第10話 世界を、知ることで
抗う先に果たして光は存在するのか。
進まねば結果は見えてこない。
これは正しいことなのか、
何もわからないまま、
暗闇を突き進む。
いつかの光を目指して。
「何もしないより、マシだと思わないかい?」
◼️◼️
幼く純真無垢、そして無知。
何も知らず、知ろうともしない。
与えられるものだけを受け取り、他に手を伸ばすことはない。
その、必要もない。
いつからだろう。
外に目を向けるようになったのは。
「キミはもっと、周囲を見るべきだよ」
そんなことを言う者は居なかったから。
ただただ、驚いて。
不思議で。
「何故?他を知る必要が何故ある?」
「キミは……。……そうか」
逆に驚いた顔をされ、それが少し不快で。
ならばコイツはどれだけのことを知っているのだろうと。どれだけ周りを見ているのかと。それが気になって、たくさんの問いかけをした。
「“人族”では、特権階級と民とでは明確に差がある。とても大きな壁のようにね。魔族がそうでなくて良かったと心から思うよ」
「まとめる者達はいるよ?ただ、“人族”のように権力を力として振るう者がいないというだけでこんなにも違うんだ」
「確かに魔族は貧しい。“人族”と比べたら生活の差がありすぎる。……土地的に仕方のないことなんだけど。でも、自由だろ?」
隣に彼がいるのが当たり前になり。
友人だと。いや、それ以上の関係だと。
幼いながらにそう思っていた。
「魔族の中で権力を力として使えるのは、魔王だけ。横暴な魔王なら確かに生活は厳しくなるけど、どの魔王も結局この貧しさをどうにかしたいと思っているのは変わらないから」
「魔王が悪いわけじゃない。魔王には、それだけの“力”がある。権力もそうだけど、その他の力も」
「今代の魔王?……ああ、良い人だと思うよ」
時折見せる、驚きと悲しみ、その他の理解できない感情が混ざったような表情は、今ならば理由がわかるが、その時はわからず、見なかったフリをしていた。
周囲を知った。
周りに目を向けるようになった。
世界が、広がった。
無知であった自分が恥ずかしくなった。
与えられるモノだけで満足してはいけないと。
そう、学んだ。
それでもわからないことはわからない。
「ねぇ……本当にキミは……何も……」
結局、彼に教えられても肝心なことはわからなかった。
「ごめん、これ以上キミとは居られない。……うん、僕ももっとキミと話したかったよ。でも、ごめん。これでお別れだ」
「────さよなら」
忙しくなった。
いつしか彼は居なくなり、人族との戦いが本格化してきた。元々、小競り合い程のものはいくらでも起こっていたのだが、戦争と呼べるものに変化したらしい。
前魔王が、父が死んで。俺は魔族をまとめる者として、魔王となった。
この時すでに幼い、と言える年齢は過ぎていた。だがまだ大人とも言えない。そんな年齢。
「退け。一度痛い目に会わなければわからないらしい」
人を従わせる方法など知らない。
それこそ、学んで来なかった。
俺が何も知らないと思い込んでいるアホな連中が、俺にあれこれと指示をする。どう考えても、コイツらの為にしかならないような指示を。
これが目的だったのか。
何も知らない自分が王になれば、コイツらの思うまま、魔族の地を治めることができる。そういうことだろう。
計算違いがあるとすれば、俺が無知ではなかったこと。
そして何より。
────大きく抉れた地面。凹んだ大地。なぎ倒された木々。細切れになった人族。赤く染まる大地。
魔王としての力を最大限引き出せ、父よりも遥かに圧倒的な力を持つこと、それを振るうことに躊躇いがないこと。
俺は、わからせた。
何もわからないわけではない。
もしお前らがおかしなことを言えば、使えなければ。お前らはあの細切れの人族の仲間入りをするだろうな、と。
宣言通り、使えない者、わけのわからないことを言う者、この状況でさえ自分の利ばかりを考える者。
全てを消した。
ただ、俺は無知ではないというだけで王としての仕事を出来るかは別。
俺1人で出来ることではなかった。
だから腐っていても使え、なおかつ死への恐怖で従う者は残した。
空いた役職には新たな者を入れ。魔王としての力を見せつけたことにより人族との戦争は一時的に沈静化し。
表面上では、落ち着いた。
「結局あの人はどこに行ったんだ……?」
・・・
「あがっ……くっ…………うぁっ……っ、ふっ……ぅ…………」
「もっと!もっとだ!まだまだ足りないぞ!」
「……がっ、ぐ、がぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!」
「このままでは押し負ける!早く、早くもっと!力を!力を寄越せぇ!!」
「────────!────────っ!」
身動きの取れない体。簡単に持ち運びが出来るように、とまるで道具のように狭い箱の中に詰められて、その中でまた鎖でしっかりと拘束されている。
叫びすぎて声はもう出ない。
それでも、搾り取られる力に体は限界を告げ、口を開き出ない声をあげ続ける。
太陽として。光として。
力を与え続けるただの道具として。
……あぁ、あの子に会いたい…………。
ひとつ、不幸があるとすれば。
長命で、丈夫過ぎたことだろうか。
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