授乳の儀〈前編〉

 草地の上に建てられた、豊満な屋根が特徴的な乳楽堂にゅうがくどうがある。その前の広場には、乳演舞にゅえんぶでの大乳回りを一胸観ようと、大勢の乳民が胸を寄せ合っていた。


 乳敷ちちしきの上に座りながら、獣乳の入った乳杯を片手に、呑み込むような目で見つめる先には、舞台に立つ二谷の乳役者。


 一谷は、真球を真っ二つに割ったような乳房の美乳役者。

 もう一谷は、胴体を覆い尽くさんばかりに乳房を垂らした巨乳役者だ。


「コノパイガ メニ ハイラァニュカ!」

「ヤメヨ! ヤメヨ! タレチチヲ ムケルノヲヤメヨ!」


 これは『古乳記』で描かれている乳名な乳争で、中の国の乳士オオチチノチチが、東の国の乳士ビチチノチチと、互いに乳争いしている場面だ。


 乳史上初めての乳争と言われている《デカシュの争い》は、最終局面において、乳将ちちしょう同士の一乳いっち打ちをしたと伝えられている。


 バスティ王子は乳演舞が行われている間、ずっとチムの横乳を盗み見ていた。

 その適乳は他の四天乳の乳房と比べると小振りだが、手放すには真乳に惜しい。あの乳房ほど、背もたれにするのにちょうど良い乳房など無いというのに。


「それではこれより、授乳の儀を行う」


 乳演舞の役者が脇へ引くと、舞台中央に歩いてきたカルボ王国の乳臣が、胸を張って言った。


「乳渡りの行者は舞台へ」


 バスティ王子と乳守、チムを除いた四天乳は、首から下げるように言われた巨大なる乳飾りを揺らしながら、乳舞台へと上っていった。向かって左乳にオリゴ乳王、右乳にラクトースの乳君が座っている。


「まず始めに《乳君搾乳》」

 乳臣の乳示により、ラクトースの君は乳衣、乳袋と捲っていき、右の乳房を露わにした。

 その乳房は真球のように丸みを帯びて張りがあり、乳果の形を思い起こさせるような美乳であった。


「さすがはビチチノチチの乳脈……」


 その美乳を間近で目にした王子は、思わず胸の内を漏らした。


「これより《清乳授与》を行う。プロティーン王国からの乳使、乳守と三天乳は前へ」


 四谷は、零れんばかりに王乳が注がれた乳盃を受け取った。

 そしてそれを掲げながら一礼すると、乳汁の一滴一滴を味わうかのように、ゆっくりと呑み下していった。


「真乳に美味なおんぱいπなり。片乳無き乳合わせ」


 乳同を代表してフェリンが感射を述べ、四谷で一礼し、乳盃を乳臣の手へと返した。


 バスティ王子は唾を飲み込むと、次が自分の番であることを察して、胸を踊らせた。オリゴ乳王の乳汁は、乳果や練乳をも上回るほどの甘さだと聞いている。それ以上の甘さとなると、とんと想像もつかない。


 乳王の間にも漂っていた甘美なる芳香が、辺り一面に広がっていた。


「続いて《王乳授与》。プロティーン王国第八十一代乳王子、バスティ・プロティーンは前へ」

「ぱい!」


 一刻も早く乳が呑みたいと馳せ参じた王子の様子に、オリゴ乳王は谷間をほころばせた。


「バスティ王子は大乳呑みと聞いたのだが、それは真乳か?」

「ぱい! 真乳でございまする!!」


 あまりの勢いの良さに、パツンパツンと乳民たちの明るい胸音が弾けた。


「良かろう。では、左に乳を向けよ」


 王子は言われるがままに左に向いた。すると乳座に座っていた乳王が立ち上がり、王子の全身をすくい上げるようにして持ち上げ、その膝元に載せながら乳座に腰を落とした。


 乳王の左手に背中を優しく受け止められ、王子は冬場の乳房のように固まってしまった。


「口を大きく開けよ」


 乳衣と乳袋が捲られると、左の巨大な乳果が王子の眼前へと迫った。


 その赤く尖った美しい乳輪に見蕩れていると、乳首に乳王の指が添えられ、白い乳汁が王子の顔へと噴射された。


 それは白い乳滝かと思わんばかりの勢いだった。あまりの出の良さに、味も喉越しも分かったものではなかった。


 王子の口からは呑み下せないほどの乳汁が溢れだし、その顔から胸元まで乳まみれになってしまった。


「呑めよぉ! 浴びよぉ! 清めよぉ!」


 オリゴ乳王は右乳からも乳汁を噴射させ、バスティ王子の乳房を慌てふためかせた。どの行者も授乳の儀では思うように乳汁を呑めない。その溺れっぷりを見るのが、オリゴ王国の歴代乳王の楽しみとなっていた。


「なんのぉぉ!!」


 ところがバスティ王子は何を思ったか、その暴れ美巨乳を両手で押さえつけると、その二つの巨大乳輪を一口に収めたではないか。


 その喉は押し寄せる乳滝を受け止め、その唇は巨大乳首に吸い付いて離れようとはしなかった。


 王子は襲い来る乳の洪水を、全身全乳で呑み下していった。

 ゴキュゥン、ゴキュゥンという乳低音が、広場を覆い尽くしていく。


「これはこれは……」「なんとまぁ……」「おそろしやぁ……」


 驚く乳王と乳君、怯える乳臣や乳官、どよめく乳民たち。

 王子には胸を弛ませながら、その王乳を味わった。

 その甘さは、舌を痺れさせるほどのものだったが、ただ甘いだけのものではない。ほど良い酸味と、ねっとりとしたコクが、その鋭い甘みを優しく包み込んでいる。そして喉を鳴らす度に、乳王の飲んできたであろう様々な乳果の香りが、互いに絡み合いながら鼻孔を抜けていった。


 これほど上品な乳汁を、王子は呑んだことがなかった。そのひと呑み、ひと呑みに感動しているうちに、自然と目から乳が漏れていった。


 そして次第にオリゴ乳王の両の乳房は萎んでいくと、終いには滴を漏らすのみとなった。


 王子の足下には零れた乳汁が多少の染みを作っていたが、逆に言えばそのほとんどは腹の中に収めたということになる。


 その乳量、なんと約乳盃百杯分、すなわち一般的な乳源が一回の飲事に呑む乳量の百倍ほどである。


 オリゴ乳王の美巨乳があったところには見る影もない垂れ乳がぶら下がっていたが、それに対してバスティ王子の乳房は、今にも爆ぜんばかりに丸々と盛り上がっていた。


「これほどの大乳呑みは、わっちも見たことがない。いやはや恐れ入った。おっぱれ!」


 広場中の乳民たちがペチンペチンと賛辞の拍乳を送る中、王子はオリゴ乳王の膝元から立ち上がると、彼乳らに向けて言った。


「これ以上に望むべくもないほど甘く、美味ちい乳じゃった! だが、まだまだわちは呑めるぞ? さぁ、乳の出る者は、乳舞台の上に参れぃ!!」


 袖で口元を拭った王子に、乳民らは思わず胸を震わせ、乳衣で谷間を隠した。


 バスティ王子の吸いっぷりは底が知れない。この国から早く出て行ってもらおう。でなければ、国中の乳が彼乳一谷に呑み干されてしまうに違いない。皆の乳がそう思った。

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