのにわざわざ人気の無いとこまで誘導して。そんなに戦いたかったの?まるでリルアね」


「うわあ、そうなる?」


嫌そうな顔。


まあ、リルアと同じだなんて言われるのは嫌よね。あの戦闘狂、自分から突っ込んでいくんだもの。……最後の戦いも、リルアが1番始めに突っ込んで行った。ついて行くので躊躇うとかそういうどころじゃなかったもの。


魔族であるリルアが躊躇いなく……というより笑いながらとても嬉しそうに突っ込んで行ったから。


「それに何?最後の。顔いい?ですって?」


「聞いてたか。だってそうだろう?普通に見たら僕が筋肉質には見えない。大柄でもないし、君に痩せたって言われたばかりだ。ということはそういうことになる」


「そういうことってなによ……」


確かにいい方には入るんじゃないかしら。悪くないもの。普通よりか上ね。でもそれを他人にそういう風に聞くのはどうなのかしら……。


「でもこれも大した情報じゃあない。あー、完全に行き詰まり。こういうのはクラムとかが得意だったからなぁ。せめてフィアがいればもう少しマシだったかも」


こういう情報集めは私達2人共苦手。


集めるとかいうのが出来ないもの。どこでどういう風に聞けばいいとか。全員揃うことで、私達は行動できていた。適材適所、っていうやつね。


「仕方ないわね」


「ん?何かいい案でも?」


「ええ。とりあえず突っ込みましょう。当たって砕けろ、ってやつよ」


「なんだそれ……砕けたら僕達終わりなんだけど」


それもそうね。


でも、他に方法ないじゃない。リルアだって、とりあえず行動したらあとはどうにかなるって言ってたのよ?本当になっていたし。


「でもまあ、その他の方法を僕達は知らないわけだし。ここでずっと考えてるわけにもいかないしね。のんびりしてる時間はない。ということで君の案を実行する。魔王城に突撃するよ?いいね?」


「え?」


え?


いきなり?いきなり行くの?


私達、負けたばかりなのよ?


「戦うわけじゃない。勇者を取り戻すんだ。それだけだよ」


「でも。どこにいるのかもわからないし。それに失敗して捕まったらもうお終いよ?フィアだけでなんて、無理に決まってるじゃない」


「うん、そうだね。でも大丈夫。場所は僕が行けば大体わかるし、君が行く必要はない。わざわざ危険を犯す必要はないんだ」


それはあなたにも言えることよ……。


勇者も、あなたも捕まったらどうするの。


「でも」


「絶対に助ける。もし、僕が捕まっても必ず。希望だから。光だから。代わりに捕まったって、助ける。まあ僕なんて身代わりにもなれないだろうけど、必ず逃すよ。2人共捕まりました、にはならない。……させない」


強い光。


レノをここまで真剣にさせるのは何故なのかしら。あんな、だらしない人なのに。……だらしないのはあの人も同じだけど。私の気持ちと、レノの気持ちは違うと思う。


あなたは、何を思って行動しているの?


「……わかったわ。でも、城の近くまでは行くわよ。警備と、結界を調べないと。あ、これならそれとなく情報集められるんじゃないかしら」


本当に勇者が戻ってくれば、リルア達だって助けられるかもしれないわ。


あの人達は自分でどうにかしてるだろうけど、もっと楽になるはずだもの。


「そうだね。……でもそれはどこで聞けばいいことなのかな?」


…………あ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る