漂乳〈前編〉
方位乳針が白い海の底へと飲み込まれてから三日後。乳同を乗せた乳舟は、かんかん照りの海上を漂い続けていた。
王子、ロブリナ、ルブミンは乳舟の上に寝転がり、フェリンとゼインだけが乳舟を漕いでいる。しかし、漕いでも漕いでも次の乳島が現れることはなかった。
昼間にはπ陽の位置を、夜には北斗乳星の位置を参考にしながらミナラルを目指して進んでいたのだが、それは目隠しをしながら乳猫の小さな乳首を探すようなものだった。
フェリンは手元の乳地図と睨めっこしていたが、
ただ乳波に運ばれるがままに漂乳しているのだろう。さらに悪いことに、流れはだんだんと早くなっているような気もする。このままでは流されるばかりで、皆の乳が乾き死にしてしまう。なんとかしなければ。
そう思いながら周囲を見渡し、島の影を見つけようとするのだが、ただただ一面の白い海が広がっているばかり。
一定間隔おきにグゥゥと腹の音が鳴っていたが、そのうちの半分はバスティ王子のものだった。せっかく適乳にまで育っていた乳房は、出発前の微乳に近い大きさにまで萎んでしまっていた。
「あぁ……乳が呑みたいのぉ……」
「またですかぁ、王子ぃ」
「乳が飲みたい、乳が呑みたい、乳が飲みたい、乳が呑みたい――」
「吐いても喚いても、乳は降って来ませぬよぉ」
ロブリナの自慢の豊乳も、今では適乳にも満たない大きさにまで萎んでしまった。
無理もない。乳同はこの三日間、一滴たりとも乳を飲んでいなかったのだ。
「元はと言えば、王子が悪いのでございまするぅ。王子が暴れて、方位乳針を落としさえしなければ――」
「それはわちのせいではなかろう。元々はそちがわちに突っかかってこなければ――」
「それは王子がわたちのポロリンを丸飲みしたからでございますぅ」
「うるさい、このつるぺた真っ平らの、断崖絶壁の乳出さず」
「また言った。二度も言った。ぺちゃぱい王子」
「ミナラルに置いてゆくのはおぬちじゃ。貧乳足らずの水平線」
「それは清々いたしまする。どうぞご勝乳に。乳王失格のバスティ乳児」
王子とロブリナの不乳な乳掛け論も、三日目になるとフェリンでさえ止めなかった。
そんな二谷の隣で、ルブミンは乳を上に向けながら釣り竿を握っていた。竿の先には細長い乳糸が結びつけられ、水面には手のひら大のパイの実が乳首を下にして浮かんでいた。
そしてそのパイの実が今、ピクンと沈んだではないか。
「おおっと! かかったかぁ!?」
ルブミンは竿を一気に引き上げる。パイの実の乳首には、美乳大の
「おっぱっぱ! チチを掴んだぞ――っと、王子??」
だが釣り上げたのも束の間、その乳魚の腹下に並ぶ両の乳首に王子が食い付いた。
渾乳の力で乳首を吸い上げると、そこから漏れてきたのは青臭くて苦い乳汁。たちまち王子の口の端から灰色の乳滴が垂れていく。
「おえぇ……とても飲めたものではない」
「乳魚の乳は沸かしてからでないと飲めぬというのに。もったいないことを」
「おっぱっぱ! 良い乳味でございますぅ。乳神様からのバチチが当たったのでしょう。おっぱっぱっぱ!!」
ロブリナが萎んだ乳を揺らしていると、その後ろでフェリンの谷間が深くなった。
「にゅにゅにゅ……あそこに乳房が浮かんでおりまする」
フェリンが乳差した先には、たしかに二つの乳房が浮かんでいた。大きさや形は乳源のものと同じくらいだったが、色はやや青白く、光沢があった。
「どれどれ、ほぉ、真乳じゃ」
「あの乳房、吸えるのでしょうかぁ?」
「不乳然ですね……ゼイン、あれは?」
「今すぐここを離れましょう!! さぁ、早く漕いで!!」
ゼインの乳気迫る胸の躍動に、王子も含めた全員が乳櫂を握った。
乳同は残りわずかな力を振り搾り、一斉に乳舟を逆走させてゆく。
「なにごとじゃ!?」
「乳房が……乳房が追ってきおるぞ!!」
ルブミンの声に王子が振り返ると、その言葉通りの事態が起こっていた。
海の上に浮いていた無数の乳房が、この乳舟を目がけて一列になり、乳を欲する赤子が這うような速さで泳いで来ていたのだ。
「なんじゃ、あれは!!?」
「《スウノ・ジョウズ》……通称、乳吸い鮫でございます。一度でいいからお迎えおたたつ乳首に吸い付かれようものなら、乳が干からびるまで離してはくださらぬでしょう!」
「吸える乳などありませぬぅ!」
「一匹だけではない!! 三匹……いや、四匹はいるぞ!!」
乳舟は乳蠅が止まりそうな速さから、飛んでいる乳蠅を追い越しそうな速さまで加速した。
にもかかわらず、水面を滑るかのようにして乳房たちは徐々に近付いてきている。
そしてとうとう乳舟の横乳が揺れ、水面に胸暴な唇がつついてくるのが見えた。乳吸い鮫は乳舟を転覆させようと、何度も何度も吸い付いてきた。
「もっと速く漕げんのか!!」
「王子こそ、乳一杯漕いでくださいませ!!」
舟の横乳に、乳吸い鮫の唇が吸いついて左右に揺れる。ゼインがそれらの背中の乳房に乳櫂を当てるも、ボヨンボヨンと跳ね返されるばかりだった。
乳吸い鮫は乳面を飛び跳ねながら、どの乳房が美味しい乳を出すのかを乳踏みした。
そして乳吸い鮫たちは、最後乳に座るゼインの乳房に狙いを定めると、彼乳の頭上を飛び越えるようにして水面から飛び跳ねた。
「狙われております、ゼイン!!」
「乳意!!」
フェリンの声にゼインは胸色一つ変えず、一胸懸乳に乳櫂を漕ぎ続けた。乳吸い鮫が現れたときに現れる、もう一つの胸威が頭によぎっていたからだ。
「真乳に恐ろしいのは、乳吸い鮫ではございませぬ! もっと巨大な……神乳が!!」
「いま、何と――にゅにゅにゅにゅ!?」
ゼインはフェリンに聞き返すと同時に、上から吸い上げられるような大きな浮乳感を覚えた。
「「にゅにゅにゅにゅにゅにゅううう!!」」
大乳波で水面が盛り上がると、乳舟が何度も何度も回転しながら浮き上がった。乳同は乳房を回しながら、互いの乳房を必乳で掴み合った。
「「にゅううううううううううううう!!」」
白濁した海乳の奥から、真っ黒で巨大な何かが現れた。
乳海から二本の間乳泉が吹き出し、周囲に雨が降った。
いつしか乳吸い鮫の群れは乳舟の周りから消えており、何匹かはさらに大きな何者かの巨大な口の中へと、大量の海乳とともにバグンッと吸い込まれていった。
その口が閉じた衝撃が乳飛沫の雨となり、乳舟の上に降りかかる。
バザンガス島が海の底から現れたのかと思うほどの超壮大乳房が、海面上に浮かび上がってきた。
「なっ、なっ、なんじゃ? あれは?」
王子の問いかけに、ゼインが答える。
「あれこそ天下最大の乳を持つ海洋哺乳生物、《ホエイル》でございます」
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