直呑み〈前編〉

 バスティ王子は乳王ちちおうの間にて、双玉座そうぎょくざに腰かけていた。

 背は倍ほどにも伸びたが、まだ胸は平らなままだった。


「乳王様、わたちちの乳をお呑みくださいませ」

「いえ、お呑みいただくのは、わたちちの乳でございまする」


 王子は右の頬に柔らかな弾力を感じ、次に左の頬に感じた。

 顔の両側を、たわわに実った乳房で挟まれている。


「わたちちのを――」「わたちちのを――」「わたちちのを――」


 視界いっぱいに、はちきれんばかりの巨乳が揺れていた。それらの乳首からは、白の飛沫が噴き出している。


 彼乳たちは、国の乳臣にゅうしんたちだ。どうやら自分は乳渡りの旅から帰ってきて、ついに乳王になったらしい。


 顔面が乳汁まみれになりながらも、沸々と煮えたぎる不満に、思わず彼乳らを払いのけた。


「ええぃ、そちらの水っぽい乳など呑みとうないわ! もっと濃い乳を持ってまいれ!」


 乳房たちが、困惑するように震えた。乳首たちはお互いを見やり、どの乳房が最も濃い乳を出す乳力者ちちりょくしゃであるかを探り合っていた。


 王子が乳首を苛立たせていると、目元以外を乳衣で覆った高貴なる乳の者が歩み出てきた。


 その乳衣の表面には、柔らかそうな無数の乳石にゅうせきが編み付けられている。


「わたちちの乳こそ、この国一番の濃い乳汁を出しまする」


 その乳房に、王子は見覚えがあった。類稀なる巨大さと、その大きさにもかかわらず真球を保っている超巨大乳房だ。だが肝乳かんちちの、彼乳かのにゅの名前が思い出せない。


「ほほぅ、良い乳をしておるではないか。そち、名を何と申す?」

「乳王様と同じく、バスティにございます」


「御乳上!?」


 その者の乳頭にゅうとう乳袋ちちぶくろを破って突き出し、まるでニプル山の噴乳のごとく乳汁を噴き出しながら、今にも爆ぜんばかりの超巨大美乳が露わになった。


「これからは、好きなだけお呑みくださいませ」

「なんと!」


 生まれてこの方、待ち望んでいた超巨大美乳が今、目の前に迫っていた。


 ぷっくりとした乳輪と乳頭は恥じらい、紅く染まっている。

 そしてその紅からは、見るからに濃く濁った白い雫が、薄橙色の乳房を伝って滴っていた。


「御乳上……よろしいのですか?」


 その乳房は今にも爆ぜんばかりに膨らんでいた。

 この乳はわちに呑まれたがっておる。そうに違いない。


「さぁ、お口元をこちらへ」


 ゴクリと、唾液の塊が喉元を下っていく。


 乳座から立ち上がり、両乳を掴まんと両手を広げ、まずは右乳から吸わんと口を尖らせて、一歩一歩踏みだしていく。


「待たれよ!」


 背後から、聞き馴染みのある声が投げかけられた。


「フェリンではないか」


 彼乳の美巨乳は、さらに大きくなっていた。おそらく乳渡りに出て、世π中の乳汁を飲んできたために成長したのであろう。


 ではなにゆえ、わちの乳は幼乳ようにゅうのままなのじゃ?


「バスティ王子は、乳渡りの旅を心乳こころちち半ばで吐き捨て、一谷ひたにで帰っていってしまったのでございまする」


「なんじゃと? それは真乳まこちか?」

「ぱい」


「あの……乳上……?」


 乳王の左右の乳房が、バチンバチンと打ち鳴らされた。

 その双球は充血して真っ赤に染まり、浮き出た血管がドクンドクンと脈打ち始めた。


「この、つるつるぺったんこぉぉおお!!」

「ひぃっ!」


 乳王の顔が膨れあがり、群れる乳房へと変貌していく。


 両眼が、鼻が、唇が、指が、毛先の一本一本までが、乳房へと変わっていく。


 ブクブクと膨らみ続ける乳房たちによって天井が突き破られ、柱という柱が折れて床が抜け、跡形もなく乳宮にゅうぐうが崩れ落ちていった。


 乳臣や乳官、乳民の語り乳にて古来より伝わる、この世の創造神。


「……乳神ちちがみ様」


「貴様ノヨウナ貧乳ハ、乳汁ニシテ吸ッテクレルワ!!」


 巨大を超えし、四つん這いの大怪乳だいかいにゅうが、王子の方へと突進してきた。


 王子は乳神に背を向け、乳目散ちちもくさんに走った。


 地表が揺れ、逃げるのもおぼつかない。それでも揺れぬ乳を揺らしながら走った。


 振り返ると、その乳房という乳房から乳汁が噴射され、π地に乳海にゅかいが生まれようとしていた。


 王子の体にも白い波飛沫が降りかかる。そして、そのぬめりによって王子は躓き、転んでしまった。


 乳波ちなみに呑まれ、足掻き、手を掻き、溺れながら、やっとの思いで乳面にゅうめんから顔を出す。


「お許しを! どうかお許しくだされぇっ!!」


「ニ゛ュニ゛ュニ゛ュニ゛ュニ゛ュニ゛ュ――」


 乳神は、もはや言葉にならぬ言葉を呻きながらその乳房を伸ばし、偽りの乳王の体を摘まみ取ると、口元まで運び、しゃぶり飲んだ。


「ふぎゃっ!」


 滑り込んだ体内もまた、無数の乳房で埋め尽くされていた。


 その消化器官の乳壁ちちかべに体を抑えつけられ、全身が乳汁まみれになりながら、吸盤のような乳房に体液を吸われて、体がみるみる萎んでいく。


 『乳は呑んでも、呑まれるな。乳を呑むとき、乳もまた、そちを呑み込んでおるのだ』


 王子は乳守から教わった巨訓きょくんを思い出しながら、柔らかい圧力の中で、己の死を覚悟した――



 そこで、バスティ王子は目を覚ました。


 顔には美巨乳が押しつけられている。この弾力、色、形や匂いは乳守フェリンの美巨乳だ。


 王子は力いっぱい彼乳の体を脇に押しやると、乳布団にゅふとんから這い出た。


 宵闇に、乳灯の微かな光が揺らいでいる。


 下の乳にむず痒さを感じた王子は、部屋を出て、廊下を渡った。

 すると戸の向こう側から、何乳かの談笑する声が聞こえてきた。そこは、乳王の寝室だった。


 戸の間隙から、中の様子を覗いてみる。そこには大ぶりな一つの谷間と、それよりは小ぶりだが、目を引き付けるほどの四つの谷間があった。


 乳王のほかに、何日か前に乳宮へと参上した四谷の使者がいた。


 その中の一谷が、豊満な乳房を向けながら、乳王に話しかけている。


 しかもなんと彼乳は、あろうことか乳王の左乳房を揉んでいるではないか。乳君がおらぬのをよいことに。


「――わたくちは、この乳に命を救われたのでございます。あの時に頂戴した乳を超える味は、齢三十にして、とんと記憶にございませぬ」


「ならば、今一度呑んでみるか?」


 乳王は乳衣を開くと、その艶やかなる超巨大美乳を露わにした。その大きさたるや、双子の頭が並んでいるかと思われるほど。


 王子が夢で見たものと同じ、いや、それ以上の迫力だ。天下随一の名乳、ここにあり。


 あの超巨大美乳に鎮座する、巨大美乳首を吸ってみたい。乳器を介した間呑みではならぬ、直呑みでなければならぬ。たった一度でも良い。御乳上の温もりを、この舌でもって感じてみたい。


「よろしいのですか!? 明日には成乳せいにゅうの儀もございますゆえ――」

「良い、良い。乳溜ちだめのおかげで張ってしまってかなわん。ほれ、味見せい」


「しからば、頂戴つかまつりまする」


 その使者は、垂れ下がった長い乳を床に擦らせながら近付くと、乳王の膝の上に頭をもたせかけた。


 使者の唇が巨満なる乳房に吸い付く様を見るや、王子は微かに呻き声を上げて目を逸らし、その乳首を背けた。

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