授乳の儀〈後編〉

 授乳の儀を終えると、乳同はビフィの家へと招かれた。

 国に帰る助けをしてくれたお礼がしたいとの申乳出もうちでを、王子が受け入れたのだ。

 飲台の上には、ビフィと彼乳の乳親が作ったという乳鍋、《養乳留斗ようにゅると》、練乳のかかった乳果まで、カルボならではの御乳走が並んでいた。


「この練乳とやらは美味ちぃのぉ」


 王子は乳皿にこびり付いた粘度の高い乳を、舌でこそぎ取るかのようにして舐め取った。


「先ほどあれだけ御πをお呑みになったというのに、まだお飲みになられるとは……また明日には《乳舐祭ちちなめまつり》が控えておりますゆえ、このあたりで……」


 ビフィは及び乳で王子に提案した。


「なんじゃ? もう乳は尽きたのか?」

「いえ、そうではございませぬ……いやしかし、その小さなお乳のどこに乳汁をしまわれているのか、不乳議ふちぎでならんのです」


 授乳の儀の直後、王子の乳房は美乳と呼んでも差し支えないほどに膨らんでいたが、またすぐに元に近い大きさへと戻っていた。


「カルボにいらっしゃってから、少し胸が膨らんだのでは?」


 チムの問いかけに、ゼインが後ろから王子の乳房を揉んでみた。

 それでもプロティーンを出たときと比べて乳房は張ってきており、微かに谷間のようなものも出来つつあった。


「たしかに触り心地も良くなっておりまする」

「『貧乳に大きく、美乳に小さし。これすなわち楽乳』といったところか」

「これからどんどん育ててみせるからのぉ。さぁ、獣乳をじゃんじゃん持ってまいれ!!」


 ビフィは大乳飲みなプロティーンの行者に、乳所と飲卓を行ったり来たりの大慌て。

 そして、王子が片っ端から乳製品を飲み尽くす頃には、ロブリナとルブミンの乳房は真っ赤に膨れ、その乳衣から滴らせるほどの乳汁を漏らしていた。


「この乳を飲むと乳の出が良くなるのぉ。それに気分も良ぉなってきたぞぉ」

「チチカリ族に飲ませてもらった乳と似ておるわ。おっぱっぱっぱ!」


「あの乳酒を作ってみたのじゃ。やちらから教わったでな。王子もお飲みくだされ」

「わちはその乳が好かん。飲んだあとに気分が悪くなるのじゃ。ああもう、顔に乳をかけるでない! もったいなかろうが!!」


「いくらでも出ますので、ご安乳くだされぇ!!」

「今夜は祝い乳じゃあ!!」


 ロブリナとルブミンは飲卓の上に突っ伏し、瞬く間に寝息を立て始めた。


「騒いだかと思えば、すぐ寝おったわ……」

「この乳酒には、入眠作用があるようです」

「わちちは全く眠くなりませぬ」

「個乳差があるのでしょう」


 二谷が乳持ちよさそうに寝入っているのを見て、王子は両乳をたたいた。


「そうじゃ! その乳があったわ!! この乳酒とやらを乳衛兵らに飲ませて、眠らせてしまおうではないか。もし門の周りに乳民がいたなら、そやちらにも飲ませるのじゃ。巨乳門が閉じられておっても、やちらが眠ってしまえば、わちらで開けることもできる。どれ、乳案であろう!」


「そのお考えには賛乳いたしかねまする」


 両乳を左右に反らしたのは、乳守フェリンであった。


「なにゆえじゃ?」


「プロティーン王国の乳誉にゅうよが萎んでしまいまするゆえ。たとえ、わたちちらがカルボの乳衛兵から逃げきれたとて、わたちちらの子らが罪を吸うことになりまする。これより先、カルボの乳王から乳を恵んでもらえなくなってもよろしいのですか?」


「それは……その頃には忘れておるじゃろうから……」


「王子はプロティーン王国の次期乳王と成る者。そして乳民を潤し、王子を孕み、その永遠の繁乳を願う者でなければなりませぬ。どうか、そのことをお忘れなきように」

「ええぃ! うるさいのぉ!! ちまちま、ちまちまと!!」


 せっかくの乳案を却下された王子は、乳酒の乳瓶を持って飲卓を立ち上がり、どこかへと歩いていってしまった。


「まったく、いつまで経っても目の前の乳を呑むことしか興味を示されぬ。しばらく断乳する他ないのでしょうか」

「わちちは嬉しゅうございまする」


 チムは乳首を勃たせながら言った。


「王子がわちちの乳と離れ難いように、わちちも王子と離れ難い想いにございまする。まるで二つの乳房が引き裂かれるよう」

「しかし、甘やかすだけでは、王子はいつまで経っても乳離れ出来ませぬ」


「そこで、わちちに乳案があるのですが……」



 ところ変わって、ビフィ家の乳所ちちどころ。彼乳が乳親と共に乳房を上下させながら、乳製品を仕込んでいるところに、バスティ王子が現れた。


「わちに乳案がある!」

「これは王子、こんなところまでいらっしゃらずとも、飲宅までお運びいたしますゆえ――」

「この乳酒には、乳の出を良くする働きがあるのじゃろう?」


「ぱい、そのようで」

「で、おぬちはカルボ王国の、益々の繁乳を願っておる」

「ぱい、その通りにございまする」

「そこでじゃ」


 王子はビフィの眼前へと、育ちつつある清乳の谷間を近付けた。


「明日の乳舐祭で、この乳酒を乳民らに振る舞おうではないか。すると、乳酒の味や働きに喜んだ多くの乳民らが、『わっちの乳と交換してくだされぇ!』『わっちの乳と交換してくだされぇ!』と、おぬちの乳酒を求めにやってくるであろう。終いには数年もしないうちに、おぬちは大乳持ちじゃ」


「なんという乳案!」


「どれ、ここには何谷分の乳酒がある?」

「おぬちらが飲んでしまったゆえ、今まさに作っておるところよ」

「では、わちも手伝うとしよう。何をすれば良い?」

「この乳べらで、乳鍋を底からかき混ぜてくださいませ」


「ぱい、分かった。ありったけの乳酒を仕込んで、カルボの民を一谷残らず眠らせてくれるわ!」

「今、何とおっしゃいました?」

「気にするでないぞ! おっぱっぱっぱっぱっぱ!!」


 王子はその夜、一睡もせずに乳酒をかき混ぜ続けたのであった。

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