第5話 魔王は、悩んで

太陽と月。


例えるなら、それ。


金と、銀。


いるだけで眩しく光り輝き、辺りを暖かく、確かに照らすのが金。


その光に照らされて輝き、夜でも朧げに、だが確かな道標となるのが銀。


どんなに隠れていようと、隠されていようと、光は漏れ出し周りを明るく照らし出す金だが、隠されれば銀は光り輝けない。


雲が太陽を隠そうと昼間は明るいが、雲が月を隠せば夜は明るくならない。これと、同じ。




そういう、関係。




英雄になるはずだったのは金に光り輝く太陽。それに照らされ力を発揮していたのは銀の月。


ただ違っていたのは、隠す雲がただの雲ではなく、分厚く、風に攫われることなく、ずっと太陽を隠し続けるものだったということ。



太陽がなければ月は輝けない。


だが太陽はどんなに分厚い雲の向こうからでもどこからか隙間を見つけ光を届ける。


互いが近づけば近づくほど、強く、強く光る。



「必ず、また、あの光を。雲に隠されていてもわかる、あの光を」



───絶対に、救い出す。



◼️◼️





どう足掻いても無駄だと言ったのに。


馬鹿らしく足掻き招いた結果がこれだ。



壊れた世界。


狂った世界。


荒れた世界。



さすがに、ここまで壊れるのは計算違いだった。光溢れ笑顔が絶えず、というのは違うが、完全に全て壊れ無くなるとは思わなかった。


やりすぎとは思わないが。


何十年、何百年後になるかわからないが、いずれ同じようになったはず。知性ある生き物が存在すれば、ゆっくりとその世界は壊れていく。


それが早まっただけのこと。


この世界が元に戻ることはないだろう。


緑も、光も、笑顔も。


全て無くなり、ゆっくりとした衰退を辿るのみ。その衰退の先になにがあるのかはわからないが、それが楽園でないことは確かだ。



自分だって、世界が壊れる事は望んでいない。


いくら魔王と呼ばれようと、実際にその地位に就き、それに見合った力を使っていようと、世界が滅びるのを良しとはしない。


統治者が、王が。


自分の治める所が滅びるのを良いと思うはずがない。



元の世界も中々住みやすい環境ではあっただろう。そこに、生きていることができた者達にとっては。


寒さに凍えることもない。


飢饉で飢えることもない。


人族はそんな暮らしをしていた。


だが、我が魔族は?


濃い魔力に覆われ、きちんと陽の光が届く事は無く。それにより大地は荒れ、食物はほとんど育たない。


それを、変えたかっただけ。ただ少し、暖かさが欲しかった。



魔族と人族の間には、途轍もなく大きな壁が存在する。魔族からすると人族は光ある場所に住む羨ましい存在。人族からすると魔族は闇に住む恐ろしい存在。


人族は極く一部を除き、濃い魔力の中生きていることはできない。大体の人族がその体に保有する魔力量が少ないからだ。


それに比べ魔族は1人あたりの魔力保有量が多い。その為濃い魔力の中でも生きて行ける。



共存は不可能。


だから、奪うしかなかった。


魔王と勇者が戦った理由はそれ。


そして戦いは魔王が勝利し、終わりを告げた。


だがその結果が、この荒廃した世界。



こんな世界、前と変わらないではないか。




───自分が……俺が、望んだのはこんなものだったのか?

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