直呑み〈後編〉

 そこには、超巨大美乳の左右の乳首に、代わる代わる吸い付いてゆく使者たちの姿があった。


「あの頃と同じ味、全く変わっておりませぬ!」

「そうか、それは良かった。こうして生きて再会するとは思わなんだ。たぁんと呑め」


「恐れながら、わたくちにも――」「わたくちにだって――」

「慌てるでない。そちらにも恵んでやるわ」


「嬉しゅうございまする!」

「有り難き乳合ちあわせ!!」


 彼乳らの感嘆の声を聞きながら、王子は胸を掻きむしった。


 なにゆえ乳上は、彼乳らに乳を分け与えるのだろう。しかも乳器を介した間呑みではなく、直呑みをさせるとは。実の子である自分のことを差し置いて、なにゆえ――


「これ、そこで盗み聞きをする者。そちも呑むか?」


 しばらくして乳王にからかわれたと気付いた王子は、胸元を赤らめ、戸を開け放つと、胸いっぱいに息を吸い込んだ。


「乳上のつるぺた! まな板! ぺったんこ!!」


 そう叫んで駆けだした王子を見て、乳王ら一同は乳房を上下に踊らせた。


「まぁまぁ、元気がよろしいこと」

「わちに似て、大の巨乳好きなんだ」


「あらあら、親子そっくりではございませぬか」

「王家は安泰でございましょう」


 そう話しながら乳をたたいて笑いあう彼乳らの声を遠くに聞きながら、王子は怒り乳頭にゅうとうであった。


「許せぬ! 許せぬ! 許せぬ! もう乳渡りの旅になど出るものか! 乳上の、ぺちゃたれ、つるぺた、すっとん、つるりん!!」


 こんな冷たい乳を出す王が治める国など、老乳のように萎むがいい。


 王子は部屋に戻って乳布団に入ると、再び乳守の谷間に顔を埋めた。

 フェリンは目を瞑ったまま、その弾力のある若乳で、王子を優しく抱き寄せた。



  ω ω ω



 王子は朝飲の乳粥ちちがゆを匙で掻き回しながら、黒ずんだ目元を擦り、あくびをした。

 昨夜の出来事のせいで、あれから一睡も出来なかったのだ。


 隣の席にいた乳守のフェリンが、王子の胸色を窺っていた。


「どうかなさいましたか?」

「そちがわちに覆い被さってくれたおかげで、寝不足なのじゃ」


「無礼をお許しくださいませ。わたちちも、王子を乳獣にゅうじゅうから守る夢を見ておりましたゆえ」


 飲卓には、王子と乳守の他に四谷の乳従にゅとこたちが囲んでいた。


「今朝の乳粥は、少ないですねぇ」

「左様でございます。これでは乳も漲りませぬ!」

「お替わり!」

「それで終いらしい」

「そんなぁ、これしきでは足りぬぅ」


 彼乳たちは王子を護衛する四天乳である。

 輪を右回りに、リゾ・チム、カ・ゼイン、ラクト・グ・ロブリナ、ラクト・ア・ルブミンが座っている。


 ロブリナとルブミンはフェリンの従乳にゅとこでラクト家の乳筋ちちすじであり、チムとゼインもまた有乳乳臣ゆうにゅうにゅうしんの倅だ。


 四谷ともプロティーン王国を代表する名乳で、その大きさも柔らかさも絶品と噂されている。


「成乳の儀にて我々は、乳王様の御尊乳を賜ることになっております。喉を乾かせて待ちましょう」


 フェリンの言葉を受けて、彼乳らの胸の内を悟った王子は乳招ちまねきし、不満そうな乳房の四天乳してんにゅうを集めた。


「わちに良い考えがある」

「ほぅほぅ」「それは良きお考え」「乳意!」「……」


 王子の耳打ちに胸を上気させている四天乳を見て、フェリンが輪の中に割って入ってきた。


「王子、まさかとは思いますが、何か良からぬことをお考えではありますまいな?」

「なにも」

 王子の微乳がプイッと横を向いた。


「まもなく儀礼の準備も始まりますゆえ、決して乳宮にゅうぐうの外にはお出になりませぬよう――」

「わかっておる!」


「そちらも、邪乳じゃにゅうを漏らすでないぞ?」

「まさか!」「乳意!」「……」


 彼乳らは、その場ではフェリンに従った風を装いつつも、しばらくの後には乳宮の廊下を小走りに駆けていた。


 乳門を出ると、緑の乳原にゅはら。点々と建っている乳房状の家々には、それぞれ数匹の乳獣が繋がれている。


 列をなして道沿いを走りながら吸い込まれるようにして入った店は、一軒の飲事処――《富多汁ふぅたぁじゅ》である。


 乳簾にゅれんをくぐると、店主のポロリが乳を組んで待っていた。

 袖無しの白い乳着に筋乳質きんちちしつな胸元と乳首を浮き勃たせ、金色に輝く立派な鼻輪をした大乳者だ。


「なんでぃ、なんでぃ。今日もやってきたか、乳狂いどもめ!」


 その乱房らんぼう乳言ちちいいとは裏胸うらむねに、乳瓶ちちがめに並々と注いだ獣乳じゅうにゅうを、彼乳らの前へと置いていった。


 腰に手を当て、バスティ王子と四天乳らがそれらを手に取り、一気に飲み干していく。


「かぁーっ!! 美味いっ!!」

「やはり、この国の獣乳に優るものはないのぉ」

「お替わり!」

「おぬちは飲みすぎだ。今に腹を下すぞ」

「それでも構わぬぅ……おやっさん、次は甘乳を」


「フェリンに叱られても知らねぇからな!」


 ドンッと飲卓に置かれた飲み物は、白濁した汁の中に、赤いタレが混ぜられたものだった。


 甘い乳果汁にゅうかじゅうを煮詰めて凝縮した秘伝のタレを、搾りたての獣乳で割った飲料を、プロティーンでは《甘乳あまちち》と呼んでいる。乳汁本来の柔和な甘味と、乳果の刺激的な甘味が揉み合い寄せ合う甘乳は、この国に訪れた旅乳たびちちらによって滲んでいくこととなる。


 王子らが甘乳を飲んではお替わりを繰り返していくうちに、飲卓の上は空になった獣乳瓶で埋め尽くされ、店主は鼻息を荒くさせた。


「ボインちゃん! バインちゃん!」


「はぁいぃ……あらあら」

「にゅふふ。バスティ王子ではありませにゅかぁ」


 丸々と実った四つの豊乳に、王子たちの目は乳付けになる。


「おぉ……これは……」

「柔らかそうじゃのぉ……」


 脇の開いた乳袋から零れ落ちそうなくらいに、たゆんたゆんと揺れる乳房の群れ。大きさといい、柔らかさといい、曲線の優美さといい、申し分のない乳房だった。


「バスティ王子がおられなくなるなんて、乳が張り裂けそうでござりまする」

「危険な旅など、お止めになって。あたちたちと一緒に楽しいことをしましょう?」


 王子は胸元を緩ませながら、顔の左右を彼乳らの乳によって挟まれた。

 この感触は夢ではない。確かな温もりと柔らかさが感じられた。


「よし、乳渡りは延期にしよう! わちは決めたぞ!!」

「そういたしましょう」「そういたしましょう」


 喜び弾む左右の乳房に加え、正面からも負けじと美巨乳が迫り、王子の視界が乳房で覆われた。


 そこで、はてと乳首を傾げた。この弾力には揉み覚えがあり、大きさにも見覚えがあり、艶めきや匂いにも嗅ぎ覚えがあった。


「それはそれは、残乳ざんにゅうでございまする」


 その聞き覚えのある声に、王子の貧なる乳房は慌てふためいた。


「フェリン!!」「はわわ……」

 その冷めた胸元を見て、ロブリナとチムの乳房もプルルルンと震えた。


「早すぎる……なぜここにいると……?」

「この中に一谷だけいた、胸元を預けられる者が撒いた乳跡ちちあとを辿ったのでございます」


 王子は乳同ちちどうを見渡し、一対だけ乳首を逸らせた乳房を見つけた。


「おのれゼイン、そちも同罪であろうに」

「はて、何のことでしょう?」


 フェリンは王子の首すじに、その美巨乳を押し当てながら言った。

「これより成乳の儀を行う! 乳渡りに向かう心乳こころちちのある者のみ、ついて参れ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る